2012年3月15日(木) 東奥日報 社説



■ 危険排除へ条例化検討を/空き家対策

 豪雪に見舞われた今冬の県内で屋根に積もった雪の重みによる建物の倒壊や損壊が相次いでいる。

 目立つのは空き家や空き小屋など管理が行き届かない建物だ。隣接する建物などに被害も出ているほか、屋根雪が落ちて通行人がけがをする恐れもあり、市町村が対応に苦慮している。

 市町村は住民からの相談で所有者に対処を要請する。困るのは連絡がつかない場合で緊急対処として消防などが雪を処理するケースもあるが、個人の財産権に関わるだけに対応は慎重にならざるを得ない。危険排除のため建物の撤去が必要な場合はなおさらだ。

 空き家対策は冬期だけの問題ではない。老朽化し放置された建物は危険なだけでなく火災など防犯上も問題だ。全国的には自治体が強制的に解体・撤去できる行政代執行を盛り込んだ条例を制定し対策を強化する自治体が増えつつある。

 県内の自治体は財産権に絡む訴訟などを懸念して条例化には慎重だが、住民の安全に関わる問題だ。条例化を検討すべきではないか。一方で自治体だけでは限界も想定される。国も巻き込み空き家対策の環境を整える必要があろう。

 県防災消防課によると今冬の雪による倒壊や損壊など建物被害は13日現在186棟で、そのうち空き家や倉庫など人が住んでいない非住家は120棟。非住家の内訳はないが、県警の発表を見ると空き家や空き小屋などがかなりある。

 本県と同じ雪国で空き家問題を抱える秋田県大仙市は「空き家等適正管理条例」を制定し今年1月から施行した。条例には一定所得以下の空き家所有者に解体費用を助成する措置や行政代執行規定を設けた。

 条例を基に今月から実際に代執行による解体・撤去も始めた。対象は倒産した会社が壊れたまま放置していた社屋など5棟。倒壊などにより隣接する小学校の児童に危険が及ぶ恐れがあり、市は所有者に解体・撤去を勧告したが応じなかったため「最終手段」に踏み切ったという。

 建築基準法や災害対策救助法などを基に行政が危険な建物を撤去することも可能だが、手続きが煩雑で時間がかかる。条例があれば、手続きが容易になるという。私権制限に関わるだけに適用は慎重でなければならないが、速やかに住民を守る有効な手段だろう。

 それでも訴訟に持ち込まれる可能性や所有者から代執行の費用を回収できない懸念もあり、条例制定に自治体は二の足を踏むようだ。所有者が特定できなかったり権利関係が複雑だったり対応が難しい例もあろう。法的な対応や助成など国の後押しも必要だ。

 総務省の調査によると2008年の全国の空き家率は13.1%と過去最高で増加傾向にある。本県は14.5%で、前回03年より2.0ポイント増加した。少子高齢化や都市部への人口流出により地方ほど空き家率が高くなる傾向がある。雪害にとどまらない問題であり、県内でも空き家対策に本腰を入れるべきではないか。


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