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<アメリカの裁判制度>
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アメリカは50の州の集まりである連邦国家です。それゆえ、連邦裁判所と各州裁判所が独立して併存しているので、どの裁判所に訴訟を起こすかということが問題となります。そこで、連邦裁判所と州裁判所の仕組について説明したあとに、裁判管轄について説明します。 |
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連邦裁判所 |
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[a] 連邦裁判所は三審制をとっている連邦裁判所は、三審制の裁判所です。その裁判組織は@地方裁判所 (District Court) A控訴裁判所(Court of Appeals) B最高裁判所(U.S.Supreme Court)の3つです。[b] 第一審裁判所−地方裁判所(District Court)地方裁判所は、一般事件を最初に受理し裁判する機関です。全米 95都市に設置されており、小さな州では1つ、ニューヨークのような大きな州ではNorthern, Southern, Eastern, Westernの4つの地方裁判所が設置されています。この他に、アメリカの国を被告とする事件を扱うU.S. Court of Claims、輸入関税に関する事件を扱うU.S. Court of International Trade、租税に対する不服訴訟を扱うU.S. Tax Courtがあります。[c] 控訴(第二審)裁判所−控訴裁判所(Court of Appeals/Circuit Court (of Appeals))第一審裁判所の判決に不服があり控訴する事件を裁判する機関です。全米を 11の地域とワシントンD.C.に分け(この分けられた地域を「巡回区(Circuit)」と言います)、それぞれに控訴裁判所が設置されています。[d] 最高裁判所(U.S. Supreme Court)控訴裁判所からの上告事件を扱う最終審の裁判所です。州の最高裁判所からの上告事件も扱います。 [e] 裁判官連邦裁判所の裁判官は、すべて大統領に指名され上院の承認を得て任命されます。合衆国最高裁判所の裁判官は 9人(1人は首席裁判官)です。裁判官になる資格は特にありませんが、弁護士としての実務経験のある者から選ばれます(日本とは異なる制度)。これは検事に関しても言え、英米では弁護士から検事、裁判官にあるという制度が機能しています。 |
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州裁判所 |
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[a] 二審制と三審制各州は各自の憲法、法律、裁判制度を持っています。それゆえ、各州によって二審制をとるか三審制をとるかは様々であり、裁判所の名称さえ統一されていません。多くの州は三審制をとっており、アリゾナ州やミシガン州などは二審制をとっています。 [b] 裁判所第一審として大抵の事件を審理する裁判所が州内の主要都市に設置されています。位置づけとしては地方裁判所ですが、州によって呼称が違います。 [c] 控訴審裁判所第一審裁判所の裁判に不服を申し立てる控訴審裁判所が、全州のうち約半分の州に置かれています。かつては第二審にあたる控訴裁判所を置かず、直接最高裁判所に不服申立てをする制度を有する州が大部分だったようですが、次第に三審制が導入されるようになりました。 (→よって、二審制をとる州にはこの控訴審裁判所はありません。)[d] 最高裁判所州の最終審裁判所として最高裁判所 (Supreme Court)が設置されています。これも呼称は様々で、アリーのドラマの舞台となっているBostonの管轄であるMassachusetts州の最高裁判所はSupreme Judicial Courtと言います。[e] 裁判官州の裁判官の選任方法は、選挙により選出する方法、州知事が任命する方法、議会が任命する方法など様々ですが、任命制でも後に選挙を求めるのが通常のようです。このように裁判官と市民との関係について市民の代表という感覚が強く、判事は市民からとても人気があるといわれています。また、資格要件もさまざまで、弁護士資格を要する州のみでなく、不要な州もあります。任期制で定年があります。 |
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裁判管轄 |
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上記のように連邦裁判所と州裁判所とが併存するため、いかなる時にどちらの裁判所に訴えを起こせば良いのかが複雑となってきます。そこで、裁判の管轄について大まかに訴訟の内容、場所とに分けて説明します。 [a] 審判事項管轄権(Subject Matters Jurisdiction)日本でいう「事物管轄」のことで、どのような性質、内容の訴訟を裁判できるかという権限です。この点を前提に連邦裁判所が独占的に扱える裁判は、合衆国憲法 3条により@特許権、商標権、著作権に関する事件 A海事事件 B破産事件 C連邦独禁法事件 D大使等の外交使節に関する事件 E合衆国は訴訟の一当事者である事件 です。また、連邦が州と競合して管轄権を持つのは、 2つ以上の異なる州の市民間の争訟(市民籍相違事件=diversity jurisdiction)のうち、請求金額が5万ドル以上の場合です。それ以外の事件は州裁判所の管轄です。[b] 対人管轄権(In Personam Jurisdiction)日本でいう「土地管轄」のことで、被告をどの土地の裁判所に訴えられるかということです。この点に関しては、州裁判所と連邦裁判所の管轄権がそれぞれ定められています。まず、州裁判所には被告の住所地や営業所在地があれば管轄権が認められます。一方、 A州の企業をB州の裁判所で訴える場合は、その企業がA州に営業所や支店、工場といった活動拠点がある場合のみA州の裁判所で裁判を起こすことが出来ます(原則)。 |
陪審制度 | |||
アメリカの裁判所には民事事件でも刑事事件でも職業的裁判官 (判事)による審理(judge trial)と陪審員による審理(jury trial)とがあります。陪審裁判はアメリカ憲法の保障する制度で、裁判への国民参加の一形態で、これは英国法に由来します。民事事件では、訴訟を起こす原告は陪審裁判を要求する権利があり、被告はそれを拒否できません。日本でも明治時代に陪審制度がありましたが、今ではそれは廃止され職業的裁判官による審理のみで裁判が行われています。しかし司法制度改革の一つとして、将来的に陪審制度に似た裁判員制度が導入されようとしています (この点については日本の裁判制度のところで解説します)。 |
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陪審員とは |
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陪審員は、素人の一般市民の中から抽選で陪審員候補者を選び、その中から具体的事件の担当者として通常12名が特定されます。この12人の陪審員は、裁判の始めから終わりまで法廷の陪審席にいて、証拠や証人の供述を見聞し、弁護士や検事の弁論を聞いて、別室で全員協議し、原則として全員一致で裁判官から独立して結論を下します。その結論のことを「評決(verdict)」と言います。陪審員はその事件に決着がつけば解任されます。また、裁判がなされている間は、陪審員と弁護士等は接触することが禁止されています。 |
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評決と判決 |
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上でも述べたように、陪審員が下す判断のことを評決 (verdict)と言いますが、一方、裁判官の下す判断のことを「判決(judge)」と言います。それでは、この評決と判決の関係はどうなっているのでしょうか。陪審員の仕事は、民事事件では、その評決で訴えている当事者 (原告)の主張事実の有無、是非の認定をし、刑事事件においては、被告人が有罪であるか否かを判断し刑を示します(これを「事実認定」といいます)。この評決−事実認定(簡単に言えば、勝訴か敗訴か、有罪か無罪か)−は、「裁判官に対する返事」として陪審員によってなされ、裁判官はこの認定に従って判決を言渡します。時には、陪審員は損害賠償額まで評決することもあります。しかし裁判官は陪審員に対し何もしないのではなく、審理の手続が訴訟法に従って適正に行われるようにコントロールします。よって、評決が明らかに誤り、不当と思われる場合は、無視またはやり直しを命ずることが出来ます。また裁判官はその裁量で、評決で示された損害賠償額や刑をコントロールします。損害賠償額については次で述べるとして、刑についてはその執行を猶予したり、刑期を短くしたりなどし、適正な法の実現を目指します。 |
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陪審制度の問題点 |
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陪審制度というものは、いわば法律の素人である市民の代表により事実認定をさせる制度なので、評決が下されるまで訴訟当事者はその評決結果を予測することが困難となります。そのため、評決には意外などんでん返しとなることがあります。そういう面を考えると、陪審制度は市民と国家との考え方のギャップを埋める役目を果たしているとも言えます。 しかし、大企業を相手にした訴訟では、陪審員は反大企業の姿勢をとることが多く、原告(主に個人)が勝訴すると考えられないような巨額な懲罰的賠償金を取得するという事態があります。また、人種的公平さが欠けることもあります。これらは公平さの観点から問題があります。 また、ジョン・ケイジの弁論を思い出してみてください。彼はよく相手方弁護士や検事から「法を忘れさせるプロ」というような批判を受けることがあります。それはジョン・ケイジの弁論が素晴らしく、陪審員の心に訴えかけるものだからなのです。一方の検事や相手方弁護士(の多く)は、きちんとした法律論で弁論をします。それなのに、ジョンの弁論が勝るのです。しかしこれは視点を変えると、陪審員は情により法を無視するかのような評決を下しやすいということが言えます。まさにこれが問題点です。確かに、「市民感覚」とか「市民の常識」という観点からは妥当するかもしれません(前述の市民と国家・司法の考え方の乖離を埋める役割)が、法律を前提とする以上、そのバランスを著しく欠く場合は問題と言わざるを得ません。(日本でも近い将来、陪審制度に似た裁判員制度が導入されますが、陪審制を採用しなかった理由の一つとしてこのことが挙げられると思われます。そこで、市民の代表に法の規定を遵守させることができる裁判員制度を採用したと考えられます。) |
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損害賠償額 |
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時として、大企業等を相手にした裁判などでは、原告が勝訴すると損害賠償として巨額な賠償金の支払を命ずる評決が出ることがあります。これは、日本ではほとんど耳にすることはありません。それはどうしてなのでしょうか。 この点に関して、前述の通り陪審制度の問題点であると言われています。製造物責任を問う訴訟や公害訴訟のような大企業を訴える訴訟では、陪審員は反大企業の姿勢をとりがちであり、訴えた市民(原告)が勝訴すると法外な懲罰的損害賠償金(punitive damage)を取得するからです。この懲罰的損害賠償金という概念は日本にはありません。 しかし実際にはこの懲罰的賠償金は、公序良俗の見地から実際に被った損害の3倍が限度とされます(判事はその限度を前提に、評決額から大幅に減額して判決を下すことができるのです)。それなのに巨額な賠償金が命じられるのはなぜでしょうか。 それについては、陪審制とアメリカという国の成り立ちの関係及び、陪審員と懲罰的賠償金との関係、を考えていくことで明らかになります。アメリカは独立戦争によって本国イギリスから国を勝ち取りました。アメリカが独立するまでは、当然イギリスの主権の下にアメリカはあったので、懲罰というものは権力によって行使されていました。しかし独立後、アメリカはいわば「人民のための」国家を作っていきました。まさにそこに陪審制の意義が見えてきます。陪審制によって国民の代表が紛争や事件について判定をすることにより、人民による人民のための司法を確立していったといえます。だから、同じ人民に懲罰を与えることができるのも人民であるべきである、という考え方に至るわけです。それゆえ、紛争・事件を通じての当事者への刑罰・懲罰の適否は、市民の代表である陪審員の判断に委ねられてもよいということになります(注:執行機関は国家であるという点は日本と同じ)。(もちろん、アメリカも三権分立を採用している国なので三権レベルでの国家機関としての司法の機能もあるわけですが、市民間の紛争・事件についてはこのような考え方によるというわけです。)だから懲罰的賠償金の額も陪審員によって「懲罰」の内容として決められるわけですが、その金額を算定する場合考えなければならないことがあります。それは「被告が痛みを感ずる程度のものでなければならない」ということです。たとえば、被告があまり収入の多くない個人だとすると、その懲罰的賠償金を5万ドル(約600万円)と評決で下すならば、これはその被告にとってはかなりの痛手となるはずです。しかし、被告が大企業である法人ならばどうでしょうか。懲罰的賠償金として5万ドルを支払うよう命ずることは、その被告企業にとって痛くも痒くもない金額であると考えられるでしょう。それでは「懲罰」の意味がありません。そこで、大企業が被告の場合、その大企業が痛手を被るを考えると日本では考えられないような巨額の評決が下るというわけです。それが賠償金が巨額になる理由です。実際、マクドナルドのコーヒーで火傷を負った老女がマクドナルドを相手に起こした訴訟(Liebeck vs. McDonald's Restaurants, 1994)では、陪審評決で損害賠償金として16万ドル懲罰的損害賠償金として270万ドル;計286万ドルの支払を命じるということもありました(しかし判決により64万ドルに引き下げられました)。 一方、日本において民事事件において懲罰的賠償金がなされないのは、まず、日本には「人を罰することが出来るのは国家だけである」という思想があるからです。もちろんその刑罰・懲罰の適否の判断も国家権力(司法)によります。そしてその公権力の行使について、日本人が(実際のところは別として)国のことを信頼しているという前提があるからです。しかし、日本では判決という形で国家機関である裁判所が判断を下すのだから、人を罰する懲罰的賠償金があってもおかしくないのではないか?とも思われます。しかし、これは民法においては適用することはできません。というのも、懲罰や刑罰というものが国家権力の判断・行使であるという前提がある以上、国家は刑罰権行使について定めた法に拠らなければならないのです。その代表的なものが、刑法です。そのような法に規定されていないものに関しては「国家権力」の「刑罰・懲罰」は科せません。民法ではそのような規定を置いていません(注;損害賠償の規定はあります)。だから、日本にはない制度というわけです。 |
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