大東ビル(耐震補強及び改修工事)

ハザマ現場レポート

立川ワシントンホテル

Interview & Writing:藤田峰子

コンペを勝ち抜いた提案力と
設計施工でこその施工効率アップ

設計コンペを勝ち抜いた「才色兼備」提案

建物全景

 東京都立川市。周辺に多くの大学や広大な公園を持つ、西東京の中核都市である。ここに昨年10月、「立川ワシントンホテル」がオープンした。昨年から10年ぶりに10棟を新規開業予定としているワシントングループホテルの1棟目となる。当社はこの物件の設計施工をコンペで勝ち取った。
 設計を担当した建築事業本部の田辺さんによれば、企業者にアピールしたポイントは大きく二つ。「企業者が歴史ある立川市のイメージから求めていた落ち着いた外観と、そこに新しさをミックスしたインテリアデザインのバランス(OLD&NEW)の良さ、そしてお客様を満足させつつもランニングコストからムダを省くアイデア。つまり、才色兼備」。

 

コンペの勝因ポイント1・デザイン

 茶系を基調に、ファサード、外観からロビー、室内まですべて品格のあるホテルとなっている。特に室内は広さ、バスルームの清潔感、インテリアからリネンに至るまで、一利用者としての視点からも申し分がない。ホテル内を案内して下さった立川ワシントンホテル総務部課長代理の大矢さんからは「お客様は空間と時間を買いにいらしているわけで、パーフェクトで当たり前、さらに付加価値を求めていらっしゃいます。その意味で、ハード面では好評です」と言って頂いた。
 付加価値で特筆すべきは「レディスフロア」だ。フロア自体、部屋のキーを持った女性しか入れないシステムになっている。2月から3月にかけての受験シーズン、ホテルは満室だった。東京へ娘を送り出す親にとって、これがどれほど安心なシステムか、経験者なら分かって頂けるだろう。かわいらしい化粧台がついているうえに、窓からは富士山が望める。
 また、シングルルームは従来のホテルより広く、ベッドはセミダブルが採用され、シングルにありがちな「寝るだけ」といったせせこましさがまったくない。

化粧台付きのツインルーム
レディスフロアの廊下とエレベータホールを隔てるドア

 

左から、大矢さん、From One's Heart(株)、立川ワシントンホテル 代表取締役 高島優さん、田辺さん。
「竣工後、現場を担当された方が毎日のようにメンテナンスのサポートに来て下さって助かっています。営業前の試泊で私自身も静寂さは実感しております」(大矢さん)

 

コンペの勝因ポイント2・ランニングコスト低減への提案

 2つ目の決め手はランニングコストの合理的低減。「掃除しやすい状況をつくることでルームメイクの時間を10〜15分短縮でき、それが人件費につながっていく。各室のエアコンを集中型でなく家庭用にすることで、個別コントロールによる省エネができ、故障や不具合も簡単に直せる。換気システムの点検口を廊下につくることでメンテナンスが楽にできる。そのほかカーテンの種類に至るまで、快適でメンテナンスしやすいホテルを提案し、受け入れて頂いた」(田辺さん)
 グランドホテルのゆとり感を残しつつ、華美、重厚な装飾はやめることで、メンテナンスのコストを低減させ、かつ、ほど良い質感とやすらぎの空間をつくりだす。それを求めて、設計・施工両面から企業者との話し合いを重ね、客室に重点を置いたホテルが実現した。

各部屋に取り付けられたスタイリッシュなエアコン
メンテナンスしやすい廊下に備えられた設備類

 

ホテルの居住性を高める遮音

 ホテルにとって最も重要なものの1つは「居住性」だ。そこにはサービスというソフト面が大きく関わるが、ハードの要素で大きなものは「遮音」ではないだろうか。隣室や廊下から聞こえる音はホテルライフを大きく損なう。施工を担当した東京建築第一支店の中島さんに話をうかがった。
 「今回は、壁内にスタッド(軽量鉄骨)を千鳥に配列し、24kg/m350mm厚のグラスウールを使う工法を採用しました(図参照)。これによって音だけでなく振動も減衰されます。音には回りこみという現象があるので、ドアの隙間を埋めるドアボトムという装置も付いています。これはドアを閉めるとバーが降りて、密閉する仕組みです。また、外気を廊下に入れ、それから各部屋に回す給排気システムなので、廊下からの伝搬音を減衰させるために、ユニットバス上部空間を消音チャンバーとして利用しています」
 この遮音性についてはハザマ技術研究所の協力も仰ぎ、テストで十分な結果が得られたという。

遮音性能の模式図

 

設計施工による効率アップ

ホテルロビー

 今回の施工を中島さんは「客室部分の4階から12階までが同じパターンだったので、施工効率が良く、それが精度の高さにつながった」と振り返る。パターンの繰り返しによる管理費など目に見えないコストの圧縮。それを可能にしたのは、トータルに監理でき、トップダウンが効率的であるために機能的にコストダウンが図れる設計施工ならではのメリットだったという。「この成果はここだけのものではなく、マニュアル化することで、VEのメリットを中小の現場に適用できると考えています」
 品質の高いホテル建築は、次につなげる設計施工の実績にもなった。

 

工事概要

工事名称 (仮称)立川ワシントンホテル新築工事
工事場所 東京都立川市柴崎町3−7
企業者 From One's Heart(株)
設計 (株)間組一級建築士事務所
工期 2004.6.1〜2005.9.30
施工 ハザマ
工事概要 RC造 地上13階 延床面積6,040.45m2 建築面積806.76m2

立川ワシントンホテル大東ビル(耐震補強及び改修工事)