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関西電力大飯原発の再稼働には、実に厳しい数字だ。朝日新聞の世論調査で、再稼働に反対が、この原発のある福井県でさえ4割、近畿2府4県では5割を超えた。夏に電力不足で節電や[記事全文]
地方自治とは何か。首長がひきいる執行機関に議会はどう向きあい、監視機能を果たし、責任をまっとうすべきか。考えさせられる判決が、最高裁から続けて言い渡された。[記事全文]
関西電力大飯原発の再稼働には、実に厳しい数字だ。
朝日新聞の世論調査で、再稼働に反対が、この原発のある福井県でさえ4割、近畿2府4県では5割を超えた。夏に電力不足で節電や計画停電になってもいい、という人が電力消費地の近畿で8割近くにのぼる。
しかも、再稼働で同意を得る地元には、福井県以外も含めるべきが、福井でも近畿でも過半数。再稼働の前提になる安全基準を「信頼しない」人が、福井で6割を超えた。
数字が物語るのは、再稼働へ動く政府の姿勢が信頼を得ているとは言い難い実態である。
結論ありきのような説得の繰り返しでは、再稼働の方針は暗礁に乗り上げることも考えられる。政府は、住民、自治体の安全への不安が強い現実と真正面から向き合う必要がある。
今週、さまざまな動きがある。経産省は昨日、副大臣を滋賀県と京都府に派遣した。橋下徹大阪市長と松井一郎大阪府知事は今日、藤村官房長官に会う。26日には2府5県でつくる関西広域連合の知事会がある。
大阪府・市が再稼働に対する八つの提案を出し、京都、滋賀両府県知事も連名で七つの提言を出している。
応急措置で安全と言える根拠、脱原発依存への工程表の提示、第三者委員会による需給見通しの検証などだ。その多くが民意をくんだ内容と考える。
2本の提案・提言に共通するのは、安全面で恒久対策がなされないままなぜ再稼働なのか、電力供給のための緊急性はどれほどのものなのか、という疑問が根底にある点だ。
福島第一原発事故ではシステムの「安全神話」が崩れ、安全基準・規制への信頼も地におちた。原子力がこの二重苦を克服するには、急ごしらえの安全措置の追加だけでなく、安全行政への信頼回復が欠かせない。
政府はこの教訓をいま一度かみしめ、消費地からの提案を真剣に検討するべきだろう。
全国の電力需給見通しを客観的に検証する政府の需給検証委員会は昨日、初会合を開いた。夏の電力がどのくらい足りず、どの程度の節電を企業や家庭が実現すればしのげるのか。情報公開を徹底した議論で、幅広い選択肢を示してもらいたい。
それでも、調査結果から見る限り、失われた信頼を夏までに回復するのは極めてむずかしいのが現実だ。「原発なき夏」も視野に入れて、影響を最小限に食い止める節電など、もっと備えに力を入れていく。それこそが、賢明な道ではないか。
地方自治とは何か。首長がひきいる執行機関に議会はどう向きあい、監視機能を果たし、責任をまっとうすべきか。
考えさせられる判決が、最高裁から続けて言い渡された。
公金の支出が法律にふれるとして、住民が「それに見あう額を、首長や担当職員から自治体に賠償させよ」と裁判をおこした。すると議会が「その必要はない」と議決した。さて、この議決は有効か――。
そんな問題が争われた三つの市をめぐる裁判で、最高裁は「賠償を受ける権利を放棄するかどうかは、基本的に議会の裁量にゆだねられる」「ただしその内容が不合理で、裁量の範囲をこえるときは無効になる」との初めての判断を示した。
議決に一定の枠をはめた注目すべき見解といえる。
もっとも、合理・不合理を分ける明確な線はなく、ケースごとに事情を丹念に検証して結論を導き出すしかない。
問われるのは議員一人ひとりの見識と判断力である。
たとえば首長が自らの利益を図ったような場合、賠償させるのは当然だ。しかし自治体の仕事の領域は広がり、法律を見ても、行政がしていいこと、してはいけないことの見極めが難しい場面もふえている。
そこを議会がチェックし、かつ司法の審査をうける道を残すことにより、思惑や温情に左右されないようにする。住民はその経過をふまえて次の選挙に臨む。判決から浮かびあがるのはそんな相互牽制(けんせい)の姿だ。
過去の議決のなかには、ごく短い審議で決めたものや、放棄の理由が十分説明されていないものなど、首長と議会のなれ合いを疑わせる事例も見うけられる。議員は職責の重みを改めて自覚する必要がある。
住民訴訟も今のままでいいのか、再検討すべきだろう。
自治体を市民が監視する手段として、大きな役割を果たしてきた。その機能は引き続き大切にすべきだが、一方で、責任追及に走りすぎると、行政の思いきった決断や工夫の芽を摘んでしまうおそれもある。
賠償させるのは故意や重大な過失があった場合にするとか、年間報酬額の何倍かをこえる部分は支払いを免除するといった見直し案が議論されている。
今回の判決でも、千葉勝美裁判官が補足意見で、裁判所が違法宣言をし、自治体に懲戒処分を義務づけるしくみなど、示唆に富むアイデアを示した。
これらを手がかりに、多くの理解が得られ、しっかり機能する制度に高めていくべきだ。