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小沢元代表無罪 今後の政局は
4月26日 21時20分
みずからの政治資金を巡って収支報告書にうその記載をしたとして強制的に起訴された民主党の小沢元代表に、東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。
無罪判決を受けて、小沢元代表に近く消費税率引き上げ法案に反対する民主党内の議員が勢いづく一方、自民党など野党側は小沢元代表の証人喚問を含め説明責任を果たすよう求めており、野田総理大臣は難しい対応を迫られることになります。
無罪判決の理由は
まず今回、無罪判決となった最大のポイントは、小沢元代表と元秘書らとの共謀が認められなかったことです。
共謀というのは、本人は実際の行為には関わらないものの、違法だという共通の認識を持ってほかの者が実行した場合などに問われます。
裁判所は今回そういった事実が認められない、いわば裁判所の「ハードル」を越えていないと判断しました。
共謀を認めるかどうかの「ハードル」については今回の判決でも繰り返し指摘されていますが、例えば「ああそうか」という小沢元代表の「了承」のことばを超えるような強い証拠がなかったということだと言えます。
裁判所は、「共謀があったことを疑うそれなりの根拠はあるが、元代表が具体的な事情を知らなかった可能性があり、違法だと認識していたとは言えない」と指摘して無罪としました。
つまり元秘書らとの日頃の関係など共謀が疑われるような状況的な証拠はあるが、小沢元代表が不正だと分かったうえで積極的に関わったとまでは言えないので、有罪とは言えないと判断したというわけです。
法律の専門家からは、「小沢さんが一連の事件に関わっている疑いがあるというのは裁判所も認めていると思う。ただ証拠上、小沢さんに罪を認めるだけの証拠は足りないという判断をしているものとみられる」という指摘が出ています。
裁判や司法への影響は
小沢元代表の有罪を主張してきた指定弁護士は、控訴するかどうかはこれから検討したいと話しており、期限の2週間以内に判決の内容を十分検討して決めるものとみられます。
一方で今回の判決は、検察の捜査についても強く批判しました。
今後、捜査の詳しいいきさつなど捜査の在り方が問われることになると思います。
また、検察審査会の強制起訴の裁判で無罪が続いていることについても、議論を呼ぶとみられます。
3年前に検察審査会の議決に法的拘束力がつけられてから、これまでに強制起訴は6件ありますが、ここまで重大な事件で強制起訴が続くのは、想定されていなかったとも言われています。
沖縄の1件目の裁判に続いて、2件続けて無罪が言い渡されたことになりますので、判決は検察審査会を巡る議論にも影響を与えることになります。
政界の反応は
小沢元代表への無罪判決について、民主党内の受け止めは二分しています。
小沢元代表に近い議員からは「無罪判決は当然だ」、また、「小沢氏には、さらに活躍してほしい」などと、歓迎する声が相次いでいます。
これに対し、小沢元代表に距離を置く議員は表立って発言するのを避けているようですが、消費税率引き上げ法案などへの影響を懸念する声が出ており、前原政策調査会長は、「小沢氏には、野田政権としてやらなければいけない政策に協力していただきたい」とけん制しました。
一方、野党側からは、自民党の石原幹事長が、「小沢氏がこれまで『ない』と言っていたことが、判決では認定されており、限りなく黒に近いグレーだ」と指摘するなど、国会での説明責任を果たすべきだとして、証人喚問を求める意見が出ています。
元代表の党員資格停止処分は
小沢元代表の党員資格停止の処分については、民主党の輿石幹事長が早ければ来月7日の役員会で、解除に向けた手続きに入る考えを示しています。
これに対し前原氏は、判決の確定を待って検討すべきという考えを重ねて示すなど異論も出ており、手続きが速やかにとられるかが当面の焦点となります。
一方、野党側が求める小沢元代表の国会招致について、輿石幹事長は無罪判決という結果が出されたとして応じる必要はないとしており、今後、与野党攻防の材料の1つになることも予想されます。
今後の政局の焦点は?
焦点はやはり、消費税率引き上げ法案の行方です。
野田総理大臣は「何があろうとぶれずに進める」と周辺に述べており、あくまでも今の国会で成立を目指す考えです。
これに対し小沢元代表は、「不景気のときの増税はありえない」として、法案に反対する姿勢を鮮明にしていて、無罪判決を受けて小沢元代表に近い反対派の議員らが勢いづき、法案の行方に影響が出るのは必至です。
このため党内からは、深刻な党内対立を避けるためには、法案の採決を先送りするしかないという意見も出始めています。
そうしたなかで衆議院の解散・総選挙を求める自民党の谷垣総裁は、「野田総理大臣の覚悟が問われている」と述べ、今回の判決を受けた政府・与党の対応を見守る考えを示すとともに、内閣不信任決議案を念頭に置いた小沢氏との連携に否定的な考えを示しました。
谷垣総裁としては、野田総理大臣が小沢元代表と決別してでも法案の成立を図るという覚悟を明確に示し、衆議院の解散・総選挙を受け入れるのなら「自民党も協力できる」という姿勢を改めて示すねらいがあるものとみられます。
こうしたことから、大型連休明けに審議入りする消費税率引き上げ法案の取り扱いを巡って、今後、与野党の枠組みを超えた駆け引きが活発になるものとみられます。
法案に政治生命を懸けるとした野田総理大臣は、一段と難しい対応を迫られることになります。