「SECの鬼検事」佐渡委員長に続投説
まさに「赫々たる戦果」――。佐渡賢一委員長率いる証券取引等監視委員会(SEC)がこの1年間に繰り広げた「『資本のハイエナ』掃討作戦」のことだ。刑事告発されたのは河野博晶、横濱豊行、阪中彰夫、鬼頭和孝、黒木正博ら錚々たる「増資マフィア」の面々。経営破綻しそうな上場会社に群がり、資本の充実を仮装して株価を吊り上げ、その裏で株を高値で売り抜ける。こうした「不公正ファイナンス」の摘発にSECは集中して取り組み、次々に成果を上げた。6月末で任期切れを迎える佐渡委員長には「SECの力量を格段にアップさせた鬼検事」として続投を求める声が強い。
掃討作戦は去年6月、住宅リフォーム会社「ペイントハウス」をめぐる偽計取引事件から始まった。SECは、資本増強が行われたとする虚偽の事実の公表で株価を上昇させ、株を売り抜けたとして投資顧問会社「ソブリンアセットマネジメントジャパン」社長の阪中彰夫を告発し、東京地検特捜部が逮捕・起訴した。
さらにSECは11月、精密機器メーカー持ち株会社「ユニオンホールディングス」社長の横濱豊行ら9人について、高指し値注文や「馴れ合い売買」と呼ばれる仮装売買でユニオン社の株価を吊り上げたとして、大阪府警と合同で強制調査に着手し、大阪地検特捜部が逮捕・起訴した。阪中、横濱とも「イ・アイ・イ・インターナショナル」社長の故高橋治則を中心とする仕手筋「草月グループ」の主要メンバーで、ハイエナ掃討作戦はこのあたりから「草月グループ壊滅作戦」の様相を帯び始める。
ユニオン社の事件は翌月、ペイント社同様の偽計取引事件に発展し、横濱ら3人が再逮捕された。さらに年明けの1月には、ゴルフ場関連の事業を看板にする「ワシントングループ」の総帥で、詐欺罪で有罪判決を受けたミュージシャンの小室哲哉に対する3億円の高利融資で有名な河野博晶が、ユニオン社株の相場操縦容疑で逮捕・起訴された。
捜査関係者は「河野は3年前に旧南野建設の相場操縦事件で逮捕された大物仕手筋の西田晴夫や、高橋治則亡き後の『草月グループ』の資金提供者。“黒幕中の黒幕”として前から狙っていた」と話す。河野は2月、自分が実質的に支配していた精密機器メーカー「テークスグループ」の第三者割当増資をめぐるインサイダー容疑でも摘発された。そして仕上げは警視庁と合同で取り組んだ「トランスデジタル」の偽計取引事件だ。まず2月に、警視庁が黒木正博らを民事再生法違反容疑で逮捕。翌月、黒木とともにトランス社を実質的に支配し、すでに脱税容疑で起訴されていた鬼頭和孝を新たに加え、偽計取引の疑いでも摘発した。あるSEC幹部は「ペンペン草も生えない追及をしたので、新年度は目立ったいい玉がもうない。それが正直なところ」と苦笑いする。
こうしたハイエナ掃討作戦以外にも、投資会社「ジェイ・ブリッジ」会長の野田英孝が自社株で行っていた、海外の銀行口座を利用したクロスボーダーのインサイダー取引事件や、早稲田大学OBらによる株式投資グループがインターネット証券会社を通じて行った相場操縦事件など、世の中にアピールする案件を次々に摘発。告発案件担当の特別調査課にある九つの調査班はフル稼働状態で「深化していったユニオン社の事件を担当した班のキャップは、ほとんど自宅に帰れない状態。凄まじい残業時間になり内部で問題化したほど」(SEC関係者)だったという。
別のSEC幹部は「佐渡委員長の前任者の時代、SECの花形である特別調査課は事実上、検察から出向してきた数人の検事だけで運営されていた。市場分析チームが不審な値動きの情報を通報しても、特調課がその後どうしたのか報告さえなかった。それが佐渡委員長の就任以来、特調課、市場分析課、課徴金検査課の風通しが極めてよくなり、SECは機動的に動ける組織に変わった。新設の課徴金検査課も次々にM&A関係のインサイダー取引で課徴金納付勧告を出している」と話す。
佐渡委員長は6月末で3年の任期を終える。ある検察幹部は「年次的には司法修習24期か25期の高検検事長が後継候補だが、余人をもって代えがたい。佐渡さんはまだ63歳。続投もあり得る」と話している。
(月刊『FACTA』2010年5月号、4月20日発行)
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