弐式の自作小説

30歳過ぎてから自作小説という駄文を書くのが趣味になりました。感想いただければ嬉しいです。酷評はお手柔らかに。

自慢の翼

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自慢の翼

  南極に暮らすペンギンは空を飛ぶことができません。空を飛ぶための翼はずっと、ずっと昔に小さくなってしまったからです。ペンギンは自由に空を飛ぶ他の鳥たちがうらやましくてうらやましくて、しかたありませんでした。ずんぐりした体形で小さな翼をパタパタとさせて、空を見上げてはため息をついていました。
 
 あるところに大鷹がいました。大鷹はとても大きな翼を持っていて、大空を自由に飛び回ることができました。大鷹は、自分の翼で行けないところはないとすれ違う鳥たちに自慢していました。
 
 そんな時、大鷹はペンギンたちを見かけ、びっくり仰天しました。ペンギンたちは、空を飛びまわれない代わりに、海の中を自由に泳ぎ回ることができたのです。どんな所にだって飛ぶことができる大鷹にも、海の中を飛び回ることなんてできません。
 
 それを見た大鷹はうらやましくなってペンギンに声をかけました。
 
「ねえ、君の翼と僕の翼を交換しないかい?」
 
 空を飛ぶことができる他の鳥のようになりたいと思っていたペンギンは、大喜びでその申し出を受けました。
 
 大鷹の翼を受け取ったペンギンは、生まれて初めて大空を飛びまわりました。生まれて初めて経験した風を切って飛び回る快感に、ペンギンは夢中になって時が経つのも忘れてしまうほどでした。
 
 ペンギンの翼を受け取った大鷹は、生まれて初めて海の中を泳ぎました。生まれて初めて見る、ゆらゆらと海の水が揺らめき空からの光をきらめかせる海の底の幻想的な光景に、大鷹はうっとりとして、いつまでもいつまでも眺めていたいと思いました。
 
 どれくらいの時間が経ったでしょう? ペンギンも大鷹も、気がつくとおなかがぺこぺこになっていました。そこで、ペンギンも大鷹もいつものように狩りを始めました。
 
 ところが、大鷹に付けられたペンギンの翼では、地面の上では走って獲物を追いかけることしかできなかったので、ウサギ一匹捕まえることができません。
 
 ペンギンも、海の中では大鷹の大きな翼が邪魔をして自在に魚を追いかけることができません。
 
 大鷹もペンギンも、一生懸命獲物を追いかけますが、さんざんな目に遭って、その日は何も食べることができませんでした。
 
 翌日、大鷹とペンギンは言いました。
 
「やっぱり僕たちの翼は、お互いに戻した方がいいね」
 
 再び翼を交換した大鷹とペンギンは、互いにお礼を言いあって、ペンギンは海に、大鷹は空に戻って行きました。
 
 ペンギンは泳ぎながら思います。
 
(空を飛ぶのは気持ちいいけれど、魚を食べられなくなるのは嫌だなあ……ん?)
 
 大鷹も空を飛びながら思います。
 
(海の底の景色は綺麗だけれど、肉を食べられなくのは嫌だなあ……おや?)
 
 そんなことを考えていた大鷹とペンギンは、途中でくるりと方向転換して戻ってきました。そして、大鷹とペンギンは顔を合わせると言いました。
 
「ねえ、今度はお互いのクチバシを交換してみないかい?」

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開設日: 2011/1/1(土)

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