変換辞書をめぐるFAQ

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ATOKの変換辞書の語彙には、いわゆる不快語・表現などに関する語彙が収録されていないようですが...。


他人を不快にさせるような印象を持つことばの存在は、一般的に認識されていると思われます。

ATOKの変換辞書のような変換機能のための辞書においては、従来から編纂出版されてきた紙の辞書と異なり、不快なことばがたとえ登録されていたとしても、お客様の目に直接触れることはありません。

しかし、そうしたことばを変換辞書に収録することにより、故意ではなくても無意識のうちに、あるいは誤変換の形で文書中に挿入されてしまう、という可能性がでてきます。

そのような場合、たとえ本人にその気がなくても、結果的にあることばが他者に対し不快感を与えたり、また思わぬところで、差別意識を助長する結果にならない、とは誰にも保証できません。

また、一度、文章となってしまうと、もともとどのような意図でその単語を使ったかは、伝達が進めば進むほど不明確になります。インターネットによって、即時に多数の人に情報を伝達できる現在ではなおさらです。

上記のような状況も想定し、ATOK監修委員会での討議も参考の上、変換辞書への収録は慎重かつ誠意を持って対処するようにしています。

ジャストシステム


ATOK監修委員会は、この種の言葉を収録するか否かをめぐって、さまざまな角度から長期にわたり、検討した結果、社会のあるべき人権意識に立脚し、現時点では、原則として収録しない方針を採用しています。

戦後社会の大きな変動により、用いられなくなった言葉、あるいは用いるべきでないとされる言葉も数多く生じています。その上、言葉は用法によっても左右され、一般的な語彙でも不当な目的に用いることが可能なために、いわゆる差別・不快語の範囲を定めることは容易ではありませんが、ここで肝要なことは、差別や障害に苦しむ人々の立場に身を置くという一点にあると考えます。過去にこの問題が生じた際には、日本社会としては初めての体験でもあり、過剰な反応をめぐって表現の自由を損なうという意見もあり、議論が交錯したことは記憶に新しいものがありますが、試行錯誤の結果、現在ではその種の用語、用法に慎重を期すということに、社会的な了解が生まれているものと考えます。

むずかしいのは、このような言葉や概念を客観的、学問的に論ずるような場合です。参考とすべきは出版物の場合で、この問題意識が生じる以前の古い出版物を見ると、たしかに人権意識が十分でない場合も多々見られますが、その場合には、出版物の影響力が著者や刊行者の意図を超えて拡大しがちであるという大方の認識をふまえ、たとえば「今日の人権意識に照らして不当・不適切と思われる語句・表現が見られる個所があるが、時代背景と作品価値に鑑み、修正・削除は行わない」などの断り書きを付すことが、慣例となりつつあります。一般の紙の辞書類においても、語彙の選定に慎重な検討を加え、必要に応じて「現代では障害者差別の語とされている」などと付記し、利用者の注意を喚起し、そのことによって編者の意のあるところを示すという例も見られます。

変換辞書の場合にも、基本的に同じ原則が採用さるべきものと考えますが、紙の辞書その他の出版物の場合と異なり、今日さまざまな理由から問題にされる語彙やそれが用いられる文脈について、留意を促すような注釈や見解を付すことができないという大きな相違があるため、選んだ語彙の総体(全体像)をもって選定の姿勢・方針を示すことが、現在最も適切な方法と考えています。これを最善の策とは考えませんが、しかし、現在なお差別や偏見が絶えないという厳しい社会的状況を考慮するとき、私たちとしてもその解消のために努めることを使命と考えるものです。

多様化する社会のもと、言葉の選び方、用法をめぐってもさまざまな論議があり得ますが、私たちはかねがね良識ある社会の価値観を形成し、共有することこそが急務と考えています。その上に立って、差別と偏見、蔑視の解消されることが一日も早からんことを願い、今後ともよりよい辞書づくりに努力する所存です。

ジャストシステム・ATOK監修委員会



update : 2007.05.17