また、救助してもらって、「すみません」と言った老女の話が出てくる。ドイツ人には理解できなくても、日本人ならわかる。「お手数をかけて、すみません」、つまり「すみません」は、「ありがとう」なのだ。
ところがSternのライターは、老女が人に迷惑をかけたことを恥じて謝っていると解釈し、ルース・ベネディクト女史の「菊と刀」(1946年刊行)の"恥の文化"まで持ち出している。戦後の日本統治のために、アメリカ軍の依頼で編まれた日本人論だ。無責任にもベネディクトは、一度も日本を訪れることなく、この大作をものにした。Stern誌には、もちろん、戦後、グアムの捕虜収容所で恥じ入っている降伏軍人の写真も添えてあった。
「驚くべき国民」はどちら?
しかし、福島で死に物狂いで働いている人たちは、"恥の文化"とは何の関係もない。国家の圧力で自己犠牲を強いられた「神風特攻隊」でもないし、自己犠牲に恍惚を覚えている「ハラキリ」願望者でもない。ましてや、人権のない強制労働者であるはずもない。
彼らは、責任感から、敢えてその危険な仕事に従事しているのだ。自分たちがやらないで、いったい誰がやるのだと思いつつ、へとへとになりながらも頑張っている人たちなのだ。皆で逃げるわけにはいかない。外国人は逃げてもいいが、日本人は逃げられない。誰かがやらなければいけない。ドイツ人だって、こういう状況になったら、おそらく同じことをしたと思う。
それにしても、Stern誌はいったい何が言いたいのだろう。「芸者、フジヤマ、ハラキリ」は、80年ごろようやく消滅したかと思ったら、今ごろ突然のカムバックだ。それどころか、蒙古の襲撃のときの「神風」や、20万人が虐殺された「南京事件」にまで持ち出してくる。
1937年当時、南京にそんなにたくさんの住民がいなかったことなど、もちろんお構いなしだ。それにしても、この歪なレトリックは何なのだろう? 不気味な日本人像を復活させたい理由は?
いずれにしても、他国のために、自分の健康を重篤な危険に晒したくないのは当然のことなので、ドイツ人特派員が大阪に避難しようが、ドイツ救援隊が帰国しようが、まったく異議はないが、おかしな報道をすることだけはやめてもらいたい。
そして、この場を借りて、「驚くべき国民」という言葉は、謹んでドイツ人にお返ししたいと思う。
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