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核燃半島 

【第4部 遠い安全文化】

(4)推進派VS.反対派

2012年04月21日

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2月9日に行われた東通原発の事故対策訓練。県原子力安全対策検証委は、東北電力と行政が協力し、事故想定シナリオを作成するよう求めている=東通村

 昨年7月14日、県主催による東通原発の運転再開の判断に向けた意見聴取会。「核燃・だまっちゃおられん津軽の会」代表、宮永崇史さんは、苦言を呈した。「意見をどう政策に生かすのか、理解しかねる」

 メモをとり続ける三村申吾知事からは、何の反応もない。原発推進派も、反対派もただ話すだけで対話はなかった。

 意見聴取会は三村知事の「判断材料集め」の一環だった。県は有識者による原子力安全対策検証委員会を招集し、県民説明会も開いた。それぞれの場の意見を「総合判断」したとして、知事は昨年末、東通原発の緊急安全対策を了承した。

 だが、意見をどう勘案したのかは分からない。反対派も交えた多様な視点で、対策を検証することはできなかったのか。県幹部は「安全神話と言われるが、反対派は危険神話。危険を主張するだけで、建設的な議論ができない」と語る。

◇ルール設け土台

 原発推進から反原発までを集めて安全を提言する会議が、新潟県にある。2003年、県と柏崎市など4自治体が設けた「柏崎刈羽原子力発電所の透明性を確保する地域の会」だ。

 毎月、各団体が推薦した委員25人が集まり、東京電力や国が同席する。02年のトラブル隠しで東電を信頼できなくなった自治体が、独自に原発を監視すべく両派を巻き込んだ。

 「なぜ、推進派の息のかかった商工会議所が会場なのか」。会議は初回から険悪だった。反対派と推進派が互いを罵倒する発言が目立った。地域の会会長の新野良子さんは「最初の1年はほとんど建設的な議論になりませんでした」と振り返る。

 議論を前に進められた理由に、新野さんは「原発の存在の可否は議論しない」とのルールを挙げる。これで、反対派にも推進派にも重要な「安全」に絞って議論する土台ができた。

 「事実」として発言する時は、その根拠を示すルールも設けた。客観的な根拠を欠く「事実」を除くことにより、議論に余計な対立を持ち込むことを減らせた。

 地域の会の提言に沿う形で国は08年、原発の緊急情報を発信する携帯電話サイト「モバイル保安院」を開設した。「多様な住民が、継続的に事業者や行政と議論することは大事。安全ルールはみんなの合意で決めるものです」と新野さんは言う。

◇対話を始める時

 地域の会のように、異なる立場の人たちが共通する重要テーマを設定することを「共同事実確認」という。だが、実際の会議では議論が入り口で対立し、重要なテーマにたどり着けないことはよくある。

 06年に原子力施設の耐震指針を改訂した原子力安全委員会の検討分科会もそうだ。東京大の土屋智子客員研究員の調査では、議論の2割が地震想定の論議にさかれ、福島第一原発事故の原因となった津波に関する議論は0・04%に過ぎなかった。

 「委員の原子力への思想の違いが、議論を対立軸の明確な活断層に偏らせた可能性がある」と土屋さんは指摘する。多様な意見は建設的な方策を生む力がある。行政は議論を導く努力をすべきだという。だが、原子力をめぐる県のこれまでの対応には、その努力はみられない。

 県原子力安全対策検証委員会は昨秋、東通原発の訓練用の事故想定シナリオを東北電力と行政が共同で作るよう、提言した。委員の谷口武俊東京大教授は「電力と住民も含めた地域との対話のきっかけ作りが狙い」と明かす。

 提言から半年。県も東通村もまだ、事故想定シナリオづくりの準備すら未着手だ。地域全体で原子力を監視し、より高い安全を目指す。遠い道のりだが、歩むべき時は来ている。=おわり(長野剛が担当しました)

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