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- オーストラリア メルボルンで学ぶ医学専門研修
- 海外留学インタビュー
関西医科大学 5年生 康村博宣さん
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康村さんは最初、物理学を学んでいらしたんですね。
父が医師で、外科、整形外科、リハビリなどのクリニックを開業しています。それゆえか、小さい頃は医師という仕事に就くことにプレッシャーがありました。それで、医学ではなく、好きだった物理学を専攻することにしたんです。研究も好きだったので、大学院にも行きました。
なぜ、医師になろうと思われたんですか。
大学院1年生のときに、このまま研究を続けていくのはどうなのかという疑問が出てきたんです。そこで、将来のことを改めて考え、民間企業や官公庁を回って、就職活動もしました。医学部進学もその選択肢の一つで、少しずつですが、父のすごさが分かってきたんです。父は勤務医時代も苦労していましたし、私が中学2年のときに開業したのですが、クリニックが軌道に乗るまでの5年間ぐらいは大変そうだったんですね。その苦労も見てきて、子どもの頃に感じていた以上にすごい人なんだと気付きました。父の「人の役に立ちたい、社会に貢献したい」という願いの強さが理解できて、私も医師を目指そうと思いました。
海外留学は当初から考えていらっしゃったんですか。
1年生のときに水泳部の先輩がドイツに留学したんです。「日本と違う空気に触れたのは良かった」と聞き、憧れましたが、下級生の頃は勉強や部活動といった日々に追われてしまいました。しかし、5年生になったときに「今年こそは」と思ったんです。ちょうど大学の事務室で、MI留学のパンフレットを見つけ、留学の3カ月前でも申し込みが可能だと知ったんですね。5年生の夏は部活動もありませんので、申し込むことにしました。
留学先にオーストラリアを選んだ理由をお聞かせください。
パンフレットにはイギリスも載っていたんですが、イギリスは遠いですしね。オーストラリアは時差も少ないですし、アメリカやイギリスよりも私の下手な英語を受け入れてくれるんじゃないかなという期待がありました(笑)。実際に留学してみて、そこは期待通りでした。それから、パンフレットに体験者の声が載っていて、山口大学の医学生がホームステイ先のことなどを紹介していたのを読んで、様子がイメージできたことも大きかったですね。ホームステイ先の食事が美味しいということも期待できました(笑)。
留学を申し込まれてから、どんな準備をされましたか。
関西医大では2年生のときに必修で「医学英語」のe-ラーニングがあるんですが、私は英語には自信がなかったんです。留学が決まってから、そのテキストを復習して、単語を覚えたりしたほか、坂尾福光先生の書かれた『英語で診療』も使って勉強しました。
オーストラリアに行って、最初は語学学校に通われたんですね。
メルボルンランゲージセンターに行きました。半年ぐらいの長いスパンで開講しているコースに途中から参加する形になります。レベルが1から3まであり、それぞれにAからCまでのクラスがあります。私は2Aクラスに入りました。クラスの人数は15人ぐらいでした。日本人も半分ぐらいおり、外国語系の専門学校に通っている学生さんが多かったですね。上級のクラスになると、クロアチア人やドイツ人など、英語に近い母国語を話す人たちが多かったようです。
語学学校での研修はどういう内容だったんですか。
最初の5日間はアイエルツの対策テキストやプリント教材を用いて、リスニング、リーディング、ライティング、スピーキング力をそれぞれのレベルに応じて磨いていきます。中級レベルでしたので、分かりやすかったですね。次の5日間はOET準備クラスで、OETの過去問やそれに準じた問題をパートごとに本番形式で解いたりします。そこでは医療英語の実践力を身に付けることを主体としているように感じました。
ホストファミリーはいかがでしたか。
ご主人がイギリス人、奥さんがシンガポール人という家庭で、これまで100人以上のホストファミリーになってきたそうです。日本人にも慣れていらっしゃいましたし、食事も美味しかったですよ(笑)。ただ、奥さんがシンガポールの方だからか、厳しいところもありました。お風呂の使い方や部屋の片づけなどの細かい注意があり、私は片づけが苦手なので、「片付けなさい」と注意されたこともあります(笑)。メルボルン市内の語学学校までは電車で20分ぐらいでしたが、大学病院はメルボルンの郊外ですので、ホームステイ先からは遠くて、バスを乗り継いで1時間半ぐらいかかりました。
大学病院での研修プログラムはどのようにして決まったんですか。
窓口役である病理科のDr.Doeryに興味のある診療科を伝えたら、プログラムを作ってくださったうえで、各科へ仲介してくださいました。そして、Dr.Doeryから紹介を受けたスタッフドクターが指示をくださって、指導医や研修医の手技や外来を見学させていただくという流れです。そのため、プログラムはかなり自由度が高いです。私は将来、内科を志望しているんですが、せっかくの海外なので、日本との違いが分かりやすい診療科や部署を選びました。
実際に研修が始まってみて、どのような印象を受けましたか。
最初はICUに行き、救急患者さんが次々に入れ替わっていくところなどを見学しました。病棟にいる医師も頻繁にICUに来られていましたよ。スタッフの人種が多様なことに驚きましたね。アフリカやインドから移民で来た看護師さんも少なくなく、女医さんや男性看護師さんも多いです。オーストラリア英語の訛りよりもインド人やスリランカ人の英語の訛りの方が分かりにくかったです。
日本語と英語での表現の違いはありますか。
日本の医師は「頑張りましょう」や「お大事に」を頻繁に使いますが、「頑張りましょう」に相当する英語はないみたいですね。「お大事に」は「Take care」ですが、日本の医師ほど使いません。「Take care」の替わりに「Bye-bye」と言うことも多くて、明るい雰囲気でした。
同時期に日本からの医学生はいましたか。
筑波大学の学生がいました。休みの日に情報交換をしたりしましたよ。皆が自分の興味のある科を回れるようになっているし、日本人同士が固まらないような配慮がしてあるので、一緒に回ることはなかったですね。1つの科をほかの国の5、6人の医学生と一緒に回りました。
Dr.Doreyはどんな方でしたか。
病理科の先生なので、各科の先生方に顔が広いんですよ。日本の場合、検査は検査部門として独立していますが、オーストラリアでは病理医が検査の掛け橋になっているので、目立った存在ですし、かっこいいですね。
NICUや小児病棟はいかがでしたか。
日本でも最近は子どもに配慮した小児病棟になってきましたが、オーストラリアでは昔から環境整備が進んでいたようです。壁には水族館を模した絵が描いてありましたし、庭にはジャングルジムもあり、日本との違いを感じました。手術も見学しましたが、手術のスタッフ用の部屋が手術室のすぐ隣にあることに驚きました。スタッフはそこで和気藹々とパンにバターを塗って食べたりしていて、和んでいましたよ(笑)。
産婦人科はいかがでしたか。
病室はホテルのようでした。国民皆保険の日本とは違い、患者さんの間に格差のあることを実感しました。
病棟回診はどんなことをするのですか。
教授や主治医とともに、患者さんの状態を確認し、大まかな経過を追います。研修医も学生に対してフレンドリーで、熱心に教えてくれる方が多かったですね。日本にもオスキーができましたが、医療面接の方法はまだ遅れていると思います。医療面接は向こうの方が定式化されていますし、優れていますね。医療面接の教科書もあるんですよ。ダイアログ形式で劇のようになっており、面白いです。日本の方が医学の知識は高いですし、日本であれば「そんな勉強をするより、医学知識をつけろ」となりそうなので、ギャップを感じましたね。日本の病院に外国人の患者さんが来ることがまだ少ないですが、オーストラリアには様々な国の患者さんが来るので、教科書が必要なのではないでしょうか。
病院食も日本とは違いますか。
量が半端ないですね(笑)。オーストラリアの平均在院日数は日本に比べて短いですが、これは欧米人の方が病気の治りが早いからだとも言われています。スタミナが違うので、早く回復できるのではないでしょうか。
MI留学のサポートはいかがでしたか。
メルボルンは地理が複雑なんですよ。大学病院に移るときに、場所が分かるかどうか不安だったんですが、MI留学のマドレさんがちょうど現地にいらっしゃって、車で送ってくださいました。留学前はホームステイ先に電話をしておいてくださったり、様々な面でサポートしていただき、安心して留学できました。
今回の留学でかかった費用を教えてください。
航空券、ホームステイ費なども含めて50万円ぐらいです。
今、留学生活がどのように役に立っていますか。
5年生にもなると、マンネリ気分になっていましたが、この留学でモチベーションが上がりましたね。留学先でインドネシアやマレーシアの医学生と一緒になったのですが、彼らの国には母国語で書かれた医学の教科書がないんです。彼らが英語の教科書で学んでいると知り、日本語で学習できることは恵まれているんだから、その分、頑張ろうと思いました。また、中国からの医学生は高校のときから留学しているそうで、自立心旺盛なんですね。そういう人たちの姿を見て、初心に帰らなくてはいけないと痛感しました。
ポリクリで、オーストラリアとの違いを感じますか。
オーストラリアでは学生への指導は熱心に行われますが、日本ではどの医師も忙しく、学生と接する時間が取れないのが残念です。
今後のご希望をお聞かせください。
:初期研修は市中の急性期病院に行き、初期対応を学びたいと思っています。将来の専攻としては、考えることや検査が好きなので、内科を選ぶつもりです。病態生理まで考えることのできる医師になりたいですね。父のクリニックを継承することも選択肢の一つです。
留学に当たり、日本から持って行って良かったものはありますか。
まずは聴診器ですね。聴診器があれば、患者さんの血圧測定や聴診の際に役に立ちます。それから日本の医学の教科書は意外に留学生仲間に喜ばれます。もちろん、日本語を理解できるわけではないんですが、日本の印刷のレベルは高いようで、綺麗なイラストが好評でした。外国人はなぜか漢字が好きですね(笑)。話を深めるきっかけになりますので、コミュニケーションツールとして使えますよ。メディックメディアの『病気がみえる』シリーズが特に人気でしたね。日常に必要なものは現地にスーパーもありますので、何でも揃います。
留学の時期としては、5年生がベストですか。
「6年生になったら行こう」と考えていても、6年生になってしまうと、切迫感も出てくるので、5年生で行くのがいいと思います。看護師向けのプログラムもあるので、そこに1、2年生のうちから参加するのもいいですね。
海外留学を考えている医学生にメッセージをお願いします。
「日本で医師をするんだから、海外に行く必要ないよ」と言う人もいますが、海外の医療を見ることで、感染防御など、日本の医療の良さも分かります。私は拙い英語でしたが、スタッフの方々と挨拶することから始め、積極的にコミュニケーションを取っていきました。自分から行動した分、得られるものは大きかったですし、多くのことを学べました。時間があるときに、是非、挑戦してみてください。