数字が語るこの市場の深層【アグリビジネス市場】
農業は天候により収穫量が増減し、採算予測が立ちにくいものだ。だが、植物工場など、新たなビジネスモデル導入で参入する企業が増加。期待が寄せられるアグリビジネス市場を検証する。 |
新規事業を求めて民間企業が農業参入
アグリビジネスへの関心が高まっている。
「農業全体で約8兆円の市場規模がある。だが、ビジネスという観点では未成熟な市場。だからこそ大きな可能性を秘めている」と、アグリビジネス分野の調査・分析を行っている「野村アグリプランニング&アドバイザリー(以下、NAPA)」(東京都千代田区)の佐藤光泰主席研究員は語る。
景気低迷が続く中で、企業は新たな事業を展開する市場を求めている。一方で、農業市場はこれまでビジネス的な視点での運営が遅れ、耕作放棄地の再生や地域農業の活性化といった課題を抱えている。そこにビジネスの発想を持ち込み、新しい技術やノウハウを使って切り開くのがアグリビジネス市場だ。新規事業の展開先として有望視されている。
実際、2005年9月に特区以外でも農地を賃貸できるようにした、いわゆる農地リース方式の開始から「民間企業の参入が増加した」と佐藤氏は指摘する。例えば、全国の市町村が管理する農地に対する民間企業の参入を見ると、2004年10月には71社しか農地を利用していなかった(グラフ1)。
だが、その数は年を追うごとに増加し、09年には400社を越えた。そして11年1月までに764社が参入している。
期待の植物工場だが採算を取るのが難しい
佐藤氏によると、NAPAでは「農業へ参入した企業の約半数が"植物工場"による生産形態」と推察している。地域活性化の目玉として、植物工場をつくろうとする企業を支援する自治体が少なくないからだという。
近年、植物工場に応用できる新技術の発展が顕著だ。太陽光と同じように植物に光合成を促す光源や、消費電力の少ないLEDの発明で、植物工場の将来性への期待がにわかに高まっている。
しかし、「現実は厳しい」と佐藤氏は指摘する。植物工場のビジネス化に参入した企業の70%が赤字であり、黒字を達成しているのは16%に過ぎないという(グラフ2左)。また、参入した企業の年間販売高で見ると、1億円以上の企業が25%を占め、残りの75%は1億円以下だ(グラフ2右)。
このことを元にNAPAは、黒字を達成しているのは年間販売高1億円以上の企業の約半数と試算。「現状では、規模の大きな施設でないと単独での事業化は難しい」(佐藤氏)という。
事業を黒字化するには、売上を伸ばすかコストを下げるか、2つしかない。技術改良によって販売数を増やせても、不況に伴う食品価格のデフレや、同業他社との価格競争により、採算が取れなくなるのだという。
2012年以降はビジネスモデルで勝負
では中小企業にとって、アグリビジネスへの参入に勝算は見込めないのか。佐藤氏によると「中小企業の参入ステージはまさにこれから」と言う。
植物工場を始めとするアグリビジネスは、2008年後半から国が支援の検討準備を始めたばかりの新しい市場。現在、国と有識者が集まって組織した「植物工場ワーキンググループ」が調査・研究を行っている状況だ(図3)。参入した事業者は国から支援を受けた大学や研究機関の場合も多い。
けれども12年度には、こうした大学を中心とした調査・研究が終了する。そこからは産業として自立を促される「いわばビジネス化のステージになる」(佐藤氏)という。
こうなると、支援を元に研究に勤しんで来た事業者の手に余るようになる。実際、植物工場の例を見ても、これまで実施された1から3の事業モデルは、無難なものばかり(表4)。今後は、まだ実施する企業が少ない4以降のモデルの方が伸びる可能性がある。中小企業でも、収益性の高い新たなビジネスモデルを生み出すチャンスがあるだろう。
安定供給させるため競争ではなく協力を
今後のビジネスプランの参考として、佐藤氏は「"農業+α"の発想が重要になる」と言う。
参入企業は農業の経験を持たない場合が多い。だから参入した事業のすべてを単独で行おうとすると、農業の経験を一から積まなくてはならなくなる。しかし、農業は収益の予測が立てにくく、思い通りにならないものだ。その段階でコストが嵩み、赤字が膨らむことが少なくない。
そこで、事業の中で農業が必要な部分は専門の生産者に任せ、それにプラスする形で自社の得意とする分野を組み込んでいく。そんな発想が必要になる。
例えば、印刷会社が生産者とコラボレーションし、オリジナルパッケージを施した人参やジャガイモを売り出すなどが考えられる。これが+αの発想だ。
さらに佐藤氏は語る。
「アグリビジネス市場は未開拓。まだ方向性も定まっていないが、巨大な市場だ。今までのビジネスのようにライバル企業が競争するより、協力する方が成功しやすい」
これまで産地ごとに競争していた生産者が協力することで、新たなビジネスモデルを生み出すことも可能だという。
例えば、国産イチゴは通常、冬から春にかけて収穫される。それ以外の時期の需要には、外国産で代用されることが多い。だが反対に、夏から秋にかけて収穫できる国産の"夏秋イチゴ"という品種がある。外国産よりも糖度が高くおいしいため、より高値で取り引きされる。
「幸いにも日本列島は縦長で、全国の生産者が協力すれば、時期をずらした収穫が可能だ」(佐藤氏)。各地の生産者を組織し、こうした付加価値の高い品種を流通させることができれば、利幅の大きなビジネスになるだろう。
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