WEB特集
五輪まで100日 英国はいま
4月19日 16時55分
18日、ロンドンオリンピックの開幕まであと100日となりました。
ロンドンがオリンピックを迎えるのは史上最多の3回目です。
今回は、どんな大会を世界に見せてくれるのか、ロンドン支局の金森稔子記者が解説します。
無名の地が聖火リレーで大抜擢!その理由は
ロンドンから西におよそ500キロ。
イングランドの最も南西にあるコーンワル地方。
一見、オリンピックには何の関係もないこの地域が、去年5月、オリンピックのニュースで大きく取り上げられました。
大会に先駆けて行われる、聖火リレーのスタート地点に選ばれたからです。
リレーは来月19日にスタート、7月27日の開会式当日までイギリスとアイルランドをくまなく回りますが、コーンワルは、その初日という大役を担うことになりました。
自然豊かな観光地としてイギリス国内では人気の高いコーンワルですが、国際的にはほとんど知られていません。
そんな地域が聖火リレーのスタート地点に選ばれたのには、理由がありました。
ねらいは「全土」での盛り上げ
実は、国内の厳しい財政状況もあって、ロンドンオリンピックは「できるかぎり質素倹約に」がモットーです。
既存の施設と公共交通機関を最大限生かした、コンパクトな大会を目指しています。
それでも大会には1兆円余りの公的資金を費やさざるを得ず、国民から理解を得ることが大会の成功には欠かせません。
そんな厳しい事情を抱えるイギリスにとって、聖火リレーは、国民のオリンピックへの機運を高めるまたとないチャンスだけに、オリンピック組織委員会は大きな期待を寄せているのです。
組織委員会のセバスチャン・コー会長とロンドンのボリス・ジョンソン市長は、今回の聖火リレーについて、共に「イギリス国民みんなに、参加していると感じてもらうことがねらいだ」と明言してます。
しかも、今回の聖火リレーは国内中心ということで、五大陸を回った前回の北京オリンピックと比べると規模は10分の1以下。
経費削減にもつながり、一石二鳥というわけです。
ねらいは功を奏するのか?
果たして組織委員会のねらいどおり、聖火リレーはイギリス全土での盛り上げに一役買えるのでしょうか?
私は今月、コーンワル地方を取材しました。
そこで目にしたのは、オリンピックに大きな期待を寄せる地域住民の姿でした。
地域の小学校では、先月から社会の時間で、オリンピックの歴史や理念を学ぶ授業を始めていました。
児童たちが、聖火リレーの沿道を彩るポスター作りも始めています。
地元の教会や学校の校舎など、自分たちの街の風景が描かれているポスターは、リレー当日につなぎ合わせて全長30メートルの横断幕にする計画です。
そんな子どもたちにオリンピックへの思いを聞いてみると、「ロンドンはここから遠いから、オリンピックは関係ないと思っていた。聖火リレーに選ばれるなんて思ってもみなかったよ」という答えが返って来ました。
子どもたちにとって、聖火リレーは、まさかの驚きだったようです。目を輝かせながらオリンピックも聖火リレーも楽しみだと話す子どもたちの姿に、私は組織委員会がねらっていた「効果」を感じました。
その「効果」が見て取れるのは、子どもたちだけではありません。
この地方で、6年前からロボットを製造してきた会社では、ここぞとばかりにオリンピックにあやかろうと必死です。
この会社で製造しているロボットは人間の姿形をして、20を超える言語でどんな質問にも応える、いわゆるコミュニケーションロボットです。
NASA=アメリカ航空宇宙局など世界中で活用されていますが、この地域で作られていることは、イギリス国内でもほとんど知られていません。
そこで会社は、ロボットを沿道に出して聖火リレーの応援をさせることにしました。
世界中に報道される聖火リレーのスタートで、人間に混じって応援するロボットに少しでも関心が集まれば、新たな顧客の獲得につながるかもしれないと、大きな期待を寄せています。
ロボットにはすでにオリンピック情報がインプットされ、いつでもどこでも質問に答えられるよう、準備は整っています。
さらに盛り上げるのが市民ランナー
ロンドンオリンピックの盛り上げ役として、すでに効果を発揮しつつある聖火リレー。
そのリレーを、市民にとってさらに身近に感じさせてくれるのが、「市民ランナー」の存在です。
組織委員会では8000人でつなぐ聖火ランナーのうち、7300人を一般市民からの公募で選びました。
公募のランナーは、主にイギリス国内でスポーツや地域のボランティア活動に熱心に取り組んできた人を、一般から推薦を受ける形で組織委員会が選びます。
各地域から「市民代表」のランナーが多く選ばれたことで、自分の親戚や友達、それに職場の同僚など、顔なじみの人がリレーに参加するというケースは少なくはないはずです。
「あの人が走るなら、ぜひ応援に行こう」、そう思って沿道まで駆けつける人もたくさんいるのではないでしょうか。
目指せ!国民参加型
国家の威信を世界に示した北京大会と比べると、地味とも言われるロンドン大会。
しかし、聖火リレーに象徴されるように、ロンドンが目指しているのは国民全員がオリンピックに関わっているのだという気持ちを共有し、大会を成功に導くことです。
開幕まであと100日、果たしてロンドンは、「国民参加型」の大会をどこまで実現できるのか、目が離せません。