2012年 1月27日
第37回「SGIの日」記念提言「生命尊厳の絆輝く世紀を」(下)
原発に依存しない社会へ
日本は早急に政策検討を
放射能汚染による現在進行形の脅威
今年は、国連の定める「すべての人のための持続可能エネルギーの国際年」にあたりますが、世界のエネルギー問題を考える上でも「持続可能性」を重視することが欠かせません。
これに関して触れておきたいのは、原子力発電の今後のあり方についてです。
福島での原発事故は、アメリカのスリーマイル島での事故(1979年)や、旧ソ連のチェルノブイリでの事故(86年)に続いて、深刻な被害をもたらす事故となりました。
今なお完全な収束への見通しは遠く、放射能によって汚染された土壌や廃棄物をどう除去し貯蔵するかという課題も不透明なままとなっており、“現在進行形の脅威”として多くの人々を苦しめています。
事故のあった原発から核燃料や放射性物質を取り除き、施設を解体するまで最長で40年かかると試算されているほか、周辺地域や汚染の度合いが強かった地域の環境をどう回復させていくのかといった課題や、放射能が人体に及ぼす晩発性の影響を含めて、将来世代にまで取り返しのつかない負荷を及ぼすことが懸念されています。
私は30年ほど前から、原発で深刻な事故が起こればどれだけ甚大な被害を及ぼすか計り知れないだけでなく、仮に事故が生じなくても放射性廃棄物の最終処分という一点において、何百年や何千年以上にもわたる負の遺産を積み残していくことの問題性について警鐘を鳴らしてきました。
この最終処分問題については、いまだ根本的な解決方法がないことを決して忘れてはなりません。
また、国連の潘基文事務総長が、原子力事故には国境はなく、「人の健康と環境に直接の脅威」となると述べた上で、「国境を越えた影響が及ぶことから、グローバルな議論も必要」(国連広報センターのホームページ)と指摘しているように、もはや自国のエネルギー政策の範疇だけにとどめて議論を進めて済むものではなくなってきています。
日本は、地球全体の地震の約1割が発生する地帯にあり、津波による被害に何度も見舞われてきた歴史を顧みた上でなお、深刻な原発事故が再び起こらないと楽観視することは果たしてできるでしょうか。
日本のとるべき道として、原子力発電に依存しないエネルギー政策への転換を早急に検討していくべきです。
そして、再生可能エネルギーの導入に先駆的に取り組んでいる国々と協力し、コストを大幅に下げるための共同開発などを積極的に進め、エネルギー問題に苦しむ途上国でも導入しやすくなるような技術革新を果たすことを、日本の使命とすべきではないか。
また、その転換を進めるにあたっては、社会や経済に与える影響を考慮し、これまで原発による電力供給を支えてきた地域に、他の産業基盤の育成を含めたさまざまな手立てを講じていくことなども必要になると思います。
IAEAを中心に取り組むべき課題
国際社会の課題としても原発にはさまざまな課題があり、各国が協力して対応を図ることが急務となっています。
国連の潘事務総長は、チェルノブイリの原発事故から25年を迎えた昨年4月に現地を訪れた直後の寄稿で、「今後、原子力の安全問題には、核兵器に対するのと同じ真剣さをもって取り組まねばならない」(「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」フランス版、昨年4月26日付)と、国際社会に注意を促しました。
核兵器の使用はもとより、その開発や実験に伴う放射能汚染も、原発事故が引き起こす汚染も、被害を受ける人間の身においては変わるものではなく、もうこれ以上、事故が繰り返されてはならないのです。
1954年にソ連で世界初の原発が稼働してから半世紀以上が経ち、寿命を迎える原子炉が多くなってくる一方で、世界の原発の稼働数に比例するように、放射性廃棄物の量も増加の一途をたどっています。
これまで、国際原子力機関(IAEA)を通して、原子力の平和利用について研究開発や実用化、科学・技術情報の交換をはじめ、軍事的利用への転用防止などの面を中心に整備が進められてきました。
しかし、原発の稼働から半世紀以上を経た現在の世界を取り巻く状況、そして福島での事故の教訓を踏まえて、従来の任務に加え、原子力の平和利用の“出口”を見据えた国際協力の整備を進めることが必要となってきているのではないでしょうか。
私は、国際原子力機関を中心に早急に取り組むべき課題として、設立以来進められてきた「放射性廃棄物の管理における国際協力」のさらなる強化とともに、「事故発生に伴う緊急時対応の制度拡充」や「原子炉を廃炉する際の国際協力」について検討を進め、十分な対策を講じることを呼びかけたいと思います。