知らない土地を歩くのは嫌いじゃない。むしろ好きな方だと思うけれど、人影まばら、とっぷり日が暮れた冬の夜となると話は違う。新高島平の駅を出ると、早速右も左も分からない。iPhoneの地図だけを頼りに徒歩15分の場所にある赤塚諏訪神社を目指した。暗闇をひとりで歩くのは心細い。自転車の気配にもひやりとする。しかし、神社へ続く長い坂を登り始めた頃、気付けば辺りの雰囲気に別の違和感を感じ始めていた。
それは「村社諏訪神社」の文字を見た時に決定的になった。現代の東京とは思えない摩訶不思議な空気が辺りを満たしている。遠い昔からここにはゆるやかな結界があって、流れる時間の侵入さえ許さなかったかのよう。私の胸はさっきまでの心細さを忘れ、一気に高鳴った。神社の醸し出す素朴で懐かしい、なのに頼もしい威厳も備えているこの風情もたまらない。ああ、私、本当にこんな場所に来てみたかった!
軽い興奮状態で2〜3段の階段を上がり、鳥居をくぐる。すぐにまっ赤な随神門を抜けて参道を歩いていると、ここが鎮守の森にかこまれているのではないことに気付いた。空が広々と開けている。枝葉を伸ばすまばらな木々はどれも異様に背が高く、樹齢もありそうだ。
明るく照らされた拝殿前の人影へと近づくと、近所の人たちかと思いきや、古いお祭りにつきもののアマチュアカメラマンたちの他に、どうも学者風情の人たちが多くまぎれているように感じた。