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商店街が続々シャッター通り化!? 日本の流通を変えたイオンは革命家か? 破壊者か?

サイゾー 3月25日(日)20時31分配信

──2000年代、大型商業施設の地方進出が進んだのは、イオンなどが起こしたイノベーションにより、流通網が目覚ましい発展を遂げた成果だ。これらの流通革命は、低迷する我が国の経済にあって、消費者に多大な利益をもたらした。しかしその一方で、00年代も半ばを過ぎると、地方の商店街をシャッター商店街化するなどの問題もささやかれてきた。さらに現在では、そうした郊外から撤退し、地元住民はゴーストタウン化にあえいでいるという。これは行き過ぎたイノベーションの、もうひとつの側面なのか?

 日本における「流通・物流」の分野で革命を起こしてきたのは、イオンやセブン&アイ・ホールディングスといった大手流通グループだ。流通網を再編・統合し、大規模商業施設を地方に広げることで大きな飛躍を遂げてきたが、そのことで日本各地の商店街が打撃を受け、「シャッター通り化してしまった」という弊害を訴える声も根強い。こうした流通イノベーションはいかにして進み、日本社会にどんな影響を与えてきたのか?

「日本では1974年、『大規模小売店舗法』が施行され、流通大手から各地の商業者を保護するため、商業施設の規模が制限されてきました。しかし、90年代に規制緩和が進み、98年には事実上出店規模を制限しない『大規模小売店舗立地法』が制定。この流れにうまく乗ったのが、イトーヨーカドー(セブン&アイ・ホールディングスグループ)とイオングループでした」

 そう振り返るのは、流通の歴史に詳しい、ルポライターの橋本玉泉氏だ。地方商店街のシャッター通り化はすでに問題視されていたが、大型商業施設の売り上げアップは経済指標に直結するため、政・財・官のいずれもがこれに飛びつき、保護よりも規制緩和を加速させていった。

 イオングループはその中で、全国各地に散在していた食料品店やローカルマーケットを統合し、流通イノベーションを進めていく。『イオンが仕掛ける流通大再編!』(日本実業出版社)の著者で、流通アナリストの鈴木孝之氏は、イトーヨーカドーとイオンの違いを次のように分析する。

「イオンはそもそも、三重の『岡田屋』、大阪の『シロ』、姫路の『フタギ』という近畿地方のローカルチェーンが業務提携し、基盤(ジャスコ)を作りました。こうして生まれた全国規模の大型商業施設は、日本で唯一と言っていい。ダイエーはすでに一度破綻したし、イトーヨーカドーはもともと東京・浅草の下町で生まれ、全国展開を徐々に進めている今も、軸足は首都圏にあります」

 セブン&アイは都市生活者をターゲットに百貨店を取り込んでいったが、イオンはホームセンター、ドラッグストアなどと資本提携を行い、生活全般をサポートする体制を整えることで、地方のニーズを吸い上げていった。同社の発表によれば、11年12月度、GMS(ホームセンターや百貨店を含む総合スーパー)の店舗数は、全国590店に及ぶ。

 イトーヨーカドーのように首都圏一極集中型のモデルであれば、もともと流通配送の効率は高い。しかし、イオンが地方展開で成功をつかむためには、革新的な戦略をとる必要があったという。

「歴史的に、日本の物流は問屋が仕切っていました。イオンはここに目をつけ、まずはグループ内に大手問屋並みの備蓄ができる物流センターを造った。問屋との関係を清算し、自社で卸と配送を一体化したのです。これがイノベーションの第一歩でした」(同)

 自前で流通網を確保し、メーカーと直接取引を行う──それは、業界のタブーを打ち破ることでもあった。こうしてイオンは、製造原価、物流料金などのコストを削減し、経営の合理化を進めていく。

「直接取引については、メーカーには卸問屋との関係もあるので、当初は各所で大きな反発が起こりました。しかも、あるメーカーが100のアイテムを持っているときに、イオンは"売れ筋の50商品だけ置きたい"というのだから、メーカーはたまらない。イオンのためだけに、商品流通を見直すのは非効率です。しかし、イオンはこれを、グループ全体の仕入れとして大量購入することで納得させ、いまや100社以上のメーカーと直接取引をしています。メーカー側がそれでも応じなければ、ライバルメーカーと交渉するという、バイイングパワーもある。これを始めたのが、岡田元也現社長です」(同)

 岡田氏の改革は、在庫管理を行う情報システムの構築にも及んだ。イオンにどれだけの在庫があるか、メーカー側も把握できるシステムを作ったことで、他社のように小売からの要請に応じて備蓄商材を出すのではなく、イオンの在庫に合わせた生産スケジュールの管理が可能になった。卸業者が仲介しないからこそできることで、ここでも物流におけるコスト削減が進められている。

 コストの削減は、すなわち商品価格の引き下げをもたらす。他方で、「小売側が卸のリスクを負うことは、例えば、食品に異物が混入していたなど、問題があった時に企業が責任を負うことになる。ましてやイオンほどの大企業ならば、マスコミで大騒ぎになりかねません。投資からみたら安定性に欠けるという側面もある」と、鈴木氏は指摘する。

 セブン&アイと比べ、リスクを背負った流通革命を進めなくてはならなかったイオン。こうした大胆な戦略のお陰で今日があるというのは、まさに革命者らしいといえるだろう。


■地方のモールではすでにテナントが入らず......


 前出の橋本氏は、イオンの功績として「ショッピングモールの代表として、新しい商業施設のあり方を提示した」ことを挙げる。

「70〜80年代にも大型の商業施設はありましたが、既存の大型店舗にプールなどを併設するような、“ショッピングプラスアルファ”という施設にすぎなかった。しかし、イオンは映画館や多目的ホール、スポーツ施設などを併設し、随時イベントを行うなど、企画性を高めていきました。つまり、そこに行けばなんでもあって、一日中楽しむことができる。そうして大きな雇用を生み、地域経済の活性化にも貢献しました」(同)

 しかし、と橋本氏は続ける。いわば生活総合サービスを提供するイオンのような大型商業施設の地方進出により、地元の商業施設が立ち行かなくなり、地域は空洞化。利潤を追求した出店ラッシュ、画一的なブランド展開が地方の町並みや文化を壊していく、という側面もあり、出店に対する反対運動が起こることも珍しくなくなっているというのだ。

「テナント料金が高額なため、店舗が埋まらずガラガラ……という大型商業施設も少なくありません。そうして、利益が上がらない地域からは撤退。後に残されるのは、地元商店街を失い、“買い物難民”となった地域住民たちです」

 そう語るのは、2月2日刊行のミステリー小説『震える牛』で、膨大な取材をもとに地方の現状を描き出した作家の相場英雄氏だ。

「小説でもモチーフにしましたが、テナントが撤退したスペースを埋めるため、地元小学生が描いた『働くお父さん・お母さん』の絵を展示している場面に遭遇しました。地域を顧みない大型商業施設が、地域の未来を背負う子どもたちの無邪気な絵を使って、スペースを埋める。強烈な皮肉です」

 相場氏は、地方での出店と撤退を繰り返し、利益を積み上げてきた大手物流グループのやり口を「まるで焼き畑農業だ」と批判する。大手チェーンが去ったあとの地方では、“廃墟ビル”の長期間放置が景観を乱し、治安の悪化につながっている、との指摘もある。

 相場氏の取材によれば、地方の崩壊は、一般のイメージ以上に進んでいるようだ。大型商業施設の立地に、昔の街並みが残っている場所はほとんどなく、相場氏の故郷である新潟県においても「風光明媚だった新潟市の街並みは、完全に失われてしまった」と言う。

「極端な話、昔ながらの商店街が残っているのは、いまや東京が一番多い。その理由は単純で、バブル期に土地が高騰し、大規模店を建てることができなかったからです」(同)

 地方の消費者がショッピングモールにあこがれる時代は終わったと、相場氏は続ける。自治体により意識の差はあるが、例えば10年、岩手県盛岡市の桜山地区で商店街を潰す計画が盛り込まれた再開発計画が持ち上がった際には、反対運動が盛り上がり、「昭和の風情を残す商業地区として維持する」という、逆の舵が切られた。

 他方で、東京都東久留米市では、「イオン誘致の見直し」を公約に掲げて当選した馬場一彦市長が、就任後に一転、誘致案を容認するという問題も起こっている。

 イオンには、社長の実弟である民主党・岡田克也議員をはじめ、政界との癒着関係も指摘されている。

「地方の大規模店舗進出に、再び一定の規制をかけるべきだ」という声は根強いが、政府でまともに検討されている様子はない。また税金を投入し、もともと農地として整備をした土地に、大型店舗が建てられるケースもあり、これも黙認されているという。地方の住民に、抗うすべはあるのか。相場氏は「首長が地元にこだわり、しがらみなく手腕を振るえるか、というところにかかっている部分は大きい」と語る。

「僕の出身地である新潟県三条市では、東京都出身で、1972年生まれの若手・国定勇人市長が音頭を取り、かつての目抜き通りを歩行者天国にして、活気を取り戻す取り組みに力を入れています。年寄りは若い奴が、よその人間がと言うかもしれないが、基礎自治体レベルであれば、意欲ある個人が旗を振ることで、変えられる部分は決して小さくない」(同)

 さらに、地域住民のプライドが高く、自分たちの街を守ろうという意識が強い地方は、やはり“ショッピングモール”の誘惑に負けず、その文化と景観を守り続けているようだ。

「岩手県盛岡市や、福島県会津若松市の住民は“地元が東京にあるような店が並ぶ街になる必要はない”という意識が強い。また、香川県高松市も、目抜き通りに昔ながらの街並みが残っています。地元の人に話を聞くと、“大型スーパーなら岡山にあるから、ここには必要ない”と言う。原発のように“一時は地域が潤っても、受け入れたら取り返しがつかないことになる”という現実が、広く共有され始めているように思います」(同)


■イオンは地方の英雄?それともモンスター?


 そんな中、イオンの全国拡大展開はピークアウトしていると語るのは、前出の鈴木氏だ。

「すでに、イオンの店舗は全国に十分な規模があり、今後は利益率の改善に向かう必要があります。というのも、全国への拡大出店は借入金で行われており、もし変動金利で借りてるなら、金利が安い今のうちに返したほうがいい」

 同時に進められているのは、人口動態を押さえた上での小型業態、シニアマーケットを視野に入れた展開。そして、中国やASEAN諸国への進出だ。イオンは2月1日、12年度に国内外のグループで新規採用を予定している大卒クラスの約3分の1となる、1000人以上を中国や東南アジアで勤務させる方針を発表している。

 鈴木氏は、イオンの経営陣はかつて東南アジアに進出した際に、イギリスの「テスコ」やフランスの「カルフール」など、世界の小売チェーンとの熾烈な競争にさらされた経験から、「日本にもナショナルフラッグとなるような、強い小売業がなければ、国自体が危ない」との考えを持っていると分析する。

「こうしたグローバル化に一役買うだろうと思われるのが、イオンの環境への取り組みです。元社長の岡田卓也氏が理事長を務めるイオン環境財団は、各地で植林を行っており、07年からは、日中国交正常化35周年を記念し、万里の長城の植樹を5年計画で実施。中国の反日感情を和らげてきました。マレーシアやカンボジアに学校を建ててきたことも、イオンがASEAN諸国で事業を展開していく上で、プラスに働くでしょう」(同)

 一方で、地方の現状を見てきた相場氏は、この海外展開について冷ややかだ。

「日本で店舗を回す余地がなくなったから、中間層が増加している新興国に目をつけた。国内事業が不調でも、グローバルな連結決算で帳尻を合わせればいい、という発想です。イオンはあくまで投資家を見ていて、消費者は二の次になっている。今度はアジアを食い荒らすのか、という印象です」

 果たして、大手物流グループ──特にイオンは、徹底した合理化、流通イノベーションで国内経済活性化の牽引役となり、いまや海外マーケットを狙う、日本として誇るべき企業なのか。あるいは、地方を好き勝手に食い荒らすモンスター企業なのか……。橋本氏は、その両方の側面を認めた上で、次のように語った。

「いずれにしても、地方の商業施設が壊滅状態にあるのは事実。これは大手グループだけの罪ではなく、規制緩和を行った行政側の責任でもあります。地方の商業者をどのように救済し、商店街をいかに活性化させて、立て直すか。地方の行政は動きが鈍く、なかなか解決策は見えてきませんが、まずは一般消費者が高い意識を持ち、議論をすることが重要なのではないでしょうか」
(文/玉井光太郎)

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最終更新:3月25日(日)20時31分

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