就職戦線の厳しい中、労働者の支援窓口に「会社をやめたくてもやめさせてくれない」という奇妙な相談が増えている。「辞表を拒否された」「損害賠償を払えと脅された」「あきらめて働き続けている」…。多くは20~30代の正社員だ。何が起こっているのか。
民法627条は「雇用は解約申し入れから2週間で終了する」としている。会社は申し入れを拒否できない。ところが、東京都の相談窓口でこの種の相談が数年で4割増えて昨年は668件になった。NPO法人「労働相談センター」も2年で3倍になったという。実態はこういうことだ。
★福岡の佐藤さん(仮名)は1か月前、IT企業に退職届を出した。3年前に仕事のミスで会社が損失を出した。以来、その補填に給料の3分の2を天引きされ3年間で600万円。 親から借金して暮らしてきたが限界だった。社長は「退社は認めない」といったが、佐藤さんは2週間後に出社をやめた。
すると会社は、失業保険の給付手続きに必要な「離職票」を出さない。会社はやめた翌日から10日以内に出す義務がある。それが20日を過ぎても出ない。ようやく離職票が来たが、退職理由が「懲戒解雇」になっていた。再就職に影響する。明らかに嫌がらせ。「頭を下げて戻ってくると思っているんでしょう」と佐藤さん。
★過労で体をこわした栄養士は、給食をつくらないとという義務感でやめられないでいる。代わりがいないのだ。
★20代の女性は辞表をびりびりと破られ、「バカ」といわれた。
★男性。「自己退職は認めない。懲戒解雇にして業界で活動できないようにしてやる」と脅された。
★女性看護師。上司から「やめられると私の管理責任になる」と引き止められた。
★20代の番組制作会社員。「給与カットを認めるよう誓約書を書け。でないとやめさせない」
★30代の男性。上司への恩義と再就職への不安で言い出せずにいる。「追い詰められて逃げ場がない感じ」という。
★30代の男性は8年勤めたIT企業を退職した。課長職で深夜まで働いたが業績が上がらず、過労で倒れた。それでも社長は「退社は認めん」と部屋に缶詰め。鬱状態との診断書をとって出社をやめた。4か月後、訴状が届いた。2000万円の損害賠償請求だった。理由は「課長になった5年前からの売り上げの落ち込みと、ノルマの達成や管理業務を怠った」というもので、仕事をカバーした管理職の給料分まで請求していた。弁護士は「業績の低下は経営の責任。社員に押し付けるのは不当だ」という。京都地裁は会社の請求を退け、逆に未払い賃金1000万円を払えとの判決を出した。来月(2012年5月)控訴審の判決がある。
(続く)
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