【メイド・イン・ジャパン消滅】消えた電力会社の信用…日の丸メーカーも日本逃避か

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2012.04.24


大飯原発の再稼働問題は、日本の製造業に暗い影を落としそうだ【拡大】

 その判断を望もうが望むまいが、原発の再稼働は当分の間できない、と考えるのが現実的だ。製造業に携わる多くの人々はこの夏の電力不足に強い危機感を抱いている。ことに全国で最も原発依存度の高い関西電力から、電気の供給を受けている製造業者は気が気ではない。せめて、大飯原発の再稼働を認めてほしいと切実に思っている人々も少なからずいる。

 しかし、電力会社が発信する情報に対する信頼は完全に消え去った。電力会社は自分たちに都合の悪い情報はすべて隠ぺいするものだと、誰もが思いこむようになってしまった。不信の構図は電力会社からさらに民主党政権へと広がった。野田内閣が科学的論拠を一切持たぬ4閣僚だけで、安全対策先送りのまま大飯原発再稼働を決めたことで、原発不信はピークに達した。

 さらに驚くべきは、古い体質からまったく抜け出せずに不信感を募らせるような言動を繰り返す経営陣に対して、電力会社社内にも不信が膨張している現実だ。

 「電気料金の値上げをお願いする場面で、(東京電力の)西沢俊夫社長が『値上げ申請はわれわれ事業者の権利』と発言したことに、社内でも猛反発が起きています。世の中のことがあまりにもわかっていない」

 東電の中堅社員は怒りを隠さなかった。今年の夏、突然の大規模停電が起こらないという保証はまったくない。多くの人々が「大停電など起こるはずがない」と都合よく思いこんでいるにすぎない。

 しかし、大停電リスクは確実に存在し、それが起きたときにはどれだけの痛みがあるのか。冷静な議論が求められるところなのだが、野田政権と電力会社が創り出してしまった極端な不信の構図の前には、もはやいかなる議論も成立しないだろう。日本国内の原発は全停止となり、この夏、日本は大停電の危機にさらされる。もし、大停電が現実のものとなったとき、その責任はいったい誰が負うのだろうか。

 日本のエネルギー政策は絶望的な不信感と情緒過多の無責任のなかで頓挫したままだ。そこで心配になるのはメイド・イン・ジャパンの先行きだ。

 民主党政権下、大企業は罪悪とみなされ、経済成長など不要だといった議論が平然と行われる日本社会に対して、企業経営者の多くが嫌悪感や、孤立感を感じている。ただでさえ超円高や高い法人税や労働規制等々、厳しい国際競争にさらされている企業にしてみれば日本の国内生産に執着する意義を見いだせなくなってきている。

 「日本でこれだけ製造業が軽視されたら、もうやっていかれない」

 日本で雇用と所得を守り続けてきた大手製造業の経営者は、工場どころか、いずれは本社の海外移転もあり得るとまで語っていた。

 「メイド・イン・ジャパン消滅」のリスクも忘れてはならない。

 ■財部誠一(たからべ・せいいち) 経済ジャーナリスト。1956年、東京生まれ。80年、慶応大学卒業後、野村証券に入社。出版社勤務を経てジャーナリストに。金融、製造業、新興国経済に詳しい。テレビ朝日「報道ステーション」、BS日テレ「財部ビジネス研究所」などテレビやラジオ、講演会で活躍中。最新著書「メイド・イン・ジャパン消滅!〜世界で戦える『製造業』をどう守るか」(朝日新聞出版)、「アジアビジネスで成功する25の視点」(PHPビジネス新書)など著書多数。

 

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