中国反発招く刺激は無責任
中国や台湾も領有権を主張し、周辺海域で度々トラブルも起きている沖縄県・尖閣諸島を、東京都が買い上げると石原慎太郎知事が発言、波紋が広がっている。石原氏の動きに対して、野田佳彦首相は「あらゆる検討をしたい」と、国有化も選択肢とする考えを示した。
だが、かねてから日本政府は尖閣諸島を「歴史的にも国際法上も日本固有の領土」との立場をはっきりさせ、実効支配もしている。なぜ今、都有化や国有化の話になるのだろうか。中国や台湾を刺激するだけである。
■なぜ「都民の税金」か■
尖閣諸島は明治政府が1895(明治28)年に日本領土に編入。第2次世界大戦後は米国の施政権下に入ったが、沖縄とともに返還された。石原氏が買い上げの対象に挙げた最も大きな魚釣島と北小島、南小島は民有地で、政府が2002年から「平穏で安定的な維持・管理を図る必要がある」として年間約2500万円の賃料を払って借り上げている。
石原氏はワシントンでの講演や記者会見などで「東京が尖閣諸島を守る」「本当は国が買い上げたらいい」「どこの国が嫌がろうと、日本人が日本の領土を守るために島を取得することに何か文句がありますか」「豊かな漁場で海底資源もある」などと述べた。地権者とは基本的に合意しており、年内に取得を目指すという。
しかしなぜ、都民の税金で遠く離れた島を買わなくてはならないのか分からない。知事の個人的信条だけでは理由になるまい。
領土問題に強いこだわりを持ち、中国に対して強硬な姿勢をとってきた石原氏は、民主党政権の姿勢が弱腰に見えるのだろう。政府を批判し、自らは国を守る信念の政治家だとアピールする狙いがあるとも思われる。米国での発言は、国際的な注目を集めることを計算したようでもある。
■課題解決には対話で■
尖閣諸島周辺では10年9月、中国漁船が海上保安庁巡視船に衝突する事件が起きた。今年3月には日中双方が周辺海域の無人島に新たな名称を付け、その後、中国の漁業監視船が周辺を航行するなど挑発的な活動を繰り返している。
だがこうした問題は外交ルートで解決していくべきだ。そして外交は政府の専権事項である。中国外務省は「日本のいかなる一方的措置も不法で無効だ」とする談話を発表したが、中国国内の世論の反発がさらに増した場合、東京都には事態解決の手だてはない。刺激するだけでは無責任である。
今年は日中国交正常化40周年。ミサイルを発射した北朝鮮への対応や、経済交流で中国とのより良好な関係構築に力を注ぐべきときだ。5月には日中両国は東シナ海の危機管理のために「高級事務レベル海洋協議」を設置、中国で初会合を開く。複雑な利害が絡む外交の課題を解決するには、丁寧な対話の積み重ねしかない。
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