始まりはいつも突然、と歌の文句にもあるように、ドアが開いたのはいきなりだった。
「レナン様ー、居ないんで…… す、か?」
どうやら、騒ぎすぎてノックに気付かなかったらしい。
入って来たのは、年の頃16~7ぐらいの少女が二人。
黒髪をキュッとポニーテールに結い上げた気の強そうな方がドアを開けた姿勢のまま固まり、その背中越しに覗き込んだ柔らかそうな金髪の優しげな顔立ちの少女の方は、「え?」っと、困惑の声と共に、みるみるうちに真っ赤に頬を染めた。
さて、状況。
ドアを開ければ美少女(自称)が、ムサイオヤジにスカートを捲られ、パンツを半分ずり下げられている。
「君は、ひきつった笑みを浮かべて、
「お取り込み中でしたか、失礼しました」とドアを閉めてもいいし、無言で立ち去ってもいい」
「するかっ この不埒者め!!」
黒髪の少女は電光石火の動きで部屋に飛び込むと、容赦ない平手打ちを叩きこんできた。
「そうですネ。誰だってそうする。俺だってそーする……」
腰の入った平手打ちがいい感じに決まったせいか、クワンクワンとめまいがする。
魔の手を逃れたレナンは、ヨヨヨとわざとらしく泣き崩れる。
「えぐえぐ、嫌だと言うのに無理矢理このクソオヤジが……」
「な、なんて非道な!」
その言葉に黒髪の少女がますます激昂する。
「うっわ、事実しか言ってないけど汚くないか、それ!?」
「それにレナンさまも、なんだか楽しそうだったよ?」
こちらの主張も金髪の少女の言葉もまるっきり無視して、ビシリと杖を突き付けてきた。
「どうやら遠慮の必要はなさそうね。この一撃で黒焦げにしてあげるわ!」
同時に複雑な身振りと呪文の詠唱がはじまる。
今はマズイ、ダメージが足に来ている。
「風の乙女よ、その力を――」
早く中断させないと……
「荒れ狂え、真空の――」
せめて、逃げないと……
「引き裂き、焼き尽くせ――」
視界が正常に戻るが、黒髪の少女はまだなにかノリノリで詠唱を続けている。
「……なあ。いつ発動するんだ、これ?」
「うむ、今呪法修飾部分が終わったから、まあ一分くらいかのう」
いつのまにやら、ケロッとした顔でそばに居たレナンが解説する。
「
魔術師全員アホの子だろ…」
黒髪少女の襟首をつまみ上げて外にほうりだす。
ガチャリと扉に鍵をかけたところで――――
「稲妻よ、焼き尽くせーっ て、何で外に!? にゃぁああああ!!」
「うむ、暴発したようじゃな」
家の外で爆音と悲鳴が上がった。