撮影・溝田 喜一

 5月上旬。「急に学校の用事が入っちゃって。明日の仕事、休ませてください」。後輩からドタキャンの連絡を受けた吉岡哲哉(22)は、深夜まで代役を探す電話をかけ続けた。
 
 哲哉は子供向けのキャラクターショーをする福岡市南区のイベント会社のアルバイトリーダー。ショーごとの配役は、重要な仕事の1つだ。5月の連休中に会社が受けたショーは約30本。哲哉は約100人の登録者を、ショーの内容や演技力などを考えながら振り分けていく。が、登録者の多くはアルバイト。キャンセルも珍しくない。「ああ、面倒くさい」。ようやく代役を見つけた哲哉はため息をついた。

   ◇   ◇   

 2001年3月。内気で、高校でも友人の少なかった哲哉が出合ったキャラクターショーのアルバイトは、「部活動」のような世界だった。稽(けい)古(こ)での仲間との時間や、会場での子どもとの触れ合いは、思春期の哲哉が見つけた初めての「居場所」だった。

 「もっと認められたい」。そう考えるようになった哲哉は、どんな役でも演じられるよう体を鍛え、ダイエットを始めた。1年後の春、初めて戦隊もののヒーロー役に抜てきされたときには、体重が10キロ近く落ち、ぽっちゃりしていた体は引き締まった筋肉質に変わっていた。

 「キャラクターショーは体の一部」とまで思っていた哲哉の気持ちに、変化が生じたのは、アルバイトリーダーになった19歳のころだ。遊園地側との打ち合わせや後輩の指導など、演技以外の仕事に振り回される日々。リーダーになって3年。「ああ、面倒くさい」。この言葉が、哲哉の口癖になっていった。

   ◇   ◇   

 「演技だけしてたころが懐かしくて…。最近は、何で僕がそんなことまでって、愚痴ばかりなんです」。いっそ、別の仕事を、と考えたこともある。「どのみち、これ1本じゃ食えませんしね。でも6年間打ち込んできた仕事。好きだって気持ちも大切にしたいし…。矛盾してますよね

 5月下旬の天神、警固公園。ハンバーガーをほおばりながら、笑顔で話を締めくくった哲哉はひょいと腰を上げる。そして、もう1つのバイト先のカフェへ、元気よく走って行った。

 =敬称略(横山)

     ◇

 ▽みぞた・きいち 1982年、東京都生まれ、佐賀市在住。福岡市の「アジア フォトグラファーズ ギャラリー」所属。静物写真を主に撮影。


=2007/06/01付 西日本新聞朝刊=