少し難しいけれど免疫システムの勉強です

 免疫システムには胸腺免疫システム、腸管免疫システム、肝臓免疫システムがあります。後の2つはまだ分からない点が多いので、比較的解明の進んでいる胸腺免疫システムを説明します。

 骨髄で作られた造血幹細胞から、いろいろな血球が作られますが、免疫システムの中心はマクロファージ、T細胞、B細胞です。マクロファージは異物(非自己)が現れると、最初に反応し、免疫システムを起動する大切な働きがあり、T細胞は免疫システムの「促進と抑制」の調整を行なう働き(Th細胞とTs細胞)と、ガン細胞やC型肝炎ウィールスなど細胞の中の異物を攻撃する、最も大切な働き(Tc細胞)があり、B細胞は外部から侵入する異物(抗原となる)を攻撃する抗体を作る働きがあります。

 この中でも最も大切なT細胞は、骨髄から胸腺に入った段階で徹底的に教育を受け、自己には攻撃しないという性質を獲得します。したがって胸腺が免疫システムにとって、最も大切な臓器になるわけです。

 胸腺は誕生した時が最大の大きさであり、青年期には萎縮し始め、50才を過ぎると半分程度になってしまいます。これが「胸腺は寿命を決定している」と言われるゆえんです。そして老化だけではなく、ストレス、食物や大気の汚染、疲れの蓄積などが胸腺萎縮の原因となるのです。



 追補: (2002.4.3)

 免疫学の進歩はすさまじく、その教科書は数年で改定せざるを得なくなります。
この項を書いてから5年経過し、この間にも新しい知見のいくつかが定説となり、教科書にも掲載されるようになりました。今回は安保徹教授(新潟大学)の研究グループの知見を紹介します。

 この知見により、リューマチ等の自己免疫疾患や「がん」の発生メカニズムが、新たに解明され、予防法、治療法にも新しい指針を与えることが出来るようになりました。

 新しい知見とは、次の三つに要約されます。

 1:胸腺外分化T細胞(進化の上で「古い免疫システム」)の発見。(1990年)

  (「新しい」発見を「古い免疫システム」と書きますが、これは進化の上では、「従来の免疫システム」よりも「古い」という意味です。また「従来の免疫システム」は、これよりも「進化」していますので、「進化した免疫システム」と書きますので誤解しないで下さい。)

 2:白血球(顆粒球、リンパ球)のバランスが、自律神経により調節されている。

 3:副腎皮質ホルモンは自律神経と連動して、「新旧」免疫システムを入れ替える。

 本題に入る前に、まず「治癒システム」、「免疫システム」を司る、白血球の種類から勉強しましょう。

 白血球は、「治癒システム」の中心であるマクロファージから進化を遂げた、顆粒球(主に異物の貪食能力)とリンパ球(主に異物の認識能力)の二つに大きく分類されます。顆粒球の中には、その大部分を占める好中球(傷の治癒中に生じる「うみ」は、細菌と好中球の死骸)と好酸球、好塩基球があります。リンパ球の中には、NK細胞、T細胞(ヘルパーT細胞、キラーT細胞等)、B細胞があります。これに「新発見」の胸腺外分化T細胞(NKT細胞)が、新たに加わりました。

 今回は、大きな分類である、「顆粒球」と「リンパ球」とのバランスを中心に考えます。このバランスは、季節、昼夜、気温、気圧などにより、多少の変動はありますが、老化、ストレス、ステロイド投与等により大きく崩れると、病気の方向に進みます。 

 白血球の成分をまず知っておいてください。マクロファージ 5%、顆粒球 60%、リンパ球 35%です。そして体調によりリンパ球は、30〜45%の間で変動します。そしてリンパ球が、30%以下になると、体に何らかの異常が生まれ、20%以下になると、組織障害の病気や「進行がん」が生まれ、10%を切ると「末期がん」状態となります。

 赤ちゃんから20才頃までは、リンパ球優位な状態で、その程度がひどい場合には、いわゆる「アトピー体質」となります(後述)。20才を過ぎると顆粒球の比率が徐々に高まります。老人になると細胞の分子の酸化が進み、その刺激で交感神経優位が進み顆粒球が増加し、リンパ球が極度に少ない「老人型パターン」を作り、リンパ球が底をついた時が、「死」ということになります。

 なお顆粒球は、まわりに細菌があると、化膿性の炎症が生じますが、無菌状態(例えば関節の中)の時には、組織破壊の炎症を生じることを覚えておいて下さい。(自己免疫疾患の発生原因)。

 これから述べる「古い免疫システム」の発見と、顆粒球、リンパ球のバランスが、自律神経によって調節されているということ、また副腎皮質ホルモンにより「新旧」免疫システムの「切り替え」が、ダイナミックに行なわれているという発見が、今回のテーマである「新しい免疫学」の基本になるのです。

 まず胸腺外分化T細胞(「古い免疫システム」)の発見から始めます。

 1990年、安保徹教授(新潟大学)の研究グループが、肝臓の中に、今までのT細胞(胸腺で作られる)とは異なるT細胞を発見し、翌年には、更に腸管のなかにも見いだし、「胸腺外分化T細胞」と名付け、これが「古い免疫システム」の発見につながりました。

 今までの免疫学では、「がん」や自己免疫疾患の発生を説明するのが難しい。

 従来の免疫学(胸腺で作られる「胸腺分化T細胞」を中心とする「免疫システム」)では、花粉症や喘息などのT型アレルギーなどは、うまく説明出来るのですが、リューマチなどの自己免疫疾患などでは、メカニズムがうまく説明できないという矛盾を抱えていました。(例えば、患部には、リンパ球減少という「免疫抑制」現象が起きているにもかかわらず、「免疫亢進」現象で説明しなければなりませんでした。)

 胸腺外分化T細胞の発見と、それの起源、働きが解明されてくると、これらの矛盾が、うまく説明できるようになり、しかもリューマチなどの自己免疫疾患やアトピーに、ステロイド(免疫抑制剤でもある)を使う治療法の誤りが、理論的に説明できるようになりました。

 また従来の免疫学では、「がん」は、免疫システムの「監視の目」をくぐり抜けて
発生するとされていましたが、さらに自律神経緊張がもたらす白血球バランスの乱れから顆粒球が増加し、それによる活性酸素放出が、第二の「がん」発生の原因であるというメカニズムが解明されました。(別項 「がん」は本当に「怖い病気」なのか・・・「がん」発症の最新のメカニズム参照。)

 「進化した免疫システム」と「古い免疫システム」。

 別項「治癒システムは、免疫システムより上位に位置する」には、動物が「冷血動物」から「温血動物」へ進化する過程で、マクロファージによる「治癒システム」を補強する(異物認識能力の強化)目的で、「免疫システム」が完成したことを書きました。

 今回話題の「古い免疫システム」は、「治癒システム」と「従来の免疫システム」との中間に位置し、進化の過程では、生物が「海から陸に上陸」し、「治癒システム」よりも、少し異物認識の必要性が出てきた頃に完成されたと考えられます。

 従来の免疫学は、胸腺を司令塔とする、最高に進化した「胸腺分化T細胞」を中心とする免疫システムを論じてきました。(以下「進化した免疫システム」と呼びます)
 一方、今回話題とする「胸腺外分化T細胞」による免疫システムは、NK細胞から進化し、肝臓や腸管で作られる、胸腺外分化T細胞(NKT細胞)を中心とする「古い免疫システム」なのです。

 「進化した免疫システム」は「外なる異物」、「古い免疫システム」は「内なる異物」の認識と排除を行なう。

 「進化した免疫システム」が、主に「外部から侵入した異物」の認識と排除を司るのに対し、「古い免疫システム」は、「体の内部に生じた異物」(ガン細胞や自己免疫疾患に関係する自己抗体)の認識と排除を司ります。

 この二つのシステムは、お互いが拮抗してバランスを保っています。そしてこのバランスは、これから述べる自律神経による白血球(顆粒球、リンパ球)バランスと、このバランスに連動する副腎皮質ホルモンによる影響を受けます。すなわち、この影響によって「新旧の免疫システムが切り替わる」という事実が、「新しい免疫学」の第一の要なのです。
 
 そしてこの「新旧免疫システムの切り替わり」の目的は、ストレスや老化により生じる、「内なる異物」(ガン細胞や自己抗体)を排除することなのです。

 またこの「新旧免疫システムの切り替わり」の発見につながる、自律神経による、白血球(顆粒球、リンパ球)のバランスの調節も、自己免疫疾患、 「がん」発生のメカニズムと、従来の治療法の誤りを指摘することになりました。

 自律神経が、顆粒球とリンパ球のバランスを調節する。

 自律神経は、免疫トライアングル(別項参照)の一つとして、組織、器官、内臓の働きを無意識に調節しています。そして交感神経は、「昼間の行動する神経」、副交感神経は、「夜の休息する神経」としての役目を持っています。

 1940〜45年頃から、顆粒球とリンパ球の比率が、自律神経バランスにより変化することは知られていましたが、1990年後半に、安保徹教授の研究グループにより理論的に証明されました。すなわち交感神経刺激時には、顆粒球が増加し、副交感神経刺激時には、リンパ球が増加するという事実です。

 これは動物が、昼間に「えさ」を取る時に(交感神経優位)は、顆粒球を増やし、行動中の、傷の細菌感染を防いたり、逆に食事中や休息中(副交感神経優位)は、リンパ球を増やし、消化で生じる異種たんぱくの腸からの侵入を防ぐなど、合目的的ではあります。 

 ところがストレスなどで、大きく自律神経のバランスが崩れると、顆粒球、リンパ球のバランスも大きく崩れ、病気の発生原因になります。例えば老化や働きすぎや過剰なストレスを受けたときには、大きな交感神経優位(顆粒球増加)の状態になり、血流は悪くなり、組織障害をもたらし、しかも顆粒球の放出する活性酸素により、細胞の「ガン化」の引き金になります。(これが今回の「新しい免疫学」の第二の要です。)

 一方過保護、甘いものの取りすぎ、運動不足、肥満が続くと、副交感神経優位となり、リンパ球が増加し、アトピー体質が形成されます。

 しかし注意して欲しいのは、アトピー体質になっただけでは、アトピーが発症するわけではありません。過剰な抗原やストレスにさらされた時に、交感神経緊張を招き、そのストレスから「逃れよう」とする副交感神経反射が起こり発症するのです。これはつらい症状ではありますが、明らかに「治癒反応」なのです。(この時には顆粒球が増加しています。)

 すなわち発疹や痒みは、本来持っている副交感神経優位(リンパ球増加)体質の方が、ストレス等を受けた時に(交感神経刺激)、それから逃れようとする「副交感神経反射」(異物排除)そのものなのです。したがって、発疹や痒みは「治癒反応」ですから、これらをステロイドなどで「止めよう」とすることは、「逆治療」になるのです。

副腎皮質ホルモンが、新旧免疫システムを入れ替える。

 副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)は、生理的にも分泌されます。例えば早朝には、分泌が盛んになり、交感神経優位の状態にして、日中の行動に備えます。また 「抗ストレスホルモン」と言われるように、体が強いストレスを受けて、交感神経が刺激され、顆粒球が増加すると、過剰に分泌されます。これにより胸腺は萎縮し、「進化した免疫システム」は、強く抑制されます。これも強いストレスによる炎症を抑えるためであり、合目的的であります。

 この「消炎作用」を利用したのが、リューマチの痛み、アトピーや喘息の発作を抑える「ステロイドホルモン剤」なのです。

 ところが副腎皮質ホルモンの真の目的が、別の所にあることが解明されました。これこそが、前述した「進化した免疫システム」から「古い免疫システム」へのスイッチなのです。
 
 またウイルス感染やストレスなどで、顆粒球が急激に増加すると、この「古い免疫システム」も異常に亢進し、体内に生まれる異物(自己抗体)を過剰に攻撃するようになります。これが新しくわかった自己免疫疾患のメカニズムなのです。

 ところが副腎皮質ホルモンを「強制的に」体内に入れられた場合には、白血球バランスが、顆粒球増加(交感神経優位)となり、「進化した免疫システム」抑制作用と重なり、細菌との化膿性炎症を起こしやすくなります。

 また副腎皮質ホルモンは、「長期間」体内に入っていると組織内で酸化変性し、コレステロールと同じように(コレステロールと副腎皮質ホルモンは構造骨格が似ている)動脈硬化や老化を引き起こすだけではなく、極度の冷え症、頻脈、高血圧、糖尿病、不安感、易疲労性をもたらします。

 まとめ

 胸腺外分化T細胞の発見、「古い免疫システム」の発見、「新旧免疫システムの切り替わり」、その発見の前段階になる、自律神経が白血球(顆粒球、リンパ球)バランスを変動させるという発見、それに付随する顆粒球増加に伴う活性酸素の発生が、組織障害や発ガンに及ぼす影響等、一連の発見は、従来の免疫学を大きく塗り替えることになりました。

 これらにより、自己免疫疾患、アトピー等の治療に使われる、ステロイド使用の誤りが理論づけられ、これらの病気以外の、「がん」を始めとする色々な病気にも、ストレスによる白血球バランスの崩れ(交感神経刺激による顆粒球の増加)、それに伴う血行不良、活性酸素増加が影響していることが解明されました。

 そしてこれらの病気の症状(痛み、発疹、痒み等)は、自律神経バランス(白血球バランス)の調整という「治癒反応」(血行促進)そのものであり、症状を薬で止めてしまえば、逆に「治癒」を遅らせてしまうという事実も解明されました。

 (参考)NK細胞は発生初期のガン細胞を殺す。

 NK細胞は、リンパ球であるにもかかわらず、顆粒球の持つ「貪食能力」を多少持ち、(そのため大型顆粒リンパ球とも呼ばれる)、面白いことに、細胞が「自分らしさ」を失った時に(ガン化)、キラー特性を発揮します。そして分泌する「細胞殺傷蛋白質」で、がん化した細胞を殺してしまいます。なおこの蛋白質は、体がリラックスした時 (すなわち副交感神経優位)に分泌が盛んになります。「がん」を予防するために、また「がん」患者の「がん」の進行を遅らせるために、リラックスすることが、いかに大切であるかがわかります。

 以上書いてきた新しい知見により、アレルギー疾患、自己免疫疾患、「がん」に関する予防や治療に新たな指針が加わり、特に現在も医療現場で行なわれている、ステロイド、痛み止めの乱用に「激しい警鐘」を打ち鳴らすことになりました。これは今後も別項に書いてゆくつもりです。