【社説】崔時仲事件にみる韓国の大統領選資金問題

 崔時仲(チェ・シジュン)前放送通信委員長が、ソウル市瑞草区良才洞で建設が進められている複合型物流団地の施工業者「ファイシティー」の関係者から数億ウォン(1億ウォン=約716万円)を受け取った事実を認め、その資金の使い道について「2007年の大統領選挙の際、世論調査や選挙動向の分析などに使った」と説明していることが分かった。取り調べの際、崔前委員長は「大統領府は私を守ってくれないのか」という意味合いの発言もしていたという。

 02年の大統領選挙の際、民主党から出馬した盧武鉉(ノ・ムヒョン)候補は274億ウォン(約19億5400万円)、ハンナラ党の李会昌(イ・フェチャン)候補は226億ウォン(約16億1200万円)の資金を使ったと選挙管理委員会に報告し、政府は後に両候補にこれらの資金を返還した。ところが後に検察が調べたところ、盧候補は113億ウォン(約8億1000万円)、李候補は823億ウォン(約58億7100万円)を大企業などから別に受け取っていたことが分かった。そのほかにも、検察が明らかにできなかった資金はさらにある可能性もささやかれている。

 また、07年の大統領選挙ではハンナラ党の李明博(イ・ミョンバク)候補が372億ウォン(約26億5400万円)、民主党の鄭東泳(チョン・ドンヨン)候補は390億ウォン(約27億8200万円)を使ったと報告した。02年の時点で大統領選挙に必要な資金は1000億ウォン(約71億円)を上回っていたが、それが5年後には3分の1にまで減ったと言われても、その言葉を信じる国民は1人もいないだろう。李大統領はその後も機会があるたびに「大統領選挙のときは大企業から一銭も受け取っていない」と強調し「私たちは道徳的に完璧な政権だ」と繰り返してきた。

 過去の選挙の際、確かにハンナラ党の選挙本部は各選挙区の事務所に選挙資金を送るようなことはしていなかった。しかし、候補者の秘書たちが各自の得意分野で選挙資金を集めていた事実は、秘密でも何でもなかった。民主党も同じように、さまざまな企業から支援を受けていたが、これも特別な秘密ではなかった。

 韓国では大統領選挙で有権者の15%以上から得票した候補者に対しては、法律で定められた限度内で後に選挙資金を補填(ほてん)している。しかし実際の選挙では、どの候補も数百億ウォン(100億ウォン=約7億1000万円)規模の資金をさまざまな形で調達し、使ってきたのはもちろん、非公式の選挙組織も、法律により定められていない資金を使って活動してきた。何の見返りもなしに数億、数十億ウォン単位の資金を他人に提供する人などいない。資金を提供する側が政党を支援する理由は、後に何らかの便宜や利権を期待してのもので、ある意味、先払いのようなものだ。これは崔前委員長の証言により、改めて浮き彫りになった。

 現在の大統領選挙制度での資金集めは、候補者と非常に近い人たちが、候補者の威光を借りてさまざまな分野から資金を引き出すような形となっている。このような制度が続く限り、政権末期になって大統領の側近が順に検察に呼び出されるようなことは、今後も繰り返されるだろう。今回の崔時仲事件を通じて、韓国の大統領選挙での資金集め問題が改めて浮き彫りになったが、今回も過去と同じく本質的な問題にはフタをし、とかげのしっぽ切りのような形で捜査を終わらせてしまうようでは、その影響は後にまた吹き出すだろう。

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