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田中直紀防衛相、前田武志国土交通相に対する問責決議案がきのう、参院に提出された。田中氏には、安全保障の基礎知識がまったくない。地方選挙で特定候補への支援を求めた国交相名[記事全文]
世界銀行の新総裁に、転換期を象徴するような人物が選ばれた。韓国系米国人で米ダートマス大学長のジム・ヨン・キム氏(52)である。世銀の発足以来、12代続けての米国人総裁だ[記事全文]
田中直紀防衛相、前田武志国土交通相に対する問責決議案がきのう、参院に提出された。
田中氏には、安全保障の基礎知識がまったくない。地方選挙で特定候補への支援を求めた国交相名の文書は違法だ。そんな理由で自民党などが出した。あすにも可決される見通しだ。
またまた問責である。いまや国会の年中行事のようだ。
私たちは問責決議の乱発と、決議後に審議を拒む政争を繰り返し批判してきた。国会の劣化を象徴し、政治不信を膨らませるからだ。この考えはいまも変わらない。
そのうえで、今回はあえて田中、前田両氏ともみずから辞任することを求める。
田中氏の「素人」ぶりは、国会答弁から明らかだ。PKO部隊が展開している国名さえ誤る田中氏が、国民や自衛隊員の生命や安全に責任を負えるのか。
政府が検討する武器使用基準の緩和など、憲法にからむ問題を任せるには心もとない。普天間など沖縄の基地問題で米国と渡り合い、県民の信頼を回復することも望めそうにない。
前田氏の文書は、今月の岐阜県下呂市長選の告示前、地元建設業協会などに送られた。観光振興の支援を約束しつつ、特定候補への「ご指導、ご鞭撻(べんたつ)」を求めていた。これは公職選挙法が禁じる公務員の地位利用や事前運動にあたらないのか。
前田氏は文書に目を通さずに署名したという。だが軽率だったで通じるだろうか。旧態依然の職権をかさにきた圧力そのものではないのか。
この事態を招いた最大の責任は野田首相にある。
内閣が発足して7カ月半の間に、一川保夫前防衛相らも含めて4閣僚が問責を受けるのは異常だ。うち3人は参院議員で、民主党の党内事情を反映した順送り人事といわれた。それをそのまま受け入れた首相の任命責任は厳しく問われて当然だ。
それなのに首相が田中氏や前田氏をかばうだけで、反省も謝罪もしないのは理解できない。
問責決議は、首相が政治生命をかける消費増税法案の審議を遅らせる要因になる。それを承知で、2閣僚を続投させるのなら、首相の増税への熱意もその程度のものなのだろう。
これまでと同じように、決議をずるずると引きずって、結局は連休明けに2閣僚を交代させる。そんな展開になるくらいなら、速やかに代えるべきだ。
最後に、野党には分別を求める。決議後の審議を拒み、貴重な時間を空費するのは国会の自殺行為にほかならない。
世界銀行の新総裁に、転換期を象徴するような人物が選ばれた。韓国系米国人で米ダートマス大学長のジム・ヨン・キム氏(52)である。
世銀の発足以来、12代続けての米国人総裁だが、アジア系は初めてだ。しかも、キム氏は世界保健機関(WHO)のエイズ対策責任者を務めた経歴を持つ医学者。途上国のインフラ開発や金融は専門外だ。
政治家や銀行家などの指定席だっただけに、不安もつきまとう。だが、途上国の民生問題をめぐるキム氏の知識と経験は、援助される国の実情にあった新たな支援スタイルを生み出すことが期待できる。臆することなく挑戦してほしい。
先進国の企業は、世界の低所得層40億人を新たな市場とみる「BOP(ベース・オブ・ピラミッド)ビジネス」に援助や開発金融を絡めようとしている。これが途上国との摩擦を生まないよう、リーダーシップを発揮することも新総裁の役割だ。
異色の総裁が誕生した背景には、新興国の勃興とリーマン・ショック後の欧米の地盤沈下がある。世界秩序の多極化だ。国際通貨基金(IMF)とともに欧米が投票権の大半を占める構造の是正が迫られている。
昨年、IMF専務理事の選出では、欧州の指定席化を批判するメキシコ中央銀行総裁が立候補し、欧州が推すフランス人のラガルド現専務理事と一騎打ちになった。
今回の世銀総裁選びでも米国の指定席となっていることへの風圧はやまず、オバマ政権はアジア系米国人という「奇手」で着地点を見いだそうとした。
それでもアフリカ、南米から対抗馬が出て、世銀始まって以来の「選挙」となった。勝負は見えていたが、多極化に対応した組織や業務の改革が待ったなしであることが改めて浮き彫りになった。
一方、新興国の間では援助と絡めて政治的な影響力を広げようという露骨な動きも目立つ。発言権を求める以上、責任も増す。世銀やIMFでの活動を通じて野心を抑えることを学んでほしい。
IMF、世銀と続いたトップ選びで日本の存在感は皆無にひとしかった。今回も「米国の忠実な協力者」として早々にキム氏を支持した。欧米と新興国との潤滑油の役割を、一向に果たせていない。
国内には、国際機関のトップ候補者にふさわしい人材も少ない。世界的な組織を切り盛りできる人材を、戦略的に育てていく必要がある。