マンスリーエッセイ

最新エッセイ

【第77回】 『サニー〜永遠の仲間たち』


【第77回】 『サニー〜永遠の仲間たち』

倉内均



 CJ Entertainment Japanが5月に公開する『サニー〜永遠の仲間たち』は、こころ震えるエンターテインメントになっている。
 主人公は40代前半の主婦ナミ。ある日、ナミは母の入院先で高校時代の友人チュナと再会する。重病で余命幾ばくもないチュナに女子高時代の仲間を引き会わせようとナミは仲間探しを始める。
  彼女たちが女子高校生だった1986年当時と25年後の現在とを交錯させながら描くこの作品は、70〜80年代ポップスを全編に使いながら軽快なテンポで運ぶ展開で、韓国で740万人を動員する2011年の大ヒット作になった。
 高校時代、彼女たちは「サニー」と名づけた7人のチームで、歌やダンスやライバルチームとの抗争に明け暮れながら輝いた日々を送っていた。
 25年後の現在、40歳を過ぎた彼女たちの人生はそれぞれ悲喜こもごもで、いまの韓国社会の女性たちのひとつの縮図となっている(ように見える)
 80年代に高校生だったという設定は秀逸で、おりしも韓国では全斗煥軍事政権下での民主化運動の嵐が吹き荒れていた時代設定である。映画のなかにも学生たちが機動隊と衝突するシーンがあり、彼女たちはそのなかに巻き込まれながらも¨ポップに¨くぐり抜けている。
 戦後を必死に生きた彼女たちの親たちの世代でもなく、また社会変革を志す学生でもない、80年代アメリカンポップスとファッションという「愛と希望」に青春を捧げる世代の物語として、群像劇の形をとって、すなわち塊として世代論を提出したことにわたしは新しさを感じる。この世代がいまの韓国の経済や社会の中心軸を形成していることをアピールしたのだと思う。中心軸であるからこそ抱える矛盾も大きい。自らの80年代が甘い夢に満ちていた分、現在はほろにがい現実のなかにいる。有名俳優も出ない、多額の宣伝費もかけないこの映画が韓国で大ヒットした理由もそこにあると思われる。懐かしさとともにそこへの共感が人びとを泣かせたのだろう。
 監督は前作『過速スキャンダル』に次いで2作目の若手カン・ヒョンチョル。前作と同様監督自身の世代を描くこの映画は、時代劇や南北の緊張や恋愛や暴力といったこれまでの韓国映画のテーマと一線を画している。
 韓国映画の新しい潮流になるかもしれない予感がある。


(2012年3月)