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新川和恵「わたしを束ねないで」の授業

                                                                      TOSS春日井 竹田博之

 1時間で完了する「わたしを束ねないで」の授業。自由を願う作者の力強い願いをつかませる


 三年の教科書(光村)の最後に掲載された作品。

 改訂後の教科書では三年の最初に配置されている。

 年度当初の生徒の気持ちと、作者の自由・解放に向けた力強い願いを重ねて読ませたい。

わたしを束ねないで   新川和江

わたしを束ねない./あらせいとうの花のように/白い葱のように
束ねないでください わたしは稲穂/秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色の稲穂

わたしを止めないで/標本箱の昆虫のように/高原からきた絵葉書のように
止めないでください わたしは羽撃き/こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音

わたしを注がないで/日常性に薄められた牛乳のようにぬるい酒のように
注がないでください わたしは海/夜 とほうもなく満ちてくる
苦い潮 ふちのない水

わたしを名付けないで/娘という名 妻という名/重々しい母という名でしつらえた座に
坐りきりにさせないでください わたしは風/りんごの木と
泉のありかを知っている風

わたしを区切らないで/, . いくつかの段落/
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには/
こまめにけりをつけないでください わたしは終りのない文章
川と同じに/はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩

まず一行ずつ順番に音読させる。6行の5連で30名に読ませることになる。

1連では理解できない内容も、同じような組み立てで5連あるとある程度言いたいことも伝わってくる。

発問 この詩を見て、何か気が付くことはありませんか。見て気がつくことを言えばいいんですよ。

・  「同じパターンの繰り返し」「句読点がない」といった意見が出る。

指示 確かに句読点がありません。
   では自分の思うように句読点をつけてみなさい。

 句読点がなく、倒置法を用いた詩に対しては、この指示は有効である。

 再度1行ずつ順番に音読させる。その際に「テン、マル」と言わせていく。

 倒置法を踏まえているか(つまり、この詩をどう理解しているか)が分かる。「えー」という声も時々上がる

 次のように板書し、生徒が読んだように句読点を付けていく。

 すると、どの行にテンが多いか、マルが多いかが分かる。

 わたしを○○ないで
 
○○のように 
 
○○のように
 ○○ないでください わたしは○○
 ・・・・・
 ・・・・・・

句読点はいろんなパターンで発表される。

5連あるが、型は同じなので、

「どの連もほぼ同じ句読点の付き方になるように考えてください」

「連ごとに同じ行の部分がマルだったりテンだったりしていないか見直してください」

逆に言えば、各連の句読点の付け方がバラバラの人は間違っているということですよ」と話す。

 (パターン1)・・倒置法なら最初の3行は次のようになる。

わたしを束ねないで、
○○のように、
○○のように。

 

(パターン2)・・冒頭が独立し、2〜4行目がつながっていると考えれば4行は次のようになる。

わたしを束ねないで。

○○のように、
○○のように、
束ねないでください〜。

(パターン3)・・1・2行目がセットで倒置法、3〜4行目がつながっていると考えれば4行は次のようになる。
      ただし、2・3行目の「〜ように」は繰り返しだから、ここで区切れるというのは考えにくい。

わたしを束ねないで、
○○のように。

○○のように、
束ねないでください〜

 

4行目はテンとマルの組み合わせで3通り想定できる。
ただし、5・6行が2行でが完結しているので、C)のパターンは考えにくい。

A) 束ねないでください、わたしは稲穂。

B) 束ねないでください。わたしは稲穂。

C) 束ねないでください、わたしは稲穂、→5行目につながっていく

  

最後の2行は、テン・マルとマル・マルの2パターン出るが、文脈から考えるとテン・マルになる。
そのことは、1連だけでは分かりづらいが、別の連を考えるとテン・マルが適切だと考えられる。
(1連)
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色の稲穂。

(4連)
りんごの木と、
泉のありかを知っている風。

(5連)
川と同じに
はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩

 句読点は1通りには決まらない。

1行ずつ句読点を見ていっても適否は決まらない。

1連を通しての句読点のバランスを考え、どうして、そういう句読点の付け方をするのか理由を考えさせることが大切である。

時間があれば、1連ずつ自分の考えた句読点の付け方で5人に読ませてみる。
 どうしてもこうでなくてはいけないという正解が1つ決められるわけではないことを念をおして次に進む

 

発問 
 ところで、このように句読点がつけられるし、詩だからって句読点をつけていけないわけではありません。
 でも、この詩はやっぱり句読点をつけられないし、つけてはいけないんです。
 
どうして、この詩に句読点をつけられないか分かりますか。

どのクラスでも、5連の表現に気がつく子はいた。 次のように答えれば正解である。

5連に『わたしをコンマやピリオドで区切らないで』とある。だから『わたし』が作ったこの詩にテンやマルがつくのはおかしい。」

 

指示 この詩は同じ連の形式が繰り返されています。繰り返すことで1つの主張を強調しています。
   各連の内容をまとめてみましょう。

 

 わたしを○○ないで   わたしは○○
1連 束ねないで  稲穂(見渡す限り)
2連 止めないで  羽撃き・つばさの音(空の広さ)
3連 注がないで  海・ふちのない水
4連 名付けないで

 風

5連 区切らないで

終りのない文章・はてしなく流れていく詩

各連ごとに少し解説を加える。

1連後半・稲穂だって刈り取れば束ねます。この場合は束ねられない田んぼに広がる稲穂のことだね。

2連前半・(「標本箱の昆虫」は今の生徒にはイメージがわかないようだった。)
     昔は昆虫採集をしたら、標本の虫はピンで止めておいたんですよ。だから「虫ピン」って言うんですから。

3連前半・「注がないで」とある。どうして注いではいけないのですか?
    これは形ある物に注がれて枠にはめられてしまうのは嫌だということを示しています。

   だからこそ、なりたいものが決められた枠におさまらない「ふちのない海」でありたいんですね。

4連前半・「名付けないで」とある。どうして名付けてはいけないのですか。
     これも名付けられることで枠にはめられてしまうことを示しています。
      今でも「あんたはお兄ちゃんだから」「中学生だから」と言われて制約を受けることがあるでしょう。
    特に、この頃は「女は家で子育てをしていればいい」といいような女性に対する制約が多かったのです。

5連前半・「けりをつける」というのは、古典で使う過去の助動詞「けり」のことだね。
    だから、おしまいに「さようなら」をつける手紙と「けりをつける」は同じような意味です。

 

発問 さあ、この5つの連の繰り返しで強調されるイメージは何ですか?
    作者は「どのように生きていきたい」という訴えているのでしょう。

5連で繰り返している概念だから難しくはない。

「自由に生きたい」という意見が出る。「永遠・無限」という意見も出た。
                                                       

説明  昭和4年に生まれた当時の女性は、いろんな意味で束縛され、制約を受けていました。
    だからこそ、「自由に生きたい」という主張をもったこの詩は当時の女性の心に響いたんですね。

説明  さて、この詩は形としては5連で終わっているけれど、本当はもっともっと続く詩で、「以下省略」という意味    のくり返しになっています。だってわたしは「終わりのない文章」でありたいと言っているんですからね。

指示  では、自分たちで、この詩の型に合わせて、続きを書いてみましょう。

 わたしを○○ないで
 
○○のように 
 ○○のように
 ○○ないでください わたしは○○
 ・・・・・
 ・・・・・・



巡視して。よさそうな○○の部分を板書していく。
なかなかいい言葉が出ないクラスでは、別のクラスで出たものをいつか黒板に例を提示した。

わたしを「つながないで」「閉じこめないで」・・・・

わたしは「空」「宇宙」「星」・・・・・・・・・・ 


1連全部書けなくてもいい。前半部でも後半部でもいい、できるところまででいいから書いていくように勧める。

以下に生徒作品例を示す。

★わたしをつながないで

飼い犬のように

わたしをつながないで

わたしは雲

自由に動いてプカプカと浮いている雲

★わたしを閉じこめないで

ペットのように

植木ばちのように

わたしをとじこめないで わたしは星

どこまでも続く無限の空

★わたしを見せ物にしないで

展示物のように

人間のように

見せ物にしないでください わたしは動物

違っているみんなの視線

わたしはなぜここにいるのか

★わたしをはめないで

ジグソーパズルのピースのように

アスファルトのブロックのように

はめないでください わたしは空

形で表すことのできない空

★わたしを閉じこめないで

かごの中の鳥のように

おもちゃ箱の人形のように

わたしは空気

★わたしをあてはめないで

パズルのピースのように

南京錠の穴に入れる錠のように

くっつけないでください

わたしは宇宙

はてしなく広がっていき

たくさんの生命を生む宇宙

★わたしを閉じこめないで

首輪を付けた飼い犬のように

小さなケージに入れられたハムスターのように

わたしを閉じこめないでください わたしは猫

太陽のやさしさを身に受けて

寝ころべる場所を家と呼ぶノラ猫

★わたしを語らないで

活字で記された歴史のように

ダイジェスト番組のように

作らないでください わたしは大樹

足下の暗がりや汚れも誇りにして伸び続ける輝く大樹

★わたしを描かないで 

静止画のように

決められた色で染めないでください

わたしはキャンパス

何度も何度もぬり変わるキャンパス

 


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