弐式の自作小説

30歳過ぎてから自作小説という駄文を書くのが趣味になりました。感想いただければ嬉しいです。酷評はお手柔らかに。

最後の人間と小さな侵略者

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最後の人間と小さな侵略者【あとがき】

15ページか16ページをアップした夜だったでしょうか。夢の中にイズンが出てきました。自分のキャラクターが夢の中に出てくるというのは初めての経験ですが……散々愚痴られました。
 
曰く、扱いが酷すぎる。もう少し出番を増やせ……てなことです。もともとはシャツィとイズンの話は連作短編か長編にするつもりでした。世界戦争が終わった後の世界を巨人を連れて旅しながら復興の手助けをしている右腕がない少女の物語……でしたが、自分の中で世界を組み立てきれずに諦め、その中で2人が出会う場面だけを引っ張り出して100枚くらいの短編にするつもりでプロットを用意しました。途中でイズンの視点で物語を進めていくようにプロットではなっていたのですが、いざ書く段階になって諸般の事情というか、思惑もあってイズンのパートを全部消してしまいました。書き上げてみれば、当初主人公だったはずのイズンの登場は半ば以降までずれ込み、出るなり半殺しにされて、沐浴しているところを見られて、右腕を吹き飛ばされるという散々な扱いに。イズンが愚痴りたくなるのも分かろうというものです。……作者の台詞じゃないですね。
 
とりあえず、イズンに対しては結構申し訳なく思っているところがありますので、今後この2人で短編を書いたり、何らかの形で作中に登場させることもあるかもしれません。その時まで、シャツィとイズンを覚えていてやっていただければ嬉しいです。
 
話は変わりますがタイトルの中に最後の人間と入れたのは、『地球最後の男』を意識してのものです。リチャード・マンスンが1954年に発表したI Am Legendの邦題で、これまでにも何度か映画化されています。近年では2007年にウィル・スミス主演で映画化されたことは記憶に新しいところです。
 
『地球最後の男』では終盤に鮮やかな価値観の逆転が描かれます。自分なりに、こういうのを書いてみたいなと思い書いてみたのが『最後の人間と小さな侵略者』だったのですが、終わってみれば素人がましてや短編で手を出すには無謀だったかと反省しきりです。自分なりに、いろいろ挑戦してみたいと思っていますが、結果はどうあれ次回作につなげていきたいものです。
 
次回作は4月3日と4日にショートショートを掲載して、5日以降に短編を掲載する予定です。では、次の作品でお会いしましょう。
 
2012年4月2日 弐式
 
 

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最後の人間と小さな侵略者【17(最終)】

 そして、イズンはこう提案した。
 
「この周りに植えてみないか?」
 
「この付近に植物なんて育たない」
 
 と私は返した。植物が育つかどうか、目の前を広がる荒野を見てみればわかろうというものだ。しかし、そう私が言うとイズンは小さく首を振った。
 
「試したこともないんだろう? やってみなければ、分からないよ」
 
「試してみなくても分かる」
 
 私は少し意固地になって言った。イズンは立ち上がり、ぱっぱっとローブの尻の部分についた砂を払った。
 
「試してダメだったら、それでもいいじゃないか。どうせ私たちには腐るほどの時間があるんだ」
 
「……」
 
 イズンが“私”の後に“たち”をつけたのに気づくのにしばらく時間がかかった。
 
「イズン……それは……」
 
 なんでだろう? 私は喉がからからになるのを感じた。否定の言葉を返されるのが怖くて、言葉が続けられない。しかし、聞かなければならない。
 
「それは……これから一緒にいてくれるということなのか?」
 
 空を見上げてイズンは答える。
 
「私も少々旅に疲れた」
 
 くるっと回れ右をして私に背を向ける。そして肩越しに振り返りながら、私に話しかけた。
 
「それに、人間たちといくら体のサイズが同じだって、やっぱり別種は別種なんだ。私も、一人ぼっちには疲れた……。もちろん、私は気まぐれだから、いつ、どこに行くかは分からないけれど」
 
 ありがとう……と私は言おうとしたけれど、声にならなかった。イズンはそんなことはお構いなしに言葉を続けた。
 
「けれど、その髪は何? 人が見ていないからって放りっぱなしにするのはよくないと思うよ。何より先にまずその髪を切って……」
 
 その時になってようやく私の様子に気づいたらしい。なんだかんだ言って鈍い女だ。とも言ってやろうと思ったが、やっぱり声が出なかった。
 
「シャツィ……あんた、泣いているの?」
 
 イズンはちょっと困ったような声を出した。その物言いが、まるで幼い子供に対するそれのようだったので、私は少し腹を立てて言い返した。
 
「泣いてない!」
 
 言い返してからとてつもなく虚しくなった。なんで、こんな強がりだけは簡単に言えるんだろう。いや、何でこんな時にまで虚勢を張らなければならないんだろう。
 
 イズンは私の頬に手を触れると、優しく優しく微笑んだ。それはまるで母親のような、姉のような、恋人のような……。その柔らかく穏やかな微笑が歪んでよく見えなかった。
 
 私は確かに泣いていた。
 
 
≪fin≫
 
 

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最後の人間と小さな侵略者【16】

 こうやってフェンスの近くに寄ってくるのは、この少年だけで他の連中は遠巻きに私の姿を見ている。地雷の除去が終わってから、私は地上部分に腰掛け、何をするでもなく、ただ無為に日々を生き続けていた。いや、生きているのかどうかも分からない。
 
 私は、手元の缶詰を掴んで、無造作に放り投げる。彼が食料をねだりに来るのは、ここ数日間の日課になっていた。缶詰を拾って「ありがと〜」と大きな声で謝礼の言葉を言って駆けていく少年の姿が、かつて私が敷設した地雷で足を吹き飛ばされ、私が見殺しにした少年の姿と重なった。
 
 重なったが、不思議と罪悪感は湧いてこなかった。ただ、二度と同じことはしないだろう、とは思う。
 
 荒野を焼くような強い日差しが照りつける下で、私はへたり込んだままの姿で真横に倒れた。動く気が起きない。じりじりと、全身が焼かれるような錯覚を覚える。このまま焼け死ぬのも悪くないかも、と思い始めていた。
 
「やれやれ……」
 
 そんな強い日差しが、私の顔の部分だけ遮られた。私は目を細めて顔を上げる。私の顔に影がかかっていた。その影の出所を追って行った。
 
「まさか、本当に腐っていると思わなかったよ」
 
 私の耳に入ってきたのは、聞き覚えのある女性の声だった。私の目が、先日の見覚えのあるローブを捉えた。
 
「イズン!」
 
 思わずその名を呼んだ私は、身体を起こした。ちょうど私の目の前に、イズンの鮮やかな緑色の髪が飛び込んできた。にこっと微笑むイズンの唇には赤い紅が塗られ、その瞳はやや緑がかった色をしているように見えた。先日はイズンの顔をこんなにまじまじと至近距離で見なかったので、座ったままで慌てて後ずさった。
 
 彼女は、布の大きな袋を背中に担いでいた。袋の口からは、何種類かの木が頭をのぞかせている。しかし、園芸には疎い私には、それが何という種類の木の苗木なのかもわからなかった。
 
 イズンはその袋を地面に下ろすと、私の態度を気にした様子もなく、私の横に腰掛けた。しゃがんだときにローブの右の袖がぶらんと揺れて、本来の中身が入っていないことを思い出した。しかし、彼女自身はとっくに右手がない生活に慣れてしまったらしく、生まれた時から右手がなかったかのような自然な動作で、座ると同時に目元にかかった前髪を左右に分け、ローブの埃をパンパンと払った。
 
 しばらく、何を話そうか、何を聞こうかと迷った後、出てきたのは本当に下らない言葉だった。
 
「……何をしていた?」
 
「色々と」
 
 私の問いに、イズンはフェンスの向こう側を見ながら呟くように答える。そこには、沢山の墓が広がっている。
 
 今度はイズンが同じ問いを私にした。私は、イズンと同じように返した。彼女はその答えを聞いて、声をたてて笑った。それから、袋の中身を指さして言った。
 
「……旅の途中で色々な苗木や種を手に入れてきた。乾燥地に強い品種らしい」
 
 

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最後の人間と小さな侵略者【15】

「イズンは……?」
 
 一緒に来てほしい……そう言いたかったが出来なかった。彼女ともっと話したかった。もっと一緒にいたかった。しかし、イズンなら“奴ら”にもすんなり受け入れられるだろう。私と一緒にいてくれるはずもない。それに、私と一緒にいたところで、私は彼女に何をしてやれるわけでもない。色々と言い訳や理由を探して、それを口に出すことをしなかった。
 
 しかし、同時に私はイズンの口から「一緒に」という言葉が出ることをひそかに期待していたのだ。なんて卑怯な男だろう。何て情けない男だろう。そして、結局イズンの口からその言葉が出ることはなかった。
 
「あんたが破壊した集落の復興をしばらく付き合って、その後のことはそれから考えるよ」
 
「そうか……」
 
「これからどうするの?」
 
「適当に腐っているさ」
 
「……シャツィ」
 
 不意に昨日何度も聞いた単語がイズンの口から飛び出して、私は、その意味を聞き返した。
 
「戦争中に巨人兵はそう呼ばれていたのよ。古い神話に出てくる荒々しい巨人の名前。名無しでは困るでしょう?」
 
10年間困らなかった」
 
「たまには困るかもしれないでしょう? それに、再会した時に呼び名がないと困るしね」
 
「再会……か」
 
 私は苦笑を返した。今の私は、もう二度と、あの住み慣れた地下基地を離れる気はなかった。イズンの方から会いに来ようと思わなければ、再会はあり得ない。
 
 私たちは再び森の中に入り、私は荷物をまとめ、人間たちが残して行ったM2重機関銃を回収して、肩から下げた。
 
 イズンは、森の中で一番目立つ幹の太い木の下に穴を掘って、千切れた自分の右腕を埋めた。それから生乾きのローブを羽織った。
 
「じゃぁね。シャツィ」
 
 イズンの中では私の名は“シャツィ”で決定してしまったようだった。私はもう改める気もなく、手を振って別れた。イズンが私に背を向けると中身の入っていない右腕の袖がぶらりと揺れた。それを見て、私も無念を振り払い、砂漠へと足取り重く、帰って行った。
 
 
 
 
 
 
「巨人のおじちゃ〜ん。食べるものちょうだ〜い」
 
 フェンスの外から声が聞こえる。10歳くらいの男の子の声だ。基地に戻った私は、周辺の地雷の除去を行った。それから放置したままの遺体を全て埋葬した。約2カ月くらいはかかっただろうか。フェンスの向こう側には沢山の墓が出来上がっていた。その全てが名前も分からない無縁仏だ。それから何ヶ月かすると“奴ら”の姿を再び見かけるようになった。
 
 

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最後の人間と小さな侵略者【14】

 口の中に力が集まってくるような気がする。いや、事実私の口の中に光と熱が集まり、周囲の浮遊物がちりちりと焼けて微かに焦げくさい匂いが私の鼻を突く。温度差を生じた私の周りの空気が陽炎を起こして揺らめいた。
 
「がぁ!」と、私は声とともに、口の中に集まった力を解放した。昔聞いたことのある戦車の砲撃の音を何倍も大きくしたような爆音だった。その反動は大きく、私は方向を制御することはできなかった。
 
 解放の瞬間、私もイズンのように真後ろに倒れてしまった。発射の衝撃で森の木々がひどくざわめいているのが見えた。光は奴らの方とは違う方向へ飛んでいき着弾した。おそらく何十キロも遠くに飛んだだろう。光は火山の大噴火を思わせる大音響と、高く高く上った真っ赤な火焔を生み出した。自身が私の背中越しに大地が震えるのを感じた。神の雷とさえ比べられるほどの破壊をもたらしたであろう爆発によってもたらされた爆風が、森の木々をさらに激しく揺さぶった。
 
 遠くには、火柱よりも高く黒々とした煙が立ち上っているのが見えた。私に銃を向けていた連中は、私の銃を残して一目散に逃げ出したのも見えた。昔の私なら、追いかけて皆殺しにしていただろう。しかし、この時は私自身でさえ、自分が引き起こした結果に茫然としていた。
 
 あれほどの爆発だったにもかかわらず、爆風も木々のざわめきも消えて、静寂があたりを支配するまでそれほどの時間はかからなかった。
 
「イズン……やはり私は人間ではないらしいな……。こんなことができる地球人なんて知らない。私は、つまるところ、ただの化け物だったわけだ……」
 
 私は身体を起こしながらつぶやいた。その事実を教えてくれた女性はすぐ横に倒れている。あの出血では助かる見込みはあるまい……そう思っていた。
 
「なあ、イズン……」
 
 と再びイズンの名を呼んだが、彼女に声をかけたわけではなかった。自分が再び一人ぼっちになってしまったことを確認するための手続きのようなものだった。しかし、横から思わぬ答えが返ってきた。
 
「まぁ、それでもいいんじゃないか?」
 
 私は横たわったままのイズンの方を見た。横になったままだったが、イズンは両目を開けて微笑んでいた。
 
「イズン……生きて……」
 
「……私は不死身だよ。もっとも……」
 
 そう言って彼女は右腕を上げようとしたが、肩から先には何もなかった。先ほどの銃撃で吹き飛んだ右腕の傷口と、弾け飛んで地面に落ちた右手。その交互に少し悲しそうな目を向ける。切断された傷口は、何年も前からの傷跡のようにすっかり塞がっていた。
 
「再生はしないからこれから不便になるなぁ……」
 
 イズンは腕を下ろすと、「それはそうと……」と言葉を続けた。
 
「やっと、私のことを名前で呼んだね」
 
 私は、はっとそのことに気付くと妙に気恥ずかしくなってしまった。私は立ち上がった。
 
「どうするの?」
 
「基地に還る」
 
「そっか……」
 
 イズンも立ちあがった。私を見上げている。やっぱりとても小さく、同時に凄く可愛らしいと初めて思った。自分の見方が変わっただけで、世界がこんなにも変わって見えるのか。
 
 

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開設日: 2011/1/1(土)

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