神風防衛大臣政務官インタビュー

2011年の自衛隊は、東日本大震災における災害派遣、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処、ハイチ国際平和協力業務など、例年にも増して活動する姿が目立ちました。その能力が高く評価される一方で、さまざまな問題に直面した年でもありました。2012年の自衛隊への期待から、次期主力戦闘機の選定、武器輸出三原則などの課題まで、多彩な角度から神風英男防衛政務官とジャーナリストの桜林美佐さんが語り合いました。

与えられた条件の中で最善を尽くすのが自衛官

――2011年は自衛隊の活動が注目された1年でした。政務官として、ジャーナリストとして、お2人が感じた率直な思いをお聞かせください。

神風英男政務官(以下神風):私は父親が自衛官だったので、今こうして防衛政務官の職に就いていることに不思議なご縁を感じます。桜林さんは10年ほど前から自衛隊や国防問題を専門とされるようになったそうですね。自衛官と直接話して印象深かったことはありますか?

桜林美佐さん(以下桜林):実情が外に伝わりにくい組織だなと思いました。組織の問題点も隊員個人の思いも、一切が外に出て来ない。そこには組織の構造的な問題もあるでしょうし、苦労や不満は言わないという隊員の美意識もあるのでしょうね。

神風:与えられた条件の中で最善を尽くすのが自衛官ですからね。東日本大震災の復興・復旧活動を見ていても頭の下がる思いがしました。苦しいことも多々あったはずです。自衛官のご両親からうかがった話ですが、被災地に入ったお子さんから届いた間もなく帰るというメールの最後に、「帰っても何も聞かないでくれ」と。口にするのが苦痛なほど大変な状況だったということしょう。

桜林:お邪魔になっては申し訳ないと現地取材はしないつもりでしたが、担当しているラジオ番組のリスナーから「被災地で頑張ってくれている自衛隊の話が聞きたい」という要望があり、急きょ行ったんです。現地では自衛隊が被災された方からどれほど頼りにされているか、目の当たりにしました。そして隊員たちはやはり、どんな苦悩も発信することはせず、ただ黙々と働いていて。

神風:国民のために黙って汗を流す姿は今までもこれからも変わらないでしょうが、自衛隊が頼りにされるという現在の風潮は、私の父親の時代とは雲泥の差がありますね。ところで桜林さんは防衛産業にも精通していらっしゃるため、防衛生産技術基盤研究会でもご活躍いただいています。

桜林:防衛産業という言葉はどうしてもダークなイメージになりがちですが、実はこれがなくなってしまうと国力自体が弱まってしまうというほど大事なものです。高性能な戦闘機も戦車も潜水艦も、数千社にも及ぶ町工場が関わっています。予算の削減のしわ寄せはすべてそういう零細企業に向かうわけで、防衛基盤もさることながら、日本の中小企業の未来にも危機感を抱いています。それに日本に技術がなければ共同開発にも加われないし、買うにしても足元を見られてどんどん値がつり上がってしまいます。2012年は防衛産業についても色眼鏡なしで語れる環境ができたらいいですね。

神風:確かに日本では防衛産業というと変な目で見られるケースが多いです。小さな工場が最先端の技術を持っているなど、日本の防衛産業は世界に誇れるものであることがあまり知られていないんですよね。 2011年は次期戦闘機FXの選定作業も行われましたが、1つでも多くの企業に維持発展、育成できるような体制を作ってもらいたいというのがわれわれの願いですから、選定はそこも加味しながら進めなければいけないと思っています。

――2012年の自衛隊に、そして自衛隊を取り巻く環境に期待するものはなんでしょうか。

桜林:自衛隊への災害派遣要請の壁が低くなり、軽いものになりつつある気がします。災害派遣の要件である公共性、緊急性、非代替性を満たしているのかという確認をするまでもなく要請しているような面も見受けられ、「何かあれば自衛隊がやってくれる」という依存心が高まっているのではないでしょうか。2012年は各自治体に、この点について改めて考えてもらえればと思います。それからもうひとつ、政治に期待するのは武器輸出三原則の問題です。今の日本はまだ技術を持っていますが、来年、再来年には消えてしまうものも出て来るかもしれないという危機にありますから、一刻も早く新たな基準を取りまとめていただきたいですね。日本だけが持つ技術を有効なカードとして国際社会で使えるか否か、今はまさにその瀬戸際に立たされていると思います。

神風:普天間飛行場の問題、FXの問題、そして桜林さんもおっしゃった武器輸出三原則の問題は、2011年終わりに向けて詰めなければいけない話です。2012年にはそれらのいずれも方向性が確立された状態で、さらに明確なビジョンが示せる形にしたいなと思っています。

桜林:自衛隊は、日々の訓練が最大の任務ではないかと思うんですね。世の中ではなかなかその部分は知られにくく、どうしても災害派遣とか海外での活動など目立つ部分に注目が行きがちです。けれど基地や駐屯地に残って少ない人数で通常業務をこなす留守部隊の存在があってこそ、それらの活動が可能なわけです。すべての人が一体になって、初めて自己完結の自衛隊という組織が成り立つので、新しい年も引き続き頑張っていただきたいと思います。

神風:東日本大震災では松島基地が被災し、F-2という戦闘機が18機水没しました。そのときかなり多くの人から、なんでそんな状況になったんだ、戦闘機だから飛べばよかったじゃないかという声が上がりました。スクランブル態勢にあれば5分で飛び立つことができますが、そうでなければ止まっている戦闘機を空に上げるための準備は最低1時間かかり、整備員も1機につき 3人は必要です。

桜林:そういう事情を知らずに言っていたのでしょうね。

神風:うちの父親が奉職していた時代から比べれば、自衛隊は中身も国民の皆様からの見え方も変わりましたし、自衛隊に対する期待はますます高まっています。2011年で20年を迎えた国際協力活動でも、自衛隊が求められる役割は、今後さらに高度かつ多岐にわたっていくでしょう。 2012年も自衛隊員には国民の期待に応えられる活動をして欲しいと同時に、国民の皆様にも自衛隊を応援していただきたいと思います。


文/渡邉陽子 撮影/荒井健
(MAMOR 2012年3月号より)

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