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 国交省 第4回マンションの新たな管理ルールに関する検討会

的外れの安藤至大委員の主張

 国土交通省は4月9日、「第4回マンションの新たな管理ルールに関する検討会」を開き、暴力団など反社会的勢力排除に係る専門家の活用などについて話し合った。

 暴力団の排除については、管理規約で暴力団関係者への譲渡・賃貸などを禁止する事項を盛り込むだけでは不十分で、具体的に実効あるものにするためには、暴力団対策法が改正された場合、暴力団排除関係の訴訟で暴力追放運動推進センターが原告となることのできる仕組みを導入すべきであり、弁護士などの専門家が管理者となり、原告として対応できるようにすべきとの意見が多数出された。

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 オブザーバーのマンション管理センター・廣田信子氏が「専門家が様々なアドバイス、サポートすることで理事会方式での管理ができるのが理想」と述べた直後だ。委員の安藤至大・日大大学院総合科学研究科准教授がこれに反論した。

 「理事会方式を理想というのは望ましくない。例えば、共働きの子育てマンションはお金を出してでも子供を保育園に預けるし、お互い忙しい DINKS マンションなんか、管理を第三者にしてもらったほうがいいというニーズはあるはず。第三者だろうと区分所有者の自主管理だろうが財産毀損の恐れは同じ。みなさん、銀行にお金を預けて管理してもらっているではないか。どうしてマンションの管理だけ特別扱いするのか」と自説を展開した。

 記者は、これを聞いて唖然とした。確かに、共働きの世帯やDINKSに限らず「理事など引き受けたくない」という人はたくさんいる。安藤氏の意見は的を射ているように思えるが、これは暴論だ。マンション管理の本質からは完全に逸脱している。管理の放棄にもつながる暴論だ。

 安藤氏の意見に沿って仮に、DINKSマンションに第三者管理を導入するとしよう。当然、管理者には報酬が支払われる。月額10万円ではどうだろう。DINKSマンションの戸数が多ければ、一区分所有者の負担は少なくなるが、DINKSマンションはせいぜい30〜50戸の規模だ。規模が小さいからといって報酬が安くなるはずはない。30戸だと、一区分所有者当たりの負担額は年間4万円だ。もちろん、これに賛成の人もいるだろう。しかし、一般管理費のほかに年間4万円の第三者管理費を支払おうとする購入者は圧倒的に少ないのではないか。10万円も報酬が支払われるのなら「自分がやりたい」と手を挙げる組合員が出てくるのではないか。

 安藤氏は、検討会の最初の会合でも「ヴィンテージマンションと呼ばれるような管理をしないとダメ」と述べた。これはこれで正論だ。しかし、安藤氏が「ヴィンテージマンション」をどのように定義づけしているのかわからないが、記者の予想では首都圏ではせいぜい100棟ぐらいしかないと思う。もちろんすべてが億ションだ。管理費は一般的なマンションと一桁は違うはずだ。管理をしっかり行っているから確かに評価は高いのだが、マンションストックのうちコンマ数%のヴィンテージマンションは、区分所有者が個人で弁護士だろうが税理士だろうが、マンション管理士を雇える資力がある。ほっといても十分管理は行われる。一般的なマンションの管理を巡って論議する場に、ヴィンテージマンションを持ち出す安藤氏の神経が全く理解できなかった。安藤氏は、一般的なマンションの管理費がせいぜい1坪当たり500〜600円ぐらいなのをご存知か。

 安藤氏は、その後もマンション管理会社と管理組合の関係をプリンターを安く納入して、その後納めるトナーで儲けることに例えたり、先の高層住宅管理業協会(管理協)と、全国マンション管理組合連合会の第三者管理方式の導入に当たっては慎重を期すべきと求めた「意見書」を「私の授業なら『不可』にする」などと語った。

 ここまで述べられると、いわざるを得ない。記者が学生だったら、安藤先生の授業は「優」でも「良」でもなく、進んで「不可」を受ける。ここでいうマンション管理とは、エレベータの保守・点検、日常の掃除などのマンション管理会社への委託業務ではなく、組合の意思決定を誰が下すのかという基本的な管理のあり方を指している。安藤氏は、このことを混同されているのではないか。

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 今回の安藤氏の意見に対して、面白い発言をしたのが辻村善信・弁護士だ。辻村氏は「さすが経済学者。安藤委員の考えはクラシカルなところにいる我々にはとても新鮮に聞こえた」としながらも、「私たち法律に携わる者は、マンション管理は国民主権と一緒で、区分所有者の総会が最高意思決定機関。総会の決議を最優先すると流れは従来どおりの発想になる。私も理事長などなりたくなかったが、自分たちのことだからやらざるを得なかった」と語った。

 辻村氏が「理事長などにりたくなかった」というのはこうだ。辻村氏は、自らが住むマンションの建て替えが行われたとき、「『お前、弁護士だろ。ただで(理事長を)やれ』と言われ、やむなく建て替え後の初代理事長に就任した」そうだ。つまり、区分所有者として理事長を引き受けたのであって、弁護士として就任したわけではないということだ。

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 この問題について、齊藤広子・明海大地域環境学部教授が先日行われた三井不動産レジデンシャル「サステナブル・コミュニティ研究会」のセミナーで次のように語っている。

 齊藤氏は「マンションは東日本大震災に強かったと」とし、それは、地震に対して強かったことと、非常時でもオンサイトサポート機能がきちんと働いていたこと、みんなのことはみんなで決めようという民主主義のルールが機能していたという3つの意味で強かったというのだ。

 この検討会がどのような結論を導き出すのか分からないが、安易な第三者管理方式を導入することだけは避けてほしい。辻村氏や齊藤氏が話したように、この問題は主権在民を守るのかどうか、民主主義のルールを守るのかどうかの問題だ。

国交省 マンション管理検討会 第三者管理で論議白熱(3/16)

(牧田 司記者 2012年4月10日)