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池田清彦
病気から文明考える 池田清彦
今回は病気に関する3冊を紹介しよう。人類の寿命が延びた最大の原因は感染症で亡くなる人が減ったことだ。抗生物質の発見により感染症の死者が激減した頃、多くの人々は感染症はもはや過去の病気だと信じた。しかし耐性菌や新しい感染症の出現により楽観は許されないことが徐々に明らかになってきた。
山本太郎『感染症と文明 共生への道』(岩波新書)は人類と感染症の長い攻防の歴史を述べた好著だ。農耕を開始する以前、感染症はほとんど存在せず、定住と人口増が感染症をもたらしたという話には説得力がある。文明の形態と感染症の流行には強い相関があることを、ペストやマラリア、結核などの具体例に即して解説している。人類は感染症と共生せざるをえないが、それは決して心地よいとはいえない妥協の産物になるだろう、との示唆で結ばれている。
感染症と並ぶ最も身近な病気はがんをはじめとするいわゆる成人病だ。溝口徹『がんになったら肉を食べなさい がんに勝つ栄養の科学』(PHPサイエンス・ワールド新書)は、従来の標準的ながん治療に疑問を投げかけた挑戦の書だ。著者は「トータル栄養アプローチ」を提唱する医師。全身の栄養状態を改善することで、がん患者のQOL(生活の質)を好転させ、延命にも効果があることを力説している。抗がん剤で徹底的にがんをたたくよりも、全身状態を良くしながらがんと共生しようとの考えだ、と私は解した。これは「共生は決して心地よいとはいえない妥協の産物だ」との前著に通じる思想だ。
最後に紹介するのは伊藤裕『腸! いい話 病気にならない腸の鍛え方』(朝日新書)。腸の働きの解説から始まって、メタボリックシンドロームも糖尿病も腸の不具合から発症するという話を間に挟み、新しい治療法や腸を鍛えるヒントが書いてある。私が一番気に入ったアドバイスは、「仕事に合わせて食事をするのではなく、食事に合わせて仕事をする気構えを」。一番大事なのは食事なんだ。若い世代にも言いたい、大賛成!
(早稲田大学教授〈生物学〉)
- 『感染症と文明』
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- 著者:
- 山本太郎
- 出版社:
- 岩波新書
- 価格:
- ¥756(税込)
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- 『腸! いい話』
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- 著者:
- 伊藤裕
- 出版社:
- 朝日新書
- 価格:
- ¥756(税込)
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- 『がんになったら肉を食べなさい』
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- 著者:
- 溝口徹
- 出版社:
- PHPサイエンス・ワールド新書
- 価格:
- ¥840(税込)
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