突然消えた、街の明かり―。
空からみるとそのエリアは、はっきりとわかる。
これは去年、首都圏などで実施された計画停電の時の映像だ。
市民生活に、大きな打撃を与えた停電。

この夏、関西で起きる可能性はあるのだろうか。
大阪・八尾市にある半導体などを製造する町工場。
<大阪製作所 後藤良一社長>
「こっちと向こう側と… 水がずーっと流れていって、これ園芸用のやつなんですけどね」
夏場に備え、地道な節電への取り組みを続けている。
<大阪製作所 後藤良一社長>
「われわれのところは精密な機械部品を作っているので、エアコンを止めるわけにはいかないので。だったら少しでも、屋根を冷やしてでもして… エアコンのできるだけ稼動を少なくしたい」
精密部品は品質を保つため、常に温度を一定にしておく必要があり、わずかでも停電すれば出荷できなくなる。
それだけに、電力の安定供給は死活問題だという。
一方、停電が起きると生命の危機に繋がるところもある。
医療現場だ。
特に電気を使用する人工透析などの患者にとって、問題は切実だ。

<透析患者>
「透析してもらっているし、電気止まったら困るけどな。私ら病院に任せっきりやから」
重要な機器は、停電の時でも使える非常用電源につなげている。
しかし、これにも限界があるという。
<武田病院グループ施設管理部 中田裕人さん>
「我々の持っている自家発電設備を使って、何時間はしのぐことは可能だと思うが、それが長期的になってくると、病院の運営に支障をきたすので計画停電もきついですね」
去年から続く節電要請。
病院でも自家発電をフル稼働させたり、消費電力の少ない照明に切り替えたりと対策を取っているが、節電は7パーセントが限界だという。
広がる電力不足への不安。
そんな中、原発を再稼動すべきがどうかで対立が激化している。
<再稼動反対の市民グループ>
「再稼動反対!再稼動反対!」
今月14日。
福井県庁には、大飯原発の再稼動に反対する市民グループなどが、抗議活動を繰り広げた。
再稼働の手続きを急ぐ政府。
その訳とは・・・
関西電力が政府に提出した「需給予測」だ。
「需給予測」では、おととし並みの猛暑だった場合、原発の停止が続くと18.4パーセント電力が不足。
去年並みの暑さだったとしても、5.5パーセント不足するとして大停電の可能性もあるというのだ。
しかし・・・
<環境エネルギー政策研究所 飯田哲也所長>
「この夏は、原発の再稼動なしで安定供給できることは、ほぼ見えてきた」
「需給予測」に異を唱える専門家。
さらに「マル調」も・・・
この夏、関西で本当に電力が不足するのか。
「マル調」は政府の「需給予測」に異を唱える専門家に注目した。
<環境エネルギー政策研究所 飯田哲也所長・今月14日>
「われわれの見通しとしては、全く問題なく対応できる、対応するように対策することができる」
環境エネルギー政策研究所の飯田哲也氏だ。
大阪府・市エネルギー会議の座長代理も務めている。
関西電力は当初、この冬の供給力を2,412万キロワットと発表したが、飯田氏は「もっと上積み出来る」として、2,750万キロワットと予測。
実際、この冬の電力供給は2,730万キロワットで、飯田氏の予測がほぼ的中した。
では、この夏はどうか。
関電は、去年並みの暑さを想定した場合、最大需要が2,784万キロワットで、供給力が2,631万キロワット。
つまり、「5.5パーセント不足する」としている。
一方、飯田氏は需要は変わらないものの、供給力については2,946万キロワットと予測。
逆に「5.8パーセント余る」としている。

この違いはどこから来るのか。
大きく分けて、2つの要因がある。
上積みできる要素【1】「揚水発電」
「揚水発電」とは、電力需要の少ない夜間に、下のダムから上のダムに水をくみ上げておき、昼間にその水を落として発電するもの。
関電は4つの発電所を保有していて、最大出力は488万キロワット、原発およそ4基分に相当する。

政府や関電は、この「揚水発電」の出力を328万キロワットと予測。
しかし飯田氏は、「最大出力に近い465万キロワットを確保できる」と主張する。
<環境エネルギー政策研究所 飯田哲也所長>
「(政府や関電は)供給力として一番確実な『揚水発電』を過少評価している…」
実際、去年の夏は、最大出力に近い465万キロワットを確保した。
これに対し関電は「原発が稼働しなければ、夜間でも電力はさほど余らず、フル稼働は見込めない」としている。
上積みできる要素【2】【電力融通】
「電力融通」とは、電気が足りなくなった電力会社に対し、逆に余裕のある別の電力会社が電気を融通すること。
各電力会社は「連系線」という特別なラインで結ばれていて、一定の範囲内であれば、電力を自由に行き来させることができる。

<記者リポート。
「下関の関門海峡にきています。私のちょうど真上にありますのが、本州と九州を結ぶ唯一の送電線です」
およそ1キロに渡って延びる「関門連系線」。
この冬、「九州電力最大の危機」を救ったのが、この電線で行われた「電力融通」だった。
<記者リポート>
「ここは九州最大の火力発電がある『新大分発電所】です。今年2月、発電所の配管が寒さで凍結し、発電所は全て停止する事態に陥りました」
当時、九州電力管内では大寒波が押し寄せていて、電力需要が過去最高を記録。(1,538万キロワット)
そんな中、230万キロワット、原発2基分の電力が突然失なわれた。
九州電力を救うため、6つの電力会社が一斉に行った「電力融通」。(東京電力・中部電力・関西電力・北陸電力・中国電力・四国電力)
上限30万キロワットに設定されている関門海峡の連系線に、140万キロワットの電力を流し続けた。
電線が損傷するリスクを承知の上で、大規模停電を回避したのだ。
この「奥の手」ともいえる仕組みを、うまく活用できないものか?
政府が公表した関電の夏の「需給予測」で、「電力融通」をどこまで
見込んでいるのだろうか・・・
<記者リポート>
「中部電力からは、70万キロワット。中国電力からは37万キロワットとの融通が見込まれていることが書かれています」
予測では合わせて、107万キロワット。
一方、中部電力はこの夏、去年並みの節電を行えば、「12パーセント程度の電力の余裕が出来る」と発表。(約337万キロワット)
中国電力も「この夏は13パーセント程度余裕がある」と予測している。(約160万キロワット)
つまり、合わせておよそ500万キロワットの余力が見込めるわけだ。
<環境エネルギー政策研究所 飯田哲也所長>
「近辺の中部・中国・北陸電力(3社合わせて)800万キロワットくらい夏のピーク時の余力はあると思う」
さらに「マル調」は、あるポイントに着目した。
この夏、停電が予測される時間は、どのくらいの長さになるのか。
政府が試算した関電の夏の最大供給力は、「2,631万キロワット」。
これを去年夏の需要実績に当てはめると、需要が供給を上回った日は6日あった。

これをさらに、1時間ごとに分析していくと…
6月末から9月半ばまでの間で停電の可能性があるのは23時間、全体のわずか1.1パーセントだ。
この時間だけ、例えば多めの「電力融通」を受けるなどすれば、理論上は電力不足を解消できることになるのだが…。
関西電力側は・・・
(Q.ピーク時だけ対応すれば、乗り切れるのでは?)
<関西電力 岩根茂樹副社長>
「電力のピークが出ている時間帯はかなりのバラつきがあるし、日数も6月から9月の間でかなりあるので、万が一、停電にならないという保証は、今の段階では厳しいと考えている計画段階では予想しきれないです」
関電は「供給力の確保に努力している最中だ」として、近く詳細な「需給予測」を発表するとしている。
原発再稼働に向けて重大局面を迎える中、需給に関する議論は尽くされたのか。
夏はもう、目の前に迫っている。
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