「放射能物質がヨーロッパまで飛んでくる」 原発事故でパニックを煽ったドイツのトンデモ報道「芸者、フジヤマ、ハラキリ」まで復活させて大騒ぎ

2011年04月08日(金) 川口マーン惠美
upperline
3月24日付のニュース週刊誌Stern誌

 搭乗するときに、ドイツの新聞(Die Welt・16日付)を手にした。一面に、マスクをした背広姿の日本人が目を見開いている大きな写真と、「死の不安に包まれた東京」という大見出し。ただ、どうみても、これは出勤途上の人々が信号待ちをしている風景だ。目を見開いているのは、死の不安のせいでなく、信号を見ているのだろう。

 だいたい、このマスクだって、放射能を予防するためではない。日本人は、私が子供のころから、マスクを愛用していたのだ。しかし、ドイツにいるドイツ人は、そんなことは知らない。ただ、ドイツ人がそんなことは知らないということを、これを載せたドイツ人特派員は、間違いなく知っていたはずだ。誤解させることが目的だったとしか思えない。

 ドイツへ戻ってきてからも、おかしな報道はあとを絶たなかった。極め付きは、ARD(第一放送)の特派員、ロベルト・ヘットケンパー。福島原発では、危険な作業に「使い捨て作業員」を動員しているという。しかも、それはホームレス、外国人労働者、未成年者からなると、やけに詳しい。

「志願者とはいうが、どの程度自主的な、いかなる志願者か?」と、神妙な顔で恣意的な質問を投げかけて報告を終えたのだが、まもなく、そういう事実がないということを指摘されると、「名前は言えないが、ある外国の報道をそのまま使った」と居直った(ドイツ語のウィキペディアの彼のページには、すぐにその顛末が載ったが、30日に説明なく削除された)。

「小野田少尉」まで登場

 さて、3月24日付のニュース週刊誌Stern誌の表紙は、葛飾北斎の有名な浮世絵「神奈川沖浪裏」と、舞妓さん(芸者のつもり?)と、侍と、整然と並ぶ自衛隊の合成だった。あっと驚くデザインだ。タイトル記事は「驚くべき国民」。もちろん、日本人のことだ。最初のうちは、不幸に見舞われても冷静さと感謝の念を失わず、助け合い、耐え忍んでいた日本の被災者を褒め称えていたドイツメディアだったが、どうも方向転換をしたらしい。

 読んでみたところ、日本人は、集団のために自己を犠牲にし、苦しみに慣れ、しかも、感情のない、あるいは、感情を押さえることを学ばされた国民であるらしい。その証拠として、「神風特攻隊」「ハラキリ」「赤穂浪士」の話が続々登場。特攻隊が出撃前に鉢巻きを渡されている写真や、また、武士が鎧姿で正装している絵、そして、明治天皇ご一家の御写真などが、ふんだんに使ってある。中でも逸品は、終戦後もジャングルで一人で戦い続けた小野田少尉の物語で、ご丁寧に、ぼろぼろになった軍服を着てサーベルを返還している直立不動の写真まで載せてあった。

 ドイツ人は理解できないのだ。肉親を亡くしながらも、泣き叫ぶことをしない日本人のことが。雄弁に悲しみを語らなくても、日本人は悲しんでいる。ドイツ人とは悲しみ方が違うだけだ。しかし、それを理解せず、感情を出さないのは感情がないからだと決めつけるのは、それこそ自らの感情移入能力の欠如を暴露しているだけではないか。

previous page
2
nextpage



underline
アクセスランキング
昨日のランキング
直近1時間のランキング
編集部お薦め記事
最新記事