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「マボロシ」であって欲しい「プリウス」の真空倍力装置《追加情報あり》

2010/02/23 10:47
浜田 基彦=日経Automotive Technology
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 「えっ、本当にあるのか…」。ちょっと信じられないのだが、トヨタの「プリウス」には真空倍力装置があるのだという。2月9日の会見のときには、言い間違いの揚げ足を取るようなことはしたくないので、反応しなかった。ところが17日の会見で改めてその話が出た。どうも本気らしい。

 真空倍力装置とは、エンジンが吸う空気の通り道をスロットル弁で絞り、圧力が低くなった「真空」を使ってブレーキを動かす仕組みだ。ものすごく簡単な構造であるため、ガソリンエンジンを積んだクルマでは重宝がられている。当然ながら、エンジンが回っていないと力が出ない。一方、ハイブリッド車は頻繁にエンジンを止める。だからハイブリッド車と真空倍力装置は相性が悪い。「信じられない」というのはそういう意味だ。

 もう一つある。プリウスは燃費を良くするためにアトキンソンサイクルのエンジンを使っている。吸気タイミングで吸い込む空気の量を制限する分、普通のガソリンエンジンよりもスロットル弁を開いて使うことになる。当然、真空は不足気味になるから、倍力装置は大きくなり、値段も高くなる。やはり信じられない。

 仮に「ある」として、やり方を予測してみる。一つ考えられるのは「電動の真空ポンプ」だ。三菱自動車の電気自動車「i-MiEV」はエンジンがないから、この手を使っている。電動ポンプは高価なものだから、開発段階の電気自動車には使えても、価格競争の真っただ中にあるハイブリッド車には使いにくい。電気自動車も、数が少ない間はガソリン車と共通部品を使いたいから電動ポンプを使うが、専用設計になれば、ほかの方法を考えるはずだ。今は“暫定”なのである。

 実は、エンジンを止めても、倍力装置にたまっている分くらいは真空を使える。ただし、エンジンが回っているときと止まっているときでブレーキの効きが変わるのでは、それこそ「フィーリングの問題」が起こる。

 真空を溜める空間を大きくするという手もあるのだが、それでは本当に大きくなってしまう。真空倍力装置で力になるのは大気圧とその真空の差圧だけ。決して1気圧を超える力は出せない。例えば油圧なら、安全上の制約はあるのだが、5気圧でも8気圧でも出せる。同じ力を出すには、油圧の方がずっと小さくできる。

真空倍力装置があるとは想像しにくい

 かなりトリッキーなことも想定しておく必要がある。例えばハイブリッドシステムのうちエンジンに直結したモータ、トヨタがMG1と呼んでいるものの回転数を調整し、その時だけでエンジンを回してしまう手もある。しかし、エンジンのクランク軸、MG1のロータの慣性モーメントは大きく、真空ができるのに時間がかかる。「ブレーキすっぽ抜け事件」では0.06秒の遅れが問題になっているくらいだから、そんな悠長なことはしていられないはずだ。

 というわけで、真空倍力装置があるとは、ちょっと考えにくいのである。

 トヨタの記者会見は居心地の良くないものだった。同業者である記者たちの志の低さが見えたからだ。記事を書くために質問しているのか、溜飲を下げるために質問しているのか分からない記者が多かった。真空倍力装置の話が飛び出しても黙っていたのは、自分が「溜飲野郎」になっていないか、胸に手を当てて考えていたからだ。

 会見の日から6日間胸に手を当てた。やはり「溜飲」ではない。トヨタはプリウスに真空倍力装置があるのかないのか、きちんと発表していただきたい。「ない」のだとすれば、トヨタとしても、原因究明の結果を発表するまでに、どこかで訂正する必要がある。「ある」のだとすれば、それは原因に大きくかかわってくるはずだ。ここを避けていては、「ブレーキすっぽぬけ事件」の真相が分かってこない予感がするのである。

■追加情報 その後の調査で、「プリウス」には真空倍力装置がないことを確認しました。
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