当地では、鶏はもも肉や胸肉など部位ごとだけではなく、一羽丸ごとでも売られている。胴体にもち米や朝鮮ニンジンなどを詰めて煮る参鶏湯(サムゲタン)にしたり、オーブンで焼いたりして食べる。
丸ごと供されるから「まずはコラーゲンたっぷりの手羽を、続いてみっしりとした胸肉部分を」と、計画を立てて食べられる。自分で決めると、おいしさも引き立つ気がする。
解体する楽しさもある。骨を外しながら食べると、まるで肉食獣になったような高揚感を味わえる。鶏一羽の命をいただく、ありがたみも感じる。
すっかり「丸ごと派」だが、先日、伝統的市場ではちょっと戸惑った。食用犬が丸ごと、ショーケースに収まっていたのだ。
犬肉料理は朝鮮半島の食文化だ。記者も誘われたらちゅうちょなく食べる。それでも食用犬の丸ごとは久しぶりだったから思わず目をそらしてしまった。
一緒にいた五十代の韓国人男性は平然としていたが、最後に食べたのは十年ぐらい前だという。周囲でもペットとして犬を飼う人が増えた分、犬肉料理を食べる機会が減ったと話していた。
鶏が丸ごと売られているのは、料理として人気があるからこそ。犬肉料理の需要が落ちれば、いつか丸ごとの食用犬はショーケースから姿を消すかもしれない。 (篠ケ瀬祐司)
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