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国交省 第2回「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」

利益相反 双方代理めぐり論議

 国土交通省は2月17日、第2回目の「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」(座長:福井秀夫政策研究大学教授)を開き、 @個人の専門家による役員就任の問題点A管理会社が管理者に就任するケースの問題点BNPOなどが役員を派遣する場合の課題C論点@〜Bに共通するガバナンス確保の課題などについて話し合った。以下、各委員の意見を紹介する。(ほぼ発言順)

@個人の専門家による役員就任の問題点について

 親泊哲委員(日本マンション管理士会連合会会長) 組織的に対応する仕組みが必要ということに同感。とくに(管理者が死亡した場合、その引継ぎがスムーズにいく)継続性、(区分所有者の最大利益を図るための)各分野との連携が必要

A管理会社が管理者に就任するケースの問題点について

 吉田修平委員(弁護士) 利益相反を防止しないといけない。親子でも間違いがあるのだから、管理会社が管理者になる場合は外部の監査が必要。業者が理事長に就任するのは難しい。公的機関のチェックも必要かもしれない

 村辻義信委員(弁護士) 民法では本人が同意すれば双方代理は可としているが、マンション管理組合はこれに該当しない。厳しくチェックすべき

 樫谷隆夫委員(公認会計士) 管理会社と管理組合は必ずしも利益相反にあたらないのではないか

 村辻委員 (樫谷委員の意見に)反対。業者がよくないといっているのではなく、同一のマンションで業者が管理者になることは断じてあってはならない

 樫谷委員 チェック機能ができていれば不可能ではない

 安藤至大委員(日本大学大学院総合科学研究科准教授) (樫谷委員の意見に)反対 プリンターとトナーの関係と同じ(つまり、プリンターのリース料を安くして、トナーなどの維持管理費で儲けるというたとえ)。成年後見人制度は、児童相談所と一緒。ビンテージマンションのように価値が上がっていく管理が必要

 浅見泰司委員(東京大学空間情報科学研究センター教授) われわれはよくやるのだが、ピアレビューの発想がいいのでは。小さなマンションもあるので、コストも考えないといけない

 村辻委員 大手業者はみんな(第三者管理を)やりたくないと感じ取っている

 遠藤啓祐オブザーバー(法務省民事局参事官付) 成年後見人制度の活用は違和感を感じる。みんながマンション管理に関心を持つことが必要

 川田邦則専門委員(大京アステージ取締役) 大半の会社は第三者管理を受けたいと考えていない。利益相反にあたることはやらない。第三者管理がきちんと機能する制度が必要

BNPOなどが役員を派遣する場合の課題

 村辻委員 福岡の取り組み(福岡マンション管理組合連合会は17管理組合に理事長などを派遣。報酬は理事長は月額3万円)は先進的で評価できる。ただ報酬が安い。質の高い管理には不十分ではないか。自治会と管理組合が混同されている。国がきちんと啓蒙すべき

C論点@〜Bに共通するガバナンス確保の課題について

 樫谷委員 財務のチェックはできるが、他の部門は他の専門家との連携が必要

 吉田委員 コスト意識が必要。監査センターのようなものをつくって、管理組合のほうから依頼できるようにしたらどうか

 東要専門委員(特定非営利法人よこすかマンション管理組合ネットワーク監事) 成年後見人制度も株式会社の話もよく理解できない。普通なら自分たちで十分できる。機能不全になっても回復できる。村辻さんのお話ですが、管理組合は人にはお金を出さない。汗には出す。(理事の報酬などは)国交省で方針を出してほしい。われわれはネットワークづくりをしているが、理事長を探し当てるのが個人情報の問題とやらで大変。理事長は届出制にしてはどうか

 廣田信子オブザーバー(マンション管理センター主席研究員) 組合員同士の対立に関する相談事例が多い。人間関係が壊れると修復が難しい。理事長(の責任は)重い。外部に委託したらその人が攻撃を受けることになる

 安藤委員 第三者管理という言葉は、管理組合と管理会社と結びつくイメージが強い。名称を変えたほうがいい

 村裕太専門委員(三井不動産レジデンシャル開発事業本部都市開発二部部長) 組合は人的な問題とマネジメントの問題があり、両方の問題を抱えているケースもあるが、それぞれ解決方法は異なる。先ほど、プリンターとトナーの話が出たが、われわれデベロッパーは安く供給して、管理で儲けようと考えているわけではない。マーケットの中でそれぞれ考えている。管理組合と管理会社はウィン・ウィンの関係が構築できるはず。われわれはそうしている

 安藤委員 デベロッパーと管理会社の関係は、プリンターとトナーと一緒と例示したのではない

◇    ◆    ◇

 今回の論議で、第三者機関に管理を委託するのは様々な問題があることが論議された。その場合、弁護士、会計士、マンション管理士、あるいは管理会社などが管理することになるのだろうが、東専門委員が語ったように、管理組合は「人に金を出さない」。そんな余裕もない。機能不全を防ぐ手立てを講じるべきだ。すでに機能不全をきたしているマンションを救うのは、専門家がボランティアで取り組むのなら救えるかもしれないが、行政も支援するのは限界があるだろう。きわめて難しい問題だ。

 利益相反、双方代理、不正の防止も難しい問題だ。この点で、高層住宅管理業協会・黒住昌昭理事長がこんな話をした。銀行や管理会社職員の金銭にまつわる不正行為を引き合いに出し、「不正を完全になくすことは不可能。人は弱いもの。現金を目の前にすると魔がさすこともある。それを防ぐには、その予兆を見抜くことだ。その意味で、上司は部下をよく見ることが必要」と。

 この言葉は含蓄がある。いくら第三者機関に委託しても問題を防止することはできないのではないか。組合活動が楽しくなるような、人間関係をしっかりと築ける仕組みをつくる以外にないし、その音頭取りの育成を図るべきだ。

◇    ◆    ◇

 本日の検討会は「機能不全を起こしているマンションをどうするか」という論点で話し合われたためだろうが、記者は話を聞きながらずっと違和感を感じていた。管理組合が児童相談所の相談対象のように扱われ、あたかも無能力者であるかのような論議には腹が立った。プリンターとトナーの話は、最初、何を言いたいのかさっぱり分からなかった。

 「成年後見人制度にマンション管理を結びつけるのは違和感を感じる」と遠藤オブザーバーが語り、「後見人とか(管理組合を株式会社のようにとらえた)株式の話がよくわからない。普通なら(管理は)十分やっていけるし、(管理組合が)機能不全を起こしても回復できる力がある」と東専門委員が話したのには、少しだけだが溜飲を下げた。

 確かに問題を抱えている管理組合に対しては非常措置も必要だろう。場合によっては弁護士、会計士、マンション管理士などの専門家の出番もある。しかし、機能不全を起こしている管理組合が、それらの専門家に処理を任せた場合、どれぐらいの費用がかかるのか、果たしてその費用を負担する資金力があるのかどうかも問題となる。

 そうした論議よりも、検討会の名称が「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」となっているのだから、文字通り新しい管理のあり方に時間をさいほしい。この点では、デベロッパーも管理会社もずっと進んでいる。日常の管理は言うまでもなく、最近はマンションの価値を向上させるための取り組みのひとつとしてコミュニティ支援活動に真剣に取り組んでいる。原始規約にコミュニティ(自治会)に関する規約を盛り込み、サポートを行っているところは少なくない。管理会社も「専有部サービス」に力を入れており、様々な入居者の問題解決に取り組んでいる。

 村専門委員が「管理会社と管理組合はウィン・ウィンの関係」と言ったように、管理会社と組合がよくなる関係をどう構築していくかを論議すべきではないか。

 さらに強調したいのは、村辻委員が「管理組合は財産管理団体。自治会とはまったく別。みんな混同している。この点を国交省は明確にすべき」と語ったように、管理組合と自治会の役割を明確にし、それぞれが機能するようにすべきだ。記者は、この混同はすべて区分所有法に問題があるからだと思っている。

 判例でもあるように、「(管理組合の) 町内会の徴収は、共有財産の管理に関する事項ではなく、区分所有法第3条の目的外の事項」とし、「町内会費相当分の徴収をマンション管理組合の規約等で定めてもその拘束力はない」となっている。つまり、管理組合は町内会(自治会)の会費を徴収してはならないとも受け取れる。

 しかし、実際に組合活動を行う上で、町内会・自治会活動などのコミュニティ活動を抜きにして考えることはできない。たとえば、「餅つき大会」。規約の定めがないとして理事長がその費用負担や場所の提供を拒否したらどうなるか。理事長と組合員の人間関係はズタズタになるはずだ。組合員からは解任決議が提案されるかもしれない。法廷に問題が持ち込まれることも想定される。どちらが勝とうが負けようが、壊れた人間関係を修復するのは困難で、だれかがマンションから退去せざるを得なくなることもありうる。

 このように現行の区分所有法はきわめて窮屈だ。町内会・自治会の活動に参加しなくても法律には違反しないだろうが、昔は「おきて」を破れば生きていけなかった。程度によるが「おきて」は社会規範として合法と判断されるはずだ。

 管理組合の活動と自治会の活動はいわば車の両輪であり、組合が機械だとすれば、自治会は潤滑油であり触媒だ。潤滑油、触媒がなければ機械はやがて金属疲労を起こし、機能しなくなる。このように管理組合と自治会をとらえないと、益々共同生活に背を向け、組合活動に参加しない人を増やすだけだろう。悪循環を繰り返すだけだ。機能不全の原因は法そのものにあるのではないか。

 同じように語った人がいる。学習院大学法学部教授・櫻井敬子氏だ。櫻井氏は、国交省の「建築基準法の見直しに関する検討会」で次のように語った。

 「建基法も都市計画法も息の詰まる法制度。姉歯事件後の法改正に私もかかわったが、異常な雰囲気の中での改正であった。違反件数はそれほど多くなかったが、姉歯以外にも問題があったことを私は怖いと思った。建基法の信頼が根本から崩れたからだ。今回の改正では、もう少し賢い選択をしようとこのような検討会となったが、国交省の法律は緻密すぎて窮屈。硬直化している。もっとおおらかにアイデア、仕組みを考えてもいいのではないか」と。

 櫻井氏が指摘しているように、区分所有法をおおらかな内容に改正して、組合員が組合活動や自治会活動に参加しやすくなるようにすべきではないか。

国交省 マンション管理の新しいルールづくりへ検討会(1/10)

(牧田 司記者 2012年2月17日)