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真実はいつも一つ!?
 私の名前はくすのき京香きょうか。15歳の女子高生だ。
 身長は普通、体重は秘密、胸は普通より小さ……って、普通で悪かったわね!
 髪は薄い茶色に染めているけど、ギャル系の見た目ではない。ちなみにポニーテールよ。ツインテ派の人たち、ごめんなさい……

 ――はい、自己紹介終了!
 続きは追い追い、物語の中で勝手に想像したり理解していってくれるとうれしいな。
 というわけで、本編の始まり始まりー



☆☆☆

 今日は休日で学校は休み。一日中家にいる予定の私は、暇を潰そうとリビングのテレビの横で棚を漁り、探し物をしていた。
「ゲホゲホッ! あーもう、ホコリ臭い!」
 初登場のセリフがこんなカッコ悪いものになってしまった……
 だがそれでも、私にはどうしても探し出さなければならないものがあった。
 私はリビングのテーブルから持ってきた椅子の上に乗っかり、棚の高い所を漁り始める。
 私が探していたのは、とある映画をダビングしたDVDディスクだ。何故だか唐突にそれが観たくなり、いてもたってもいられなくなったのだ。
 ――私が過ごしているのが平凡な日常だからこそ、スリルとサスペンスとありえない馬鹿馬鹿しさが欲しい。平凡な日常だからこそ、とうてい普通ではないものが見たい。()()()()()だからこそ……
「ハーッハッハッハァ! 我が高貴なる使い魔よ! とうとう貴様も、我が邸宅に隠されている『魔導書の原典』の存在に気付いたようだな! だが残念かな。『原典』は既に、この邸宅にはない。われの頭の中にあるのだよ! 10万3千冊全てな!」
 私の3メートルほど後ろ、リビングに置いてあるソファーから声がしたが、聞かなかったことにした。
「どうした? 我が忠実なるしもべよ。 我のような強大なる魔王が相手とはいえ、気兼ねなどせんでよい。気軽に口を開いてもいいのだぞ」
 後ろに()()()()()()存在がいたが、いないことにした。
 ――普通じゃない普通じゃない普通じゃない……
 なんでこんな普通じゃないやつが、普通に現実にいるのよ!
「……ときに"妹"よ。貴様、さっきから下着がまる見えなのだが……痴女なのか?」
「――っ!?」
 さっきから椅子の上で爪先立ちになっていた私は、慌ててスカートのうしろを手で押さえた。
「このヘンタイ! し、しんっじられないんですけど!」
 私はソファーを振り向いて、声の主を怒鳴りつけた。が、声の主はどこ吹く風といったていで、
「ふっ、どうやらイッパシの羞恥心はあるようだな。安心したぞ」
 意味のわからない微笑を浮かべている。
「へ、ヘンタイヘンタイヘンタイ! 妹のパンツ覗くなんてありえない!」
「案ずるな、我が第一の眷属けんぞくよ。貴様のシマシマの下着など、本当は見えてなどいない」
「見えてたんじゃない! なんで私のパンツの柄知ってるのよ!」
「ときに貴様、さっきから一体、何を探しているのだ?」
「私の質問に答えろ!」

 偉そうにソファーに踏ん反り返っている、普通に普通じゃないけど普通に存在しているこの男は……
 私の、"兄"なのだ。
 ……残念なことに。


☆☆☆

 私の兄さん―― くすのき悠賢ゆうげんの容姿について、説明します。
 整髪料でオールバックに流したその髪は、生来の精悍せいかんな顔付きによく似合っている。爽やか系というよりは、ちょい悪なダンディズムを醸しだしていた。
 ソファーに座っているこの状態では分かりづらいが、背も脚もスラリと長く伸びていて、俳優やモデル向きの体型をしている。
 ――つまり、端的に言えば、"イケメン"だ。
 だが、私の兄さんは、()()()()()()()()()()()()()()、奇抜な見た目をしているのだ!

 ――まず、その服!
 マントよマント! 漆黒の!
 映画や漫画で見る、ドラキュラ伯爵が着ているような、襟がビンビンに立った、首筋から足元まで多い尽くすマント。
 ……何コレ?
 これはハロウィンですか? いいえ普通の休日です!
化け物の衣装を見にまとい、悪戯するぞと脅迫しながら物乞いをする日ではありません!
 兄さんは……
 普段から、四六時中このマントを着ているのだ!


 それだけじゃなく!
 ――その髪の色……
 "赤"。
 赤はないでしょ赤は!
 黒髪から赤髪に染めた理由→天罰神を我が身に取り込み、紅世ぐぜからやってきた"ともがら"を討滅する力を得たため。
 ……って、どこの"フレイムヘイズ"だコラァ!
 シャナちゃん気取ってんじゃねえぞ!
 だったら非戦闘時は黒髪にしやがれ!


 そして極めつけは……
 ――その顔!
 左目に黒の眼帯、右目に赤のカラーコンタクトってどゆこと!?
 15年間一緒に暮らしてきたから知ってるけど、お前は両目とも健在だろうが!
 何その、どこぞの海賊船長みたいな眼帯! どうせならヒゲとフックも付けやがれ!
 ちなみにその眼帯取っ払っても、"うちは一族の血継限界"もなければ、"人間ベースのホムンクルス大総統が持ってる最強の眼"の一つもありゃしないわよ! ただの飾りよ、か・ざ・り!
 加えてその右目……
 お前がカラーコンタクトに初挑戦したとき、ビビって目に全然入れられなかったの知ってんだからな!
 しかもコンタクトしたまま昼寝して目真っ赤に腫らしちゃって、とんだ魔王だよ!


 ――こんな、重度の"厨二病患者"な兄さんと、私は一緒に暮らしているのだ。


☆☆☆

 兄さんの質問責めに耐え切れず、私は面倒くさかったが答えてやることにした。椅子の上に立ち、棚を漁りながら、背中越しに呟く。
「コナンよコナン、名探偵コナン。小学生の頃に観た劇場版の『世紀末の魔術師』が観たくなって探してるの」
「ああ、『世紀末の魔術師』か。……20世紀の終わり、われが"黙示録撃ハルマゲドン"でこの世を終末へといざなったときの伝記……」
「"|恐怖の大王(アンゴル=モア)"かっ! 真顔で過去を懐かしむように言うな!」
 ソファーに踏ん反り返り、遠い目をした兄さん。
 ――演技って分かってんだからな! 上手いけど!
「まあ我としても、アニメの録画の失敗にキレた勢いで世界を滅ぼしてしまったあの"黒歴史"は忘れたいからな。一先ず置いておくとして……」
「理由しょうもなっ! 気持ちは分かるけどくだらなっ! ――ってか、歴史も何も、ハナっから捏造じゃないの! 兄さんの黒歴史は"今現在"よ"今・現・在"! 」
「ふっ、解せぬ」
 は、鼻で笑うな!
「解せぬ、じゃないわよまったく……。厨二病乙!」
 ――ホント、兄さんの"妄想"や"設定"もいい加減にして欲しいわ。
 付き合わされる妹の身にもなってみろっつーの。

 兄さんの"設定"は、実はかなりいい加減で、()()()()()()()
 今日は魔王とか言っていたが日によっては、勇者になったりフレイムヘイズになったりバンパイアになったりバンパイアハンターになったり冥界のネクロマンサーになったりゾンビになったり宇宙人未来人超能力者、普通の人間に狂気のマッドサイエンティストやスーパーハカー、ゼウスにバーサーカーにジークフリート……
 とにかく、その時の気分で変わる。
 その度に振り回される私は、いい迷惑だ。
「ときに、我が無双のサーヴァントよ。調度我も、名探偵コナンを見たかったところなのだ」
 私が一生懸命DVDを探している姿を眺めながら、相変わらずソファーの背もたれに全力で寄り掛かっている兄さん。
「あっそ。じゃあ探すの手伝いなさい」
「なっ! き、貴様! 中尉の分際で大佐である私に命令するなど……!」
 "いかにもシリアスパートです"的な空気感で叫んだ兄さん。
 マントの内ポケットから、手の甲に円をベースとした模様が描かれた白い手袋を取り出し、素早く身につけた。そして勢いよく立ち上がり、
「炎の錬金術で灰にしてくれるわ!」
「黙ってろ二等兵! マスタング大佐は中尉にそんなことする人じゃないわよ!」
 大佐は部下を大切にする人望厚いキャラなんだから、兄さんの厨二病で汚さないで欲しいっての……
「解せぬ」
 "心底解せない"といった表情をした兄さんは、手袋を取らないまま再びソファーに座ると、おもむろに"考える人"のポーズをとった。まるで入試問題を解く受験生のように、真剣な面持ちをしている。
 ――こうしてれば、それなりにカッコイイのになぁ……
 悔しいけど、本っ当に悔しいけど、兄さんは"イケメン"だ。残念過ぎる部分が多過ぎて埋もれてしまっているが、顔は客観的に見ても調っているだろう。
 私だって、それなりに男の子にはモテる。それでも、昔っから兄さんにはコンプレックスを感じていた。マントも赤髪も眼帯もカラーコンタクトも、ぶっちゃけ……本当にぶっちゃけると、()()()()()()()()|。
 ――って、私何兄さんの顔見つめてるのよ!
 う、ううん違うの! これは世にも珍しい"厨二病末期患者"を観察してみたかっただけで、別に兄萌えとかそーゆーけったいな嗜好は持ち合わせてないんだから!
 ――兄さんはそんな風に悶々としていた私を余所に、神妙な面持ちで、
「解せぬ…………江戸川コナン、奴は解せぬ」
 ――ってコナンかよっ!
「なあ妹よ。何故なにゆえコナンは、行く先々で殺人事件に巻き込まれるのだ?」
「……えっと……兄……さん?」
 ……ア然として声が出ない。
「街を歩けば転落死体、海に向かえば水死体。山に登れば銃殺死体だし、ペンションに泊まればバラバラ死体。作品内でも目暮めぐれ警部が言っていたが、死神に取り付かれているようにしか思えん」
 ――兄さんそれ、本気で言ってる?
「解せぬ、解せぬぞ江戸川コナン。それに、奴は何故そのことを疑問に思っていないのだ? いかに1万人の妹達シスターズを殺害してきた我でさえ、毎日のように"偶然"殺人事件に遭遇していては多少なりとも患うぞ」
 すでに色々と患ってるけどね。
「それに引き返え奴は……」
「ちょっと兄さん、それは……」
「――!? 妹よ! 我は新たな嫁候補を見つけたぞ!」
 ガバッ!
 唐突に何の脈絡もないことを言い放つと同時に、先程よりも豪快に起き上がった兄さん。歓喜の表情を浮かべながら、漆黒のマントを翻し、右目の灼眼を見開くと、
「蘭だ、毛利蘭だ! 奴こそ我が嫁に相応しいであろう!」
 コナンくんの想い人を指名した。
「江戸川コナンは、探偵という職業故、殺人事件や死体など百年の知己ちきのようなものだ」
 いや、さすがにそりゃないだろ。
「しかーし! 毛利蘭、奴は格闘技は我の弟子の弟子並に強いが、根は普通のただの一般女子だ。にも関わらず! コナンや小五郎と一緒に数多もの殺人事件に遭遇しようが、決して壊れることのない"心"! 殺人に慣れてしまったわけではない。人の死をそのつど重く受け止めながらも、気丈に生きていく姿……」
 兄さんは両手を上にかざし、ギュッと拳を握ると、
なんじに幸あれ!」
「漫画だからだァァァ!!」
「グハァ!」
 気がつくと私は、棚から取った分厚い辞書を一冊、兄さんの炎髪オールバック目掛けて投げ放っていた。
「何をする妹よ!」
「漫画だからだよ! それくらい分かれよ! イライラするんだよ! 推理漫画というジャンル上、事件が起きなきゃ話進まないだろうが! そーゆーとこは見て見ぬふりしてあげるのが"読者"ってもんだろォがァァァ! ってキャー!」
 不意に、椅子から足を滑らせて、体のバランスを崩した。
  私は背中を棚におもいっきり打ち付けてしまい、反動で床へ――
 ――嘘! 私、落ちる――
 時間にして1秒前後の出来事。
 私には、どうすることもできない。
 後頭部から――
 落ち――
「京香!」
 ガシャン! ドバドバ!
 棚が倒れ、本やCDやDVDのケースが巻き散らかされていく音が、耳をつんざいた。
 だが私は――
「京香、だい……じょうぶか?」
「え? に、兄さん……?」
 私は、床に()()()()()()
 仰向けになっている私の背中の下には、兄さんの両腕。空中で私を受け止め、着地の衝撃を極限まで和らげたみたいだ。
 そして、私の顔の前、ほんの30センチほどのところには――
 炎髪オールバック、隻眼の灼眼。
 兄さんの顔があった。
「よかった……無事みたいだな」
 いつもの厨二病臭などかっ消えた様子の、兄さんの口調。顔も、"慈愛に満ちた"と言ってもいいほど穏やかで優しげだ。
「ににににに兄さん! どうしてこんな……ってか血! 兄さん血が出てるわよ血!」
 兄さんの頬には、切り傷が出来上がっていて、血がポタポタと私の頬に垂れてきていた。傷はそこまで深くなさそうだが、兄さんの傷ついた姿に私は酷く狼狽した。
 ――そして、いまさらながら、意識してしまった。
 私と兄さんが―― 抱き合うように、密着しているということを!
「ハーッハッハッハァァァ! 案ずるでない、案ずるでないぞ? 使い魔の身の安全を護るのも、主人である貴族の務めなのだからな」
「……どこのルイズちゃんよ……ホントにもう……」
 いつもの"厨二病患者"に戻った兄さん。その厨二病に、今回だけは感謝だ。
 ――だって、目の前であんな、最っ高な笑顔をされ続けたら……
 兄さんに、"イケナイ感情"を抱いちゃいそうだから。
 現に今だって、顔も体中も火が着いたように熱くて……
「まあとにかく、無事でなによりだ。京香が無事なら、俺はこんな傷なんて全然痛くない」
 ――あっ、コラ! "素"に戻るな!
 だからその笑顔は反則なんだってもー!
 バカバカバカ! 助けてもらっといてなんだけど――
 兄さんの大バカ!!!!



 ――私の兄は、厨二病だ。
 見た目も言動も、間違いなく末期。
 だけど――――
 このように、たまにものすっごくカッコイイときがあるから、困る。
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