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コンテンツ業界キャッチアップ
【第30回】 2012年4月19日
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石島照代 [ジャーナリスト],小山友介 [芝浦工業大学システム理工学部准教授]

“依存症”ならば自己責任論は成立しない
規制なきまま社会と共存していけるのか
――ソーシャルゲームの何が問題か【後編】

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 「最初はゲームウォッチが、『目が悪くなる!』と叩かれ、次はアーケード(ゲームセンター)が『ゲーセン行くなんて不良』と叩かれた。そしてファミコンが『外で遊ばなくなるし高い』と叩かれ、さらにPCゲームが『ネトゲ廃人』と叩かれた。今はソーシャルゲームが『出会い系と過消費はけしからん』と叩かれている。なぜですかね?」

 当連載の熱心な読者は、「サステナビリティ」という言葉が何度か出てきていることにお気づきの方も多いだろうが、この言葉と質問には密接な関係がある。

 質問の答えとしてありがちなのは、「新しいものだから」だが、新しくても社会的バッシングを受けないものはいくらでもある。なので、それでは不十分だ。そこで、今回は教育学の知見を借りて、ひとつの答えを考えてみたい。

 「キーワード 現代の教育学」(田中智志、今井康雄編)によると、通常学校で教えられる知識(学校知)は、大きく分けて「学術的真理性」と「社会的有用性」という2つの基準で選び出されている。社会的有用性とは「政治・経済・医療など社会システムを稼働・発展させるもの、そしてそれによって個人が利益を得るもの」である。

 そのため、社会のサステナビリティに貢献しないと見なされる知識、たとえばゲームコンテンツを含むサブカルチャーなどの知識は、学校知から排除される。これは、産業のサステナビリティを考えた時、大変致命的な話である。学校知に含まれないということは、社会で存在価値が認められないことと等しい。よって、自分たちの存在について、少なくとも社会の存続をダメにしませんよ、ということを言い続けないと、社会的排除の憂き目にあうということだ。

 家庭用ゲーム業界の受難の歴史のひとつに、2000年前半にあったゲーム脳騒動がある。この騒動の元となった研究が科学的に正しいのかどうかは不明だが、あそこまでの騒動になった理由は、「ゲームは子どもをダメにする」という社会のコンセンサスが燃料になっていた可能性が高いだろう。

 この騒動のあと、非常に慎重に行動したのが任天堂である。「脳トレ」ブームはもちろんのこと、家庭用ゲーム機「Wii」では、「ゲームをやらないお母さんのお洗濯に役立つように」(岩田聡社長)と、お天気情報の配信までやった。この行動には、家庭内にゲームに関係しない人を作らないことで、Wiiを買ってもらいやすくする、という戦略があったようだが、これは、学校知によって認められていない自分たちの存在を、社会的に何とかしようとする試みだったとも言えるだろう。

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ニュースリリース

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石島照代 [ジャーナリスト]

1972年生まれ。早大教育学部教育心理学専修を経て、東京大学大学院教育学研究科修士課程在籍中。1999年から業界ウォッチャーとしての活動を始める。著書に『ゲーム業界の歩き方』(ダイヤモンド社刊)。関心があるのは動機づけで、学習現場における双方向メディアとしてのテレビゲームの効果も検討している。
Photo by 岡村夏林

 

小山友介 [芝浦工業大学システム理工学部准教授]

1973年生まれ。芝浦工業大学システム理工学部准教授。2002年京都大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京工業大学助教等を経て現職。東工大時代に経済シミュレーション研究に従事、そこで学んだコンピュータサイエンスの知識を生かしてゲーム産業研究を行なう。著書に『デジタルゲームの教科書 知っておくべきゲーム業界最新トレンド』(共著、ソフトバンククリエイティブ社刊)

 


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ゲームソフトをゲーム専用機だけで遊ぶ時代は終わった。ゲーム機を飛び出し、“コンテンツ”のひとつとしてゲームソフトがあらゆる端末で活躍する時代の、デジタルエンターテインメントコンテンツビジネスの行方を追う。

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