橋下大阪市長と経済評論家の池田信夫氏の間で、インフレ目標政策とリフレーション政策(量的緩和)についての混乱が続いている。
クルッグマンが主張しているのは、どちらかと言えばインフレ目標政策だ。単純なリフレと混同したままでは、日銀がクルッグマンが主張するような政策を既に行っていると言う頓珍漢な指摘が出てきてしまう。
クルッグマン主張と池田信夫氏の批判が噛みあっていないのを確認してみよう。
まずは橋下氏の発言だが「ノーベル経済学賞のクルーグマン氏は量的緩和論。中央銀行、もっと量的緩和やれよと」と、クルッグマンが量的緩和が効果があるように主張している。これは間違いで、クルッグマンは1998年から14年間も、名目金利が限界までゼロに近い流動性の罠にはまっているときは量的緩和は無効で、インフレ予測を引き上げないといけないと言っている(復活だぁっ!日本の不況と流動性トラップの逆襲(山形浩生訳))。
池田信夫氏の反論が意味不明で、クルッグマンが量的緩和に懐疑的である事を明確に示していない。そして、量的緩和や時間軸政策を“クルーグマンのいうような政策”と主張し、日銀は既に行っていたが大きな効果が得られなかったと言っている。上述のクルッグマンのIt’s Baaack!論文を読んだのか疑問なぐらいだ。
クルッグマンは、インフレ予測が低いのでデフレのままだと主張している。現在、日銀が幾ら金融緩和を行っても、将来、インフレが高まったときに日銀が引締めを行うと考え出すと、誰も投資を行わない。だから日銀は将来も金融緩和を続ける事を市場に信じ込ませないといけないと言うのが、クルッグマンの主張だ。この主張が正しいかはともかく、量的緩和や時間軸政策が意味があるとは、クルッグマンは言っていない。
元財務官僚の高橋洋一氏や、経済思想史家の田中秀臣氏らのマネタリストは、流動性の罠なんか信じていないから、とにかくリフレーション政策を行えば良いと思っている。むしろ予測インフレが後から上昇するわけだ。池田信夫氏も自称マネタリストだからそう思っているのかも知れないが、それならば貨幣需要が無限大にあるので量的緩和が無効だとは言えなくなる。
どうも池田信夫氏は、主張のカテゴライズが下手なのか、高橋氏・田中氏らとクルッグマンを同じグループに入れて批判してしまうようだ。クルッグマンは単純な量的緩和を否定しているので、両者の理論的背景は大きく異なる。
クルッグマンがインフレ予測を重視する一方で、高橋洋一氏らは量的緩和が全てを解決すると主張している。クルッグマンの示したメカニズムの方が実際の経済、つまり量的緩和の無効や人口減少による低成長の影響を良く説明する。
池田信夫氏が、かつて日銀が行った量的緩和や時間軸政策の効果を幾ら紹介しても、高橋氏・田中氏を批判するだけだ。それはクルッグマンの主張をサポートする事になっても否定する事にならない。クルッグマンは量的緩和をするなら3%以上のインフレ目標を掲げて、そのコミットメントとして長期国債を買えと言うはずだ。FRBの2%は低すぎると言っている。
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WEB+DB屋。計量分析・経済政策にも詳しい。