朝日新聞社説をもっと読む大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の社説。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。
|
原発の足元にあるのは、危ない活断層かもしれない。福井県敦賀市で日本原子力発電敦賀原発を現地調査した専門家の口から、その可能性を示す発言が次々に飛び出した。[記事全文]
食品が放射性物質に汚染されているかどうかを調べる自主検査でも、国の基準に基づいて判断してほしい――。農林水産省が食品や小売りの業界にこんな通知を出し、国より厳しい独自基[記事全文]
原発の足元にあるのは、危ない活断層かもしれない。
福井県敦賀市で日本原子力発電敦賀原発を現地調査した専門家の口から、その可能性を示す発言が次々に飛び出した。
2号機の下の地表近くに活断層らしきものがあり、近くの活断層が地震を起こしたとき、つられて動く恐れがあるというのである。
このように見立てたのは、経済産業省原子力安全・保安院の意見聴取会のメンバーたちだ。保安院は、日本原電に活断層を調べ直すよう指示した。
政府の原発耐震指針にもとづく決まりでは、活断層やそれと一緒に動く副断層が地表近くに表れているとき、その上に原子炉を置いてはならない。
日本原電が、炉の下にある断層が活断層でないと説得力をもって示せないなら、廃炉に追い込まれる可能性は高い。
私たちは「原発ゼロ社会」をめざそうと呼びかけている。それを実現する道筋としては、危険度が高い原発から止めてゆくのが筋だ。このとき、敦賀2号機は、廃炉の優先度が高い候補と考えるべきだろう。
忘れてならないのは、この問題は敦賀原発だけに限った話ではないということである。
国内で原発立地が大きく進んだ1970〜80年代に比べて、最近は活断層をめぐる新しい知識が蓄積してきた。
2006年に耐震指針が改められ、全国で新指針に沿った安全性評価が進行中だ。これはぜひ急がなくてはならない。
最近は原発周辺の活断層が一緒に動いて揺れを大きくする心配が高まり、保安院はその恐れがある原発について、耐震の再評価を求めている。そのさなかの現地調査だった。
注目すべきは、3・11の大震災後、科学者の間に地震や津波の想定を控えめに見積もってはなるまいという姿勢が強まってきたことだ。今回も、現地調査をした専門家たちはメディアを前に、敷地内の断層をめぐる考察を率直に語った。
東海、東南海、南海地震などのプレート境界型地震とは違って、活断層による地震は、発生周期を読みとるのは難しい。しかも日本列島のあちこちに走っているので「いつ」「どこ」で起こるかがわからない。
今こそ、科学者の3・11後の新しい目でもう一度、全国の原発周辺の断層を調べ、活断層の影響や揺れがどうなるかを見直すべきだ。
地震が多発する列島に住んでいる現実を直視し、活断層の実態を知る必要がある。
食品が放射性物質に汚染されているかどうかを調べる自主検査でも、国の基準に基づいて判断してほしい――。
農林水産省が食品や小売りの業界にこんな通知を出し、国より厳しい独自基準を自粛するよう求めた。これが様々な反発や戸惑いを引き起こしている。
基準が厳しすぎると、売買されない産品が増える。農家や漁師らは苦境に陥り、地域社会にも影響しかねない。そうした心配はわかる。
それでも、やはり農水省の通知はおかしいと考える。
政府は4月から新たな基準を導入した。それまでの暫定基準と比べて品目ごとの値を4分の1〜20分の1に引き下げ、世界的にも厳しくなった。検査の対象や頻度についてのルールもはっきりさせ、よりきめ細かく検査する仕組みを打ち出した。
ただ、検査機器の不足などから、産地での全品目・全品検査はおよそ不可能で、サンプル検査が大半だ。検査の目をすり抜ける例が出る恐れはある。
それを補っているのが、食品メーカーや小売業者の自主検査である。食の安全・安心に果たす役割は大きい。
その際、「国の基準の半分」といった厳しい数値を打ち出す業者が少なくないのは、国の基準が消費者に必ずしも信頼されておらず、より厳しい検査を求める声が根強いからだ。妊婦や子どもがいる家庭で不安が大きいなど、人によって敏感さが異なるという問題もからむ。
政府に求められるのは、民間の取り組みを統制することではない。新たな基準や検査の仕組みについて、もっと説明を尽くすことだ。
新基準を検討してきた政府の審議会では、消費者の代表から「産地での取り組みを消費者が直接知る機会を増やせば、理解が進むのではないか」といった意見も出た。こうした提案もいかしてほしい。
厳しい基準を掲げる業者にもお願いしたい。産地あってこその食品産業であり、小売業界である。汚染を取り除くための産地の努力を直接支える。独自基準には引っかかるが、国の基準は満たす産品も並行して扱う。そんな工夫ができないか。
「国の基準が守られていれば買って被災地を支援する」という消費者も多いだろう。できるだけ選択の幅を持ちたい。
放射能に汚染された食品は、短期間ではなくならない。「生産者対消費者」といった単純な対立の図式に陥らず、社会全体での向き合い方を粘り強く探っていこう。