故意性低い見立てに 祇園暴走で府警
京都・祇園で軽ワゴン車が歩行者らをはね、藤崎容疑者を含む8人が死亡、12人が重軽傷を負った事故は19日で発生から1週間になる。容疑者は死亡したが、真相解明に向けた捜査は続く。なぜ車は暴走したのか。
軽ワゴン車が前のタクシーに密着し、じりじり前に進む。車内の藤崎晋吾容疑者(30)は正面を見据え、おびえたような表情を浮かべ、ハンドルを握る手が震えていた。「バキバキ」。タクシーの後部ランプがつぶれる音が響いた。
12日午後1時すぎ、京都市東山区大和大路通団栗上ルで、複数の人がこんな光景を目撃している。
タクシー運転手(63)によると、追突直後、バックミラー越しに運転席の容疑者は「しまった」という顔をした。2台の接触状態は約30メートル続いた。コインランドリーのビデオ映像は、車の前部とタクシーの後部が当たったまま店前を通過する姿をとらえている。
「軽ワゴン車はアクセルを踏む音をたて前方のタクシーが左側に寄ると、抵抗がなくなり猛スピードで暴走し始めた」と警備員(52)は証言する。
■殺人で捜査
府警は、タクシー追突時に軽ワゴン車がいったん後進して逃走したとの情報▽歩行者が大勢いる交差点に赤信号で進入▽逃げるためには人をひいても構わないと思った可能性がある-ことから殺人容疑で捜査に着手した。
だが発生から1週間がたち、府警は故意性は低いとの見立てに変わってきた。故意に暴走した根拠の一つだった追突事故時の後進は、捜査が進んでも事実が確認できていない。防犯ビデオ映像では、狭い大和大路通で車両を避けるように走行していた。
府警の押収資料からは、故意による暴走をうかがわせる文言は現時点で見つかっていない。家族の証言からも動機や背景はうかがえない。事故発生の約2時間前に藤崎容疑者と話した男性は「いつもと様子は変わらなかった」と話した。
家族によると、藤崎容疑者は2003年のバイク事故でのけがが原因で、てんかんの発作が起こるようになった。府警は持病の発作の影響にも注目した。だが、日常的に抗てんかん薬を服用していたと家族が証言▽血液から薬成分を検出▽高速下でのハンドル操作―などから、現時点では意識が消えるような発作が影響した可能性は低いとみている。
■動機、証拠なく
府警が関心を寄せるのは、発端となったタクシー追突時の容疑者の心理状態だ。パニックに陥り、誤ってアクセルを踏み続けていた可能性があるという。
九州大の松永勝也名誉教授(交通心理学)は「タクシーに追突して動転し、ブレーキと間違ってアクセルを踏んだ。さらに人をはねたことが重なりアクセルを踏み続けたかもしれない」と指摘する。府警交通捜査課の坂本誠也課長は18日、事故原因の可能性として(1)パニックの影響(2)服用していた薬の影響(3)車両の故障―を挙げ、「あらゆる可能性を視野に原因を解明したい」と力を込めた。だが、現時点で殺人容疑を裏付ける動機や物証は出ていない。
【 2012年04月19日 10時07分 】