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コンテンツ業界キャッチアップ
【第30回】 2012年4月19日
著者・コラム紹介バックナンバー
石島照代 [ジャーナリスト],小山友介 [芝浦工業大学システム理工学部准教授]

“依存症”ならば自己責任論は成立しない
規制なきまま社会と共存していけるのか
――ソーシャルゲームの何が問題か【後編】

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 その後、他のSNSとの激しい競争の中で生き残りをかけて株式会社化し、KDDIと提携する形でPC主体から携帯電話主体へと大転身するものの、経営はなかなか安定しない。最終的に収益を得られるようになったのはゲームへ進出してからだが、そこでもまたディー・エヌ・エーと激しく争っており、その奥にはフェイスブックやZynga(ジンガ)と言った海外勢との戦いが控えている。

 ここまでの田中社長率いるグリーの行動原理の変化を、誇張して表現すると次のようになるだろうか。

 楽しいコミュニティを創りたい
→コミュニティを維持するには金が要る(株式会社化)
→生き残るために事業戦略を変更する(モバイル進出、ゲームに手を出す)
→競争に勝つためにもっと稼ぐ(モバゲーとの競争激化)
→黒船に負けないために、逆に乗り込む。生き残るには敵を殲滅させればいい(海外進出)。

 シュンペーターは「企業家がなぜ新結合を求めるのか」という問いに対して、1)私的帝国の野望、2)勝利者意志、3)創造の喜び、という3つをあげている。一連のグリーの動きは、このシュンペーターの答えに沿っている。ちなみに、先に紹介したシュンペーターの言葉はこの3つの答えのあとに続くものだ。

 成功したIT企業は競争相手に対して非常に攻撃的になるケースがしばしばあるが、 他の数倍のスピードで変化を続ける産業で生き残っていくためには、傍目にはエキセントリックなまでの攻撃性がないと不可能なのかもしれない。50%という利益率はそういった激しい競争の中で達成したものだが、当事者たちもさすがにずっと高い利益率が維持できると考えていないように思う。将来の激しい戦いのために利益を上げられるときは全力で稼ぎ出しておこう、というぐらいの感覚なのではないか。

なぜコンテンツ産業は、
特に社会的承認を必要とするのか

 最後に、コンテンツ産業のサステナビリティ(持続可能性)と社会的承認の関係について論じて稿を締めたい。

 今回の取材の間に、筆者(石島)はこのような質問を受けた。

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ニュースリリース

SAS ビーエム長野 UCOM ETスクウェア シーメンス マカフィー

石島照代 [ジャーナリスト]

1972年生まれ。早大教育学部教育心理学専修を経て、東京大学大学院教育学研究科修士課程在籍中。1999年から業界ウォッチャーとしての活動を始める。著書に『ゲーム業界の歩き方』(ダイヤモンド社刊)。関心があるのは動機づけで、学習現場における双方向メディアとしてのテレビゲームの効果も検討している。
Photo by 岡村夏林

 

小山友介 [芝浦工業大学システム理工学部准教授]

1973年生まれ。芝浦工業大学システム理工学部准教授。2002年京都大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京工業大学助教等を経て現職。東工大時代に経済シミュレーション研究に従事、そこで学んだコンピュータサイエンスの知識を生かしてゲーム産業研究を行なう。著書に『デジタルゲームの教科書 知っておくべきゲーム業界最新トレンド』(共著、ソフトバンククリエイティブ社刊)

 


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ゲームソフトをゲーム専用機だけで遊ぶ時代は終わった。ゲーム機を飛び出し、“コンテンツ”のひとつとしてゲームソフトがあらゆる端末で活躍する時代の、デジタルエンターテインメントコンテンツビジネスの行方を追う。

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