意味よりイメージ優先か
空月(きき)、悠莉(ゆとり)、颯(さすけ)、海(まりん)…。小さな子どもの写真と名前を、パパやママのメッセージ付きで紹介する本紙地域版の「わが家のアイドル」。ここ数年、このコーナーを見ていてよく思う。近ごろの子どもの名は、探偵が生まれた二十九年前に比べて随分様変わりしたもんだと。探偵の名前は、母の「冨美子」から二文字をもらっている。で、仮に自分が女の子を授かれば、やっぱり「○美子」と決めている。でも、そんな名前の付け方はもう古いのかしらん。いまどきのパパやママは、子どもの名に何を託すの?(松本寿美子)
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出生届け(右奥)と名前の付け方を紹介した本。子どもの名前に込められた思いは? |
▼「子」が激減
最近二カ月分の「わが家のアイドル」を調べてみた。と、まず女の子に「子」の付く名前が見当たらないのに気付く。
神戸市垂水区の神陵台小学校。全校の女子二百四人中「子」が付くのはわずか九人という。探偵の小学生時代には、クラスの半分以上だったのに…。教科書に登場する人物名まで「翼くん」「未来ちゃん」なのだから、隔世の感があるなあ…。
古代・中世の風習に詳しい別府大学(大分県別府市)文学部文化財学科教授の飯沼賢司さん(53)によると、女性の名に「子」が使われ出したのは、平安時代に中国の習慣が取り入れられてから。当時は高い地位や官職に就く女性に限られていたが、明治時代に復古主義の影響で一部のインテリ層が使い始め、昭和に入って広く普及したという。
「明治には、例えば戸籍上の名が『梅』でも人前では『梅子』と名乗るなどしていた。公の場所で『子』を使うのが好まれたためだが、一般化するに従って、その意識は次第に薄れてきた」と飯沼さん。へえ…。
神戸市中央区の大慈保育園では、一、二歳児に「子」は皆無。それどころか多くは振り仮名付きでないと読めない…。
▼当て字で個性
みんな、どんな風に名前を考えているの?
長男(1つ)を「流空(りく)」と名付けた同市垂水区の松本麻衣さん(27)は「雄大な空のイメージ。夫が画数を調べて漢字を選び、私が読み方を決めました」と説明する。
「女の子らしく明るいイメージで、先に音を決めた」と話すのは、三人目で初めての女の子、明星(あかり)ちゃん(2つ)に恵まれた同市北区の前田映子さん(32)。「漢字は後で当てた。すぐに読めないとも思ったが、ありきたりなのは嫌だったから」
紅葉(くれは)ちゃん(1つ)の母親で、同市西区に住む大石えりかさん(33)は「音の美しさなどで夏音(かのん)と名付けた長女に続いて、生まれた季節を感じさせるものをと」。長女(2つ)に「きらり」と命名した淡路市の権田えりかさん(30)は「ひらがな三文字で、まずは個性重視だった」と話す。
どうやら「イメージ、音の響き、そして個性的な名前を考えた」という傾向があるようだ。
▼思いを込めて
一方、「子」を付けた人にも聞いてみよう。
りつ子ちゃん(2つ)、まき子ちゃん(六カ月)の女の子二人の母親で、神戸市灘区の中畑啓子さん(27)は「覚えやすさ、呼びやすさで『子』を。さらにイメージが限定されるのを避けて平仮名交じりにした。名前は額縁。中身は自分で作っていってほしい」。このほか、「今なら逆に新鮮でいい」「名前は一生もの。おばあさんになったときのことも考えて」という意見も返ってきた。
著書に「『名前』の漢字学」がある京都大学大学院人間・環境学研究科教授の阿辻哲次さん(55)は、近年の子どもの名前について、「字の雰囲気が重視されている。昔のように『真』や『誠』など漢字の意味を追求することはしないようだ」と話す。さらに「命名は人生で数少なく、楽しくも悩ましい作業。どんな名前であれ子どもにしっかり真意を説明できるように」と語る。
珍しい名前と言われ続けてきた、同市北区の大学院生、前田アトムさん(24)。「礎を築くような人物であれと母が付けた。恥ずかしいこともあったが、親の思いがちゃんとこもっているので、いい名前だと思う」と話す。
まったく、おっしゃる通り。たとえ古いと言われても、探偵は、娘ができたらゼッタイに「○美子」。こう決意を新たにしたのだった。
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