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北九州監禁殺人・高裁判決要旨 北九州市小倉北区の監禁・連続殺人事件で福岡高裁の控訴審判決要旨は次の通り。(敬称・被告呼称略) 【主文】 1 松永の控訴を棄却する。 2 原判決中、緒方に関する部分を破棄する。緒方を無期懲役に処する。 【監禁被害女性の父事件】 父親の男性に(松永らから)過酷な食事や睡眠など動作制限、閉じ込めを含む居場所の制限など日常的な虐待のほか、通電による暴行が執拗(しつよう)に加えられたことは、緒方や監禁被害女性の供述から明らか。 松永は死亡直前の男性が大幅にやせたことを認識していた。健康状態の悪い男性に通電したり、自由を制限するなど異常なストレスを与えたりすることが健康状態をさらに悪化させることを理解する能力があった。医療機関に診察、治療を受けさせなければ、早晩生命に危険があると予想できたのに、悪行が知れて指名手配中の容疑で逮捕されるのを恐れ、医療を受けさせなかった。 こうした事実を総合すれば、少なくとも松永に未必的な殺意があったと認められる。 緒方も松永の指示で男性に通電などの暴行を加えた。男性が衰弱した事実、通電など暴行を加えることの肉体的、精神的な衝撃、ひいては死亡する危険性について認識していたと認められるから、殺人の未必的故意などを失わせる事情は見いだし難い。 【誉事件】 緒方や女性の供述は部分的な食い違いはあるにしても、松永の指示で緒方が通電したことは一致している。緒方が松永の意向に反して通電することは考えられず、松永の指示による緒方との共謀があることに疑いを入れる余地はない。 女性によれば、緒方が通電した直後、誉は顔から倒れ、意識を回復することなく死亡したと認められる。従って、松永と緒方の共謀による通電行為と誉の死に因果関係があることは明らか。 確かに緒方は松永の強い影響下で誉への通電を行ったが、緒方が誉の両乳首あるいは唇に通電するという死の危険性の高い暴行を加え、誉が電撃死。傷害致死罪の成立を妨げる要素はうかがわれない。特に緒方は誉に通電する際、心臓に近い部分に通電することになるため怖いと感じ、松永に「大丈夫かな」と尋ねた上で通電しており、「人の枢要部に危険な通電をしてはならない」という規範に直面しながらも、最終的には自らの意思で規範を乗り越えて危険な行為に及んだものと認められる。 【静美事件】 松永が静美殺害について緒方、主也及び理恵子に指示したことは、信用性のある緒方の供述によって認定できる。 松永にとって、すでに緒方一家は利用価値がなくなっており、かえって誉事件や松永の日ごろの言動を熟知している緒方一家の存在は経済的な意味も含めて負担になっていた。松永は誉の通電死、死体の解体、その後の異常な生活や集中的通電などを経て、寡黙となり奇声を発するようになった静美の殺害を決意。緒方、主也、理恵子に「どうにかしろ」と命じ、入院させるなど静美の健康回復を考える緒方らの提案をすべて拒絶した上、静美の処遇について「早くしろ」と命じて結論を急がせ、緒方らを誘導して殺害を決意させている。 松永は自分は誉の死亡に関係がなく、静美を入院させることにさほど不安はなかったが、入院が決まりかけても主也が躊躇(ちゅうちょ)したので、緒方が殺害する方向で理恵子や主也を説得したと述べるが、当時の力関係から見て、松永が静美を入院させると決めれば、緒方一家が反対するはずがない。松永が静美殺害を決意していたことは明らかである。 緒方は静美の健康回復の方策を松永からことごとく否定された。静美を殺害するよう求める松永の意図を知った後も、2時間以上にもわたって主也らと相談を重ねて逡巡(しゅんじゅん)しつつも、松永に実行を強く促され、殺害行為に及んでいる。そこには「人を殺してはならない」との強い規範に直面しながらも、最終的には自らの意思で主也らとともに規範を乗り越えて殺害行為に及んだというべきで、間接正犯の「道具」であったとの主張は採用できない。 【理恵子事件】 松永による理恵子殺害の指示があったことについては、原判決が事実認定の補足説明で詳細に検討しているとおりである。 緒方の供述は従前の経緯に照らして不自然さはないこと、緒方及び主也には、松永に指示される以外に理恵子を殺害する動機は見いだせず、緒方が指示がないのに理恵子を殺害することは考えられない。 緒方の供述は女性の供述する状況とも矛盾はなく、高い信用性が認められる。 松永の指示の下、松永、緒方及び主也が共謀の上、松永による暴行、虐待によって意思が完全に抑圧されていた彩に実行行為の一部を分担させて利用することにより殺害目的を遂げたものと認められる。 緒方は主也や彩と、松永の言葉や態度の意味について話し合い、理恵子殺害を意味するものであると確信するや、絞殺に使用する電気の延長コードを準備している上、松永の意図に納得の行かない主也に「松永が起きてくるから、終わっておかないとひどい目に遭うし、理恵子も生きていたってつらいだけだし」などと言って、実行行為者である主也に殺害の決意を促したりしており、犯行において極めて重要な役割を果たしている。 緒方が直接行使した有形力が、理恵子の足の指先を軽く押さえただけであったからといって、その共同正犯性に欠けるところはない。 【主也事件】 松永、緒方らが共謀の上、主也に医師による適切な治療を受けさせて生命を保護すべき義務に違反し、確定的殺意をもって殺害したものであることは優に認められる。 医療機関の治療を受けなければ、死亡する危険があることも認識できたと考えられる。近隣の病院に搬送することは容易であり、治療を受ければ、救命は十分に可能であった。 にもかかわらず、悪事の発覚を恐れたため、衰弱しきった主也を病院に搬送するなど、適切な方策を講じないまま放置し、その結果、死亡させたことに疑いをいれる余地は全くない。 緒方においても、病院に搬送するなど適切な方策を講ずる義務が生じていたにもかかわらず、なんらその方策を取ろうとせず、松永と共に主也を放置し、その結果、死亡させているのであるから、松永との共謀による不作為犯としての殺人罪が成立することに疑いをいれる余地はない。 【優貴事件】 緒方の供述と女性の供述とでは、犯行場所と具体的な態様について食い違いがある。しかし、松永の指示で優貴を絞殺することになったこと、松永自身が彩に対し直接、優貴殺害の説得をしたことについては、両者の供述は一致している。 優貴殺害に至る経緯及び殺害状況のうち、いくつかの重要な事実において緒方と女性の供述は一致しており、少なくとも、松永の指示によって緒方と彩及び女性がひもまたはコードで優貴の首を絞めて殺害したという限度では、両名の供述の信用性は高いと言える。 犯行場所や態様については供述の対立があり、女性の供述を取るべきか緒方の供述を取るべきかはにわかに断定できず、結局択一的な認定をせざるを得ない。その意味で、女性の供述に依拠して事実認定をしている原判決には誤りがあるが、これが判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認とまでは解されない。 緒方の行為に共同正犯性に欠ける点がないことは指摘したとおり。むしろ松永から優貴殺害を指示された際、優貴はこれまでの事件内容を知らないから殺害するには及ばない旨、自分の立場の範囲内で、松永が殺害を思いとどまるよう進言していること、松永においても緒方に優貴殺害を決意させるのに約10日間程度の時間をかけて説得していることは、緒方がなお自らの意思(良心)や主体性を完全には失っていなかったことを表している(この点は量刑上考慮すべきであると考える)。 【彩事件】 松永は殺害の実行行為をしておらず、実行行為者との間に共謀もないから無罪であると主張する。しかしながら、彩の死亡の事実は明らかであって、死因は松永と緒方が通電したことによる電撃死か、それとも松永の命令により、緒方と女性が彩の首を絞めたことによる窒息死のいずれかであって、緒方一家事件の流れからみて、松永が主犯となって緒方とともに彩を殺害したことに変わりはない。したがって原判決に事実誤認は認められない。緒方が彩殺害の共同正犯となることに疑いをいれる余地はない。 【責任能力などについて】 一連の犯行当時、緒方の是非善悪の判断能力に問題は感じられない。問題は、DV(配偶者や恋人からの暴力)被害や電気ショックの強い影響下にあったため、その判断に従って行動する能力があったかどうかである。基本的にDV被害などの影響によって、最終的に松永に逆らえないという気持ちがあったものの、一定の自分の考え方も持っていたことがうかがわれる。殺人などの重大事件を起こすにあたり、躊躇したり逡巡したりする余地があった。適法行為の期待可能性がなかったとも言い難い。 ただし、緒方自身、松永と親密な交際を始めた84年ごろ以降、暴行を受け続け、自殺未遂を図るまで精神的に追い詰められたこともあった。長年の暴行や虐待のほか、松永の指示の下で犯行へ加担させられることにより、心理面に大きな影響を受けたことが考えられ、正常な判断力が影響を受けていた可能性は否定できない。 緒方一家のうち、特に元警察官で、精神的、肉体的に問題がなく、意思を貫く性格と言える主也が、親族の死体の解体作業や殺害などに抵抗もせず加担していることは、松永の人心操縦技術が巧妙で、通電などの虐待が被害者らの人格に少なからぬ影響を与えたと考えなければ到底理解できない。この点は緒方の量刑を考えるにあたって考慮すべき一つの要素になる。 【量刑について】 1 逃亡中の生活資金欲しさに被害者らを支配下に取り込んで、金銭を搾取する等の悪質な行為を繰り返し、さらに、被害者らを解放した場合、自分たちの悪行が警察に暴露されるのを防ぐため、監禁またはこれに近い状態に陥れ、利用価値がなくなれば殺害することも辞さなかったという各犯行は、松永の極端な自己中心性の表れで、警察の裏をかいてあざ笑うような手口は、まさに法を恐れぬ所業である。 被害者らを肉体的、精神的に虐待するだけでなく、被害者らの他の者への不満を巧妙に引き出し、互いに欠点をあげつらうよう仕向けるなど、各人を疑心暗鬼に陥れて家族のきずなをも切断。犯罪に加担させて精神的に救いのない状態に追いつめ、自尊心を奪い、無気力にさせ、次々と肉親の殺害に手を下すまでにさせており、我が国の犯罪史上まれに見る冷酷、残忍で凶悪な事犯である。 松永は完全犯罪を企図し緒方らに協力させて、各犯行後、被害者らの遺体を解体した上、肉片は煮て溶解させて公衆便所に流したり、公園の植え込みに捨てたりし、骨片は砕いて海中等に投棄。犯行場所である浴室の配管を取り換えさせるなど、徹底的な証拠隠滅をしている。 主導した松永の人命を軽視する態度や犯罪傾向は顕著である。また、松永には真摯(しんし)な反省の態度が全く見られない。 本件の罪質、動機、態様は極めて悪質で、その犯罪件数は多く、ことに殺害された被害者は殺人6名、傷害致死1名であり、被害者らから奪われた金銭は合計数千万円にも及ぶ等の事案の重大悪質性、遺族の松永に対する被害感情は極めて強いこと、本件の社会的影響、真摯な反省が見られないことなど諸事情に照らせば、刑事責任は極めて重大で、主犯である松永については原判決のとおり死刑が選択されるべきは当然である。 2 緒方について (1)背景となる特殊事情 長年連れ添ってきた内縁の夫である松永との間に2人の子供をなしていたこともあり、警察に捕まりたくない、松永と一緒に逃げ延びたいという気持ちがあったことは否定できない。 しかし84年ころ以降、松永から長年にわたって殴るけるの暴行はもちろん、たばこの火で胸に「太」と焼き印を入れられる、安全ピンと墨汁で入れ墨を入れられる等の虐待行為を受けていること、一定期間、松永から集中的な通電等の暴力を受けたことなどを考慮すると、松永に対し強い恐怖心があって、その意向には逆らえず、各犯行に加担してしまった面も強い。 虐待の影響により、あるいは各犯行に加担させられることにより、心理的に大きな影響を受け、正常な判断力がある程度低下していた可能性は否定できず、緒方が置かれた特殊事情下では、適法行為の期待可能性は相当程度限定的なものであったと考えられる。 (2)松永への従属性について 一連の事件はいずれも松永が発想したもので、緒方は松永との間に子供もいたことから、松永と同居していくしか考えられない逃亡生活の中で、松永への強い恐れもあって追従したと認められる。 個々の事件を見ても、松永に示唆ないし暗示され従ったもので、緒方が自発的に松永の意向を推測し、率先して犯行を思い立ったという意味での限定的な自発性も認められず、むしろ一部の事件では犯行実行を躊躇し、犯罪を回避する方向での進言をしたこともうかがえる。 以上によれば、各事件へのかかわり方としては、松永に追従的に行ったものととらえるのが相当である。 松永が他の者から通電はもちろん、いかなる暴行も受けることのない絶対的な上位者であったのに対し、緒方は松永やその指示を受けた者らから通電されたり食事制限をされていたし、到底緒方の本意とは考えられない緒方一家の殺人の実行行為や死体の解体作業という相当の精神的負担を伴う行為に関与させられており、長年にわたって松永の手足として汚れ役を強いられてきたと評価できる。 緒方は松永の様々な悪行を知りながら、松永に幻惑されて批判力が乏しく、行動を共にするという人生の選択を繰り返し行ってきた。松永との交際を家族に反対されており、しかも暴力を振るって人を従わせる特異な人格傾向を持つ松永との関係が行き詰まって自殺を図った後も交際を継続することにした時点、詐欺事件等を起こして警察に追われる身になり、自らの罪を償うべき立場に立った時点、及び各犯行当時、「人に通電してはならない」「人を殺してはならない」などの単純で明白な規範に直面した時点においてでさえそうであった。 松永のもとから逃走しようとした際、警察の助けを求めなかったことについても、松永の暴力に対する恐怖心やDVの被害者特有のものと考えられる松永に迷惑をかけてはならないという特殊な心理状態に陥っていたという要素も否定できないものの、すでに重大事件に深く関与し、警察に駆け込んで保護を求めることが困難な状況にあったことも大きな要素となっていたと推認できる。 (3)結論 各犯行は、緒方が特異な人格を持つ松永主導の下、適法行為の期待可能性が相当限定された中で、追従的に関与したものであること、松永の存在抜きには緒方が犯行を犯すことは考え難く、再犯の可能性も高くないと言い得ること、緒方は逮捕後しばらくは黙秘の態度をとったが、その後、自らの罪を清算する旨決意し、隠し立てすることなく自白するに至っており事案解明に寄与したこと、自白に転じた後における真摯な反省状況及びその過程で緒方が人間性を回復していることがうかがえることなど、酌むべき事情を総合考慮すると、緒方の情状は松永のそれとは格段の差がある上、罪刑の均衡及び一般予防の見地等、客観的な事情を考慮してもなお、極刑をもって臨むことには躊躇せざるを得ない。 そこで緒方に対しては無期懲役に処し、終生、贖罪(しょくざい)の生活を送らせるのが相当である。 (2007年9月27日 読売新聞)
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