トポロジー通信

シナリオライター・一鷹(カズタカ)の思うこと。『トポロジー』よろしくお願い致します!

受託開発を振り返って

何とは言いませんが、昨年携わっていたゲームが発売されました。色々と思うところがあったのでこちらにまとめておきます。Twitterでリプライをくれた友達、また呆れることなく宥め、諭してくださった関係者各位に感謝です。その上で、やはり記録しておきます。


昨年のクライアントに問題があるというのではなく、どこと提携しても恐らく変わらないのかな、という印象でした。「様々な制約がある中でも書きたいものを売れるように書けるのがプロ」、という常套句がありますが、それにも限度があると。骨身に染みて。

元々コンシューマにいた人間として痛切に感じたのは、(←この一行いらなかったですね、というかコンシューマも酷ry PJによります)まずプロジェクト管理がずさんすぎるということ。次いでモラルに欠けること。

昨年携わっていたゲームに関しては、企画立案、世界観、キャラ指定(設定はもちろん、立ち服等のビジュアル指定)、プロット、箱書き、字コンテ(背景約30枚、CG約90枚)、広報用テキスト(WEBに使われているテキスト大半)、加えてシナリオを私が書いていたのですが、

納品後のシナリオは「開発秘」になるという理由で生みの親から秘匿され、改竄され、それで作品が良くなっているのなら目もつむりますが、結果は日本語の間違い、誤脱、整合性の欠如。テキスト系バグだけならいざしらず、キャラクターの核心部分をごそっと抜き落とされ、私から見ると別人になっているような子もいました。

ライターにもよると思いますが、私は何百枚、何千枚という原稿を書いても、「この一言を伝えたかった」という一瞬のために物語を書いています。けれどその一言(どころかシーン丸々)、小学生が書いた作文のような稚拙な文体で、薄っぺらい内容に改悪されている箇所が多々ありました。

ちなみにこれらは全て、著作者人格権の侵害です。

それでも私は「外注」にすぎず、クライアント……敢えてはっきり言いますが、中小企業のサラリークリエイターが「ディレクター」として別にいたため、上司の機嫌一つでころころ指示内容は変わるし、実際スケジュールも容量も当初の契約の倍以上に膨れ上がりましたし、果てはそれを「フレキシブルな裁量」と胸を張る始末。

正直呆れましたが、開発現場のモチベーションを下げても仕方ないので最初は黙っていました。けれどプロジェクトが進むにつれ、「ディレクター」にはなんのこだわりもなく(くどいようですが、ゼロからゲームの雛形を作ったのは私です)、売れればなんでもいいというスタンスだと解ったので、噛み付いてでも作品に介入するようになりました。

正解だったと思っています。というのも、ディレクターは前作をプロデュースした人間だったので。前作の評価を受け反省しているならまだしも、「評価は気にする必要ありません。売れた本数が全てです」と豪語されて一気に萎えました。

ただ、萎えるだけで黙っていたら私も同罪なので、おかしいですと言いました。「面白くない作品をマーケティングで叩き売るのは、商売ではなく詐欺です」と。最初はオブラートに包んで。でも最後はオブラートに包んでも伝わらないと理解したので、問題のプロデューサーの上司(たぶん副社長?)に直接打診しました。

これで次回作が駄作だったらあのブランドに未来はないと思います。ちなみに前作は「地雷」と名高(?)く、それを1万5000本も売った手腕は評価しますが、同じくらい辟易しています。1万5000人も被害者がいるのかと。ディレクターがあのセンスな以上、よほど良いライターを捕まえるしか生き残る術はないと思いますが、私は書きません。

「評価は気にする必要ありません。売れた本数が全てです」、「最近のユーザーさんは直情的で物を見ませんので(≒バカなので)、作りこんでも(どうせ)気づいてもらえません(だから手を抜け)」、「欝描写は全面カットしてください。最近の人は打たれ弱いですから(説得力をもたせるために記述した描写は勝手に削除されました)」

何度も言いますが私は「外注」だったので、もらった注文の中で可能な限り擦り合せて、内容を持たせるように努力していました。が、最後はバカらしくなってやめました。やめたって、手を抜いて諦めたのではなく、その逆です。先方の話を聞くのをやめました。

前述の通り規模が膨れ上がったので、テキストの一部を先方(もしくは先方がさらに外注? ありえないことに、誰が書くかすら教えてもらえませんでした)にヘルプに入って頂く形になったのですが、上がってきたテキストは小学生の作文レベルでした。(Yルートだけは信頼しているライターさんにご協力頂いたので素晴らしいクオリティになっています。ありがとうございます)

あ、ちなみにEDロールに私の名前しか載っていないのは、私が他の方を載せないよう頼んだからです。この記事を書くために。さすがに名前が出た状態で小学生の作文とは言えませんので(というかどなたが書いたか知らないのですが)。逆に、Yルートのライターさんの名前だけは出してくださいとお願いしたのですけどね……聞き入れて頂けませんでした。

話を戻します。

先方は何を考えたのかその作文をFIXしてしまったので、私の一存で全て書き直しました。マスターまで2ヶ月を切っていたのでかなり荒療治となりましたが、それでも見過ごすより50%くらいは精度が上がったと思っています。もちろん先方は激怒しましたが、私も激怒していましたのでもういいやと思いました。二度と仕事が来ないだろうけどこちらから願い下げだと。ここで妥協したら声優さんや他のスタッフさんに対して失礼だと腹をくくりました。

結果として、駄作になることは免れたと思っています。全ルート私にできる最善は尽くしました。ギリギリでも「きれい」に、あるいは器用にはまとめただろうと。ただ、先にも申し上げたとおり様々な下らない制約があったのと、納品後のシナリオは「開発秘」だそうで、エッジになる部分、私の個性みたいなところはバッサリ削り落とされました。

ブランドイメージにそぐわないという理由ならそれも目をつむるのですが、おそらく先方はプライドが大事で、面白くても自分に歯向かわれた箇所は見せしめに削除したのかな……という印象でした。実際は分かりませんが。仮にあれで完全にバランス取れたと思っているのだとすればそれはそれで凄まじいセンスだと思いますし。

どうあれ私は作品を面白くしたくて喧嘩していたのですが、……半年も報酬の振込みなくて、ばっくれても良かったと思ってるいるのですが。お金を払ってプレイするのはユーザーさんなので。そういう視点が、せめて先方に1%でも伝われば良かったのですが、きっと私も言葉が下手だったのでしょう。

とどのつまり、彼らは会社の業績が大事だったようです。「自分にも家族がいて守らなければいけない(から会社の業績を優先しなければならない、からつまらないものでも叩き売る)」。中学生ですか。誰にだって生活はあります。というか、本当に家族が大事ならエロゲー会社なんか入ってんじゃねえよ、と思いましたが、そこは個人の価値観なのでこれ以上は言いません。

ただあくまで私の考えですが、開発者が一番大事にすべき存在はユーザーさんです。他の何を、それこそ私生活を犠牲にしても、ユーザーさんのためになるものを作るべきだと。その覚悟がないなら最初から物つくり産業なんかに入ってくるなと。……思いますが、そういうスタンスの人は、残念ながらフリーランスも含めてそう多くはないのだと最近気づきました。

だから起業しました。筋金入りの仲間を探したくて。っていう、自分のためのメモ。
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