ドキュメントにっぽんの絆:3・11それから 岩手・陸前高田 「そば屋」再建
毎日新聞 2011年07月18日 東京朝刊
黙々と亡きがらを運ぶ日々が1カ月以上続いた。妻と娘、両親を失いながらも、一日も休まない後輩がいた。家族が見つかると安置所に向かい、また現場に戻ってくる。愚痴も言わず、仲間の前では涙も見せず、持ち前の明るさを見せた。
「人間ってすごい。家や店は何とかなるじゃないか。おれも負けたくはない」。土壇場で見せる、人間の強さに勇気をもらった。
大型連休中、朝市に誘われた。「同じ味が出せるだろうか」。不安で尻込みしていた。
朝市の前夜、近くの自動車学校の食堂を借り、店自慢の甘めのつゆを仕込んだ。計量器を兼ねていた鍋も、ひしゃくも同じ寸法のものがない。従子さんと何度も味を確かめた。
「変わらない味だね」。そばを食べた常連客が声をかけてくれた。客も、自分の舌もやぶ屋の味を覚えていた。看板を背負う覚悟ができた。
夕刻、弁当配達のアルバイトから帰り、子どもを仮設住宅の脇にある砂山まで遊びに連れて行った。早苗さんは夕飯の支度をしている。震災で妻子は無事だった。たわいのない日々があることに喜びを感じながら「自分が頑張らないと」と思う。
「これを機に少し好きにやろうと思う。僕の代で『そばもうまくなったべっちゃ』って言ってもらえるように」【竹内良和】
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