口コミに関わる事業者、広告代理店、広告主、プラットフォーム運営者、ユーザー自身、それぞれの課題が積み重なり、ネットという自由に表現し、ビジネスの場になる「共有地」の信頼が失われるという悲劇が生まれている。
■行政による規制強化は避けるべき
では、不正な口コミは野放しなのかというとそうではない。
筆者が立ち上げに関わり、ガイドライン委員長を務める口コミマーケティングの普及・推進団体「WOMマーケティング協議会(WOMJ)」は、グーグル日本法人によるケースを大きな契機として組織化され、日本における口コミマーケティングに関わるガイドラインを2010年に策定している。ガイドラインでは、口コミを自発的なものとして位置付け、事業者はどのような関係でマーケティングが成立するかを消費者が理解できるようにするよう会員社に求めている。例えば、「キャンペーンに参加している」や「献本を受けて感想を書いています」などの表記を書いてもらうなどだ。
「WOMマーケティング協議会」は口コミマーケティングのガイドラインを設けた
ガイドライン策定には1年を要した。ネットに限らず、口コミを期待するマーケティング施策について様々な角度から検討した。スーパーマーケットの店頭で試食を進める場合はどうか、ゲリラライブを行うにあたり事前に知らせておくのはどうか、などだ。結局、問われているのは消費者から見て広告主と情報発信者の関係性が明らかになっているかどうかだと判断した。
WOMJのガイドラインは自主的な取り組みで実現性がないと批判も受けているが、これまで加盟にあたって2社が規約を改定して関係性明示のポリシーをホームページに掲載するなど健全な取り組みを始めている。
今回の騒動を受けて行政の対応を望む声もあるが、規制強化につながるようなことは避けたい。繰り返すが、口コミはレビューサイトだけの問題ではない。ネット上の情報の信頼性、さらには自由に発言し、自由に商業活動ができることが失われてしまう恐れがある。まずは、関係者が自らの問題として取り組むのが先だ。これをきっかけにガイドラインや健全化に関心が高まることを期待したい。また、ユーザー教育やメディアリテラシーという観点からの取り組みも必要だ。情報の受け手というところから一歩進んで発信者としての自覚や倫理についても早い段階から学ぶ機会を設ける必要もある。
ソーシャルメディアの時代、発信者は受信者となり、受信者は発信者となる。企業の担当者も口コミを参考にしているユーザーのはずだ。自らが消費の参考にするネットの情報を自らの手で参考にならないものに「汚している」という意識がほしい。ソーシャルメディアや口コミに関わるのであれば常にユーザーとしての視点を忘れてはならない。
藤代裕之(ふじしろ・ひろゆき)
ジャーナリスト・ブロガー。1973年徳島県生まれ、立教大学21世紀社会デザイン研究科修了。徳島新聞記者などを経て、ネット企業で新サービス立ち上げや研究開発支援を行う。学習院大学非常勤講師。2004年からブログ「ガ島通信」(http://d.hatena.ne.jp/gatonews/)を執筆、日本のアルファブロガーの1人として知られる。
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