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2012年4月27日(金)付

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小沢氏無罪判決―政治的けじめ、どうつける

 民主党の元代表・小沢一郎被告に無罪が言い渡された。

 これを受けて、小沢氏が政治の表舞台での復権をめざすのは間違いない。民主党内には待ちかねたように歓迎論が広がる。

 だが、こんな動きを認めることはできない。

 刑事裁判は起訴内容について、法と証拠に基づいて判断するものだ。そこで問われる責任と、政治家として負うべき責任とはおのずと違う。政治的けじめはついていない。

 きのう裁かれたのは、私たちが指摘してきた「小沢問題」のほんの一部でしかない。

■「うそ」は認定された

 私たちは強制起訴の前から、つまり今回の刑事責任の有無にかかわらず、小沢氏に政界引退や議員辞職を求めてきた。

 「数は力」の強引な政治手法や、選挙至上主義の露骨な利益誘導などが、政権交代で期待された「新しい政治」と相いれない古い体質だったことを憂えればこそだった。

 3人の秘書が有罪判決を受けたのに国会での説明を拒む態度も、「古い政治」そのものだ。

 そして本人への判決が出たいま、その感はいよいよ深い。

 判決は、小沢氏の政治団体の政治資金収支報告書の内容はうそだったと認めた。それでも無罪なのは、秘書が細かな報告をしなかった可能性があり、記載がうそであると認識していなかった疑いが残るからだという。

 秘書らの裁判と同じく、虚偽記載が認められた事実は重い。しかも判決は、問題の土地取引の原資が小沢氏の資金であることを隠す方針は、本人も了承していたと認定した。

 資金の動きを明らかにして、民主政治の健全な発展をめざすという、法の趣旨を踏みにじっているのは明らかだ。

 小沢氏は法廷で、自分の関心は天下国家であり、収支報告書を見たことはないし、見る必要もないと言い切った。

■説明責任を果たせ

 これに対し私たちは、政治とカネが問題になって久しいのにそんな認識でいること自体、政治家失格だと指摘した。判決も「法の精神に照らして芳しいことではない」と述べている。

 まさに小沢氏の政治責任が問われている。何と答えるのか。無罪判決が出たのだからもういいだろう、では通らない。

 この裁判では争点にならなかったが、秘書らに対する判決では、小沢事務所は公共工事の談合で「天の声」を発し、多額の献金や裏金を受けてきたと認定されている。

 小沢氏は一度は約束した国会の政治倫理審査会に出席し、被告としてではなく、政治家として国民への説明責任を果たすべきだ。

 民主党にも注文がある。

 輿石東幹事長はさっそく、小沢氏の党員資格停止処分を解除する考えを示した。だが、党として急ぐべき作業は別にある。

 「秘書任せ」の言い訳を許さず、報告書の内容について政治家に責任を負わせる。資金を扱う団体を一本化して、流れを見えやすくする――。

 今回の事件で改めて、政治資金規正法の抜け穴を防ぐ必要性が明らかになったのに、対策は一向に進んでいない。マニフェストに盛った企業・団体献金の廃止もたなざらしのままだ。

 こうした改革を怠り、旧態依然の政治の病巣の中から噴き出したのが「小沢問題」だ。これを放置する民主党の姿勢が、政治と国民との亀裂を広げていることに気づかないのか。

 小沢氏の強制起訴によって、人々の視線が司法に注がれ、刑事責任の有無ですべてが決まるかのように語られてきた。

 だが、判決が出たのを機に、議論を本来の舞台に戻そう。これは根の深い政治問題であり、国会で論じるべきなのだ。

 それを逃れる口実に裁判が使われるようなら、検察官役の指定弁護士は、控訴にこだわる必要はないと考える。

 検察審査会が求めたのは、検察官の不起訴処分で終わらせずに、法廷で黒白をつけることだった。その要請は果たされた。さらに公判で明らかになった小沢事務所の資金管理の実態などは、今後の政治改革論議に貴重な教訓を提供してくれた。

■検察は猛省し謝罪を

 この裁判は、検察が抱える深刻な問題もあぶり出した。

 捜査段階の供述調書の多くが不当な取り調べを理由に採用されなかったばかりか、検事が実際にはなかったやり取りを載せた捜査報告書まで作っていた。あってはならないことだ。

 法務・検察は事実関係とその原因、背景の解明をいそぎ、国民に謝罪しなければならない。「検察改革」が本物かどうか、厳しい視線が注がれている。

 気になるのは、小沢氏周辺から強制起訴制度の見直しを求める声が上がっていることだ。

 ひとつの事例で全体の当否を論ずるのはいかにも拙速だし、政治的意図があらわな動きに賛成することはできない。

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