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病気と運転

上)患者の思い「車のない生活困る」

2012年04月20日

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「車なしでは生活に困る」と話すてんかん患者の男性

 宇都宮市に住むてんかん患者の男性(33)は、2度目の事故を起こした昨年12月以降、車の運転をしていない。インターネットの匿名掲示板には、鹿沼のクレーン車事故のあと、患者への中傷の言葉が飛び交う。男性は「病気の苦しみは、なった人にしかわからない」と漏らした。

 男性に初めて病気の症状が出たのは昨年6月。自宅で意識を失い、けいれんを起こしていたところを母親(57)が見つけ、病院に搬送された。医師の診断は「てんかんの疑い」だった。鹿沼市でのクレーン車事故が頭をよぎり、「大変なことになってしまった」と気持ちは静まらなかった。

 「運転は控えるように」と医師から告げられた。しかし、自家用車に代わる交通手段は考えられず、「せめて通勤だけでも」と車の運転を続けた。その1カ月後、男性は運転中に意識を失い、追突事故を起こして相手に軽傷を負わせてしまった。

 契約社員として働いていた勤務先に病気を伝えたところ、通勤は友人や同僚の車に乗せてもらうことができた。しかし、9月の更新時には契約を打ち切られた。

 「病気を申告しても得になることなんて一つも無い」。やっと見つけた次の職場では病気のことは隠した。「周りに迷惑を掛けたくない」との思いもあり、通勤時には再びハンドルを握った。そして12月、再び運転中に意識を失った。車は対向車線に飛び出し、複数の車が関係する大事故となった。男性自身も鎖骨が折れる大けがを負った。

 母親は運転に反対したが、「息子の収入が支えで強く言い切れなかった」と後悔する。
 男性が将来への不安でふさぎ込んでいた時、病気のことを知った社長から電話があった。「けがが治るまで待っている」と言われた。仕事を続けられること以上に病気を受け入れてくれたことがうれしく、電話口で涙がこぼれた。

 通勤で車を使わずに済むようにと、社長の紹介で勤務先近くの寮に引っ越した。同僚も「薬飲んだか?」と声をかけてくれるという。

 車のない生活は自身の通院はもちろん、母親を病院に連れて行くにも、だれかに運転を頼まなければならない。「これまであたり前と思っていた生活が今はすごく遠い」。男性は、いつかは再び運転できる日を願い、薬の服用と通院を続けている。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 鹿沼市で6人の児童が犠牲になったクレーン車事故は、元運転手が運転中に持病のてんかん発作を起こしたことが原因だった。事故の再発を防ぐためにはどうすればよいのか。病気と運転をめぐる現状を報告する。(佐藤英彬、毛利光輝、浜田知宏、友田雄大が担当します)

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