参議院内閣委員会で「新型インフルエンザ対策特別措置法案」の審議が行われていた。初回は4人の専門家を参考人として招き、なぜ法案が必要なのか、これで十分か、どこが課題かをただした。
2回目の質疑には2009年の「新型」インフルエンザ流行時に厚生労働相だった舛添要一議員が飛び入り参加した。
審議している法案にある「新型」の想定と09年の「新型」は違うものだ。
09年のウイルスは「H1N1型」で感染力は強いが、結果として重症化する例は少なかった。これに対し、法案が主に想定するのは強毒性の鳥インフルエンザ(H5N1型)である。これが変異し、人から人への感染が起きると、国民の大部分が免疫を持たないため、爆発的に流行し、多数の死者が出る恐れがある。
09年当時の政府には「H5N1型」を前提にした行動計画しかなかった。結果として必要以上の規制や措置を講じ、現場を大混乱させることにもなった。
その反省から、今後は季節性インフルエンザと「新型」の病状を比較し、その強弱に応じ対応を変えることにした。
法案の要は、強毒性で「全国的かつ急速にまん延し、感染したら重篤(じゅうとく)になる恐れがあり、国民生活および国民経済に重大な影響を及ぼすような」場合である。
政府はこのとき緊急事態宣言を発する。その場合、緊急措置を実施すべき期間、対象地域、具体的対策が示される。
実施期間は原則2年以内とし、さらに必要な場合は最長1年間延長できる。
緊急事態となると行政は、対象地域の住民に外出の制限を求めたり、人が集まるような施設の使用制限や催し物の中止などを要請したりすることになる。
感染拡大を少しでも阻止するために国民には我慢してもらう。感染機会を減らすことで大流行を遅らせ、その間にワクチンの開発・製造を進める。それが被害を抑える早道だ、との考えは分かる。
だが、場合によっては、行政が医師などに医療行為を指示したり、行政が土地所有者の同意なしでも臨時の医療施設を開設したりできると規定している。
問題の一つは、さまざまな制限がある緊急事態の解除条件が法案では明確でないことだ。舛添元厚労相は当時も解除の時期の判断が難しかったと話した。
逆に言えば、新型インフルエンザの流行を口実に国は長期間、国民にさまざまな制約を課すこともできることになる。
運用次第では国民に害をもたらす。そうならないように国会は政府の考えをただし、歯止めをかけておく必要がある。
最悪の事態に備える。東京電力福島第1原発事故の教訓だ。同時に、国民の権利の制限にかかわる問題であり、国会での丁寧な議論を通じて国民の理解と協力を得る必要がある。参院の議論は続くかと思ったが、2回で終わってしまった。
衆議院でも3月に内閣委員会が2回開かれて計5時間の審議で法案は可決された。衆参両院ともあっさりしすぎだ。
=2012/04/20付 西日本新聞朝刊=