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東電福島第1原子力発電所事故から6カ月

公明新聞:2011年9月9日付

放射能汚染との闘い
放射線量下げる除染が最大課題

混乱した対処、不透明な展望

東日本大震災(3月11日)に伴う東京電力福島第1原子力発電所の事故から半年。原子力安全・保安院は4月、事故を国際評価尺度で最悪の「レベル7」とし、また、同原発1~3号機から放出された放射性セシウム137(半減期約30年)の量を、広島に投下された原爆の168倍に及ぶとの試算を8月に公表した。放射性物質を取り除く除染作業が実施されている地域の住民は、今後も「放射能汚染との闘い」を強いられる。放射線被害と除染についてまとめ、放射線安全フォーラム副理事長で福島県除染アドバイザーの田中俊一氏に現地の課題を聞いた。

事故当初から国民は政府の二転三転する説明や後手後手の対応に翻弄された。政府は適切な情報公開を怠り、将来の安全規制の構築についても場当たり的対応を続けている。

【政府の情報隠し】

大地震によって原子炉は設計通りに自動停止したものの、1~3号機の緊急炉心冷却装置と、停電時に除熱装置を動かす非常電源が故障。原子炉は停止後も高温であり、外部電源を失った原発は最悪のメルトダウン(炉心溶融)に至った。

しかし、政府がその事実を公表したのは2カ月後。また、事故で放出された放射性物質の拡散予測システムであるSPEEDIのデータも公表しようとせず(5月に公表方針決定)、住民の避難を混乱させた。

【不安な安全規制構築】

現在、政府は原発の安全規制を強化するため、現在の原子力安全・保安院(経済産業省の外局)と原子力安全委員会(内閣府に設置)を再編した原子力安全庁を環境省に新設することを決め、準備を進めている。原発推進の経産省と安全規制の保安院が人事交流をしてきたことに対する反省である。

確かに、推進組織と安全規制組織の分離は国際標準の考え方である。しかし、公明党の東電福島第1原発災害対策本部の浜田昌良事務局長(参院議員)は、「政府には安全規制の専門家を育てる人事構想がない。組織分離だけの安易な構想になりかねない」と指摘している。

被害の現状と損害賠償の問題


今回の事故で大量の放射性物質が環境中に飛散し、農畜産物や土壌など、広範囲に甚大な汚染被害をもたらした。人体への長期的な健康被害も危惧されている。

住民の間では内部被ばくの不安が高まり、農産物の買い控えも。また、原発から半径30キロ圏内で屋内退避などの指示が出た福島県内の市町村が、数千人単位の住民を独自判断で集団避難させるなど、住民生活にさまざまな影響が及んだ。子どもを連れて、県外避難を決断する家庭も後を絶たない。

福島県では放射線の影響を踏まえ、将来にわたって県民の健康管理を目的とした「県民健康管理調査」を実施するため、8月下旬から、問診票の発送を開始。3月11日から25日までの行動記録を中心に、被ばく線量の推計評価を行う。

農畜産物については、暫定規制値を上回る放射性物質が検出されたことを受け、国が3月21日に福島県産の原乳や、福島、茨城、栃木、群馬4県のホウレンソウなどの葉物野菜に出荷制限を指示。以降、さまざまな農畜産物が出荷制限を余儀なくされた。中には出荷制限を苦に自殺する生産者も出た。

また、解除されたとしても風評被害は深刻で、安全性が確認された農産物でも、取引量減少や価格下落が相次いだ。

今後の課題は汚染地域の除染。放射線量の低減へ現在、福島市が全市立小・中学校や幼稚園、児童センターなどを対象に建物除染や校庭などの表土除去を行ったほか、各地で除染措置が進んでいる。さらに、同県伊達市では独自に除染計画を策定し、市内全域を除染する予定だ。

しかし、国による費用負担や最終処分場の確保など、迅速な措置は不可欠。自治体の取り組みを後押しする国の責任ある対応が急務だ。

請求手続きが負担にならないよう配慮を


原発事故による被害者への損害賠償は今月からようやく動き出す。

原子力災害に関する現行法は、事故に伴う全ての賠償責任を事業者に課している。しかし、今回のような大事故の損害賠償を全て一事業者に課すことには無理がある。

事実、東京電力がこれまでに行ったことは損害賠償の仮払いがやっと。しかも、あまりに少額で避難住民や仕事を失った被害者の生活再建を支えるには程遠い。

公明党は今回の損害賠償については国も責任を認め、国が前に出て対応するよう主張したが、政府は東電を前面にする姿勢を崩さなかった。その間、避難住民や被害者は不安定な状況のまま放置されてきた。

その後、ようやく政府の責任を問う声が広がり、原子力損害賠償支援機構(今月スタート)と、損害賠償の国による仮払いを進める法制度が共に通常国会で成立。それを受け東電は8月30日、原発事故に伴う損害賠償の基準や手続きを発表した。

ただ、東電への損害賠償請求には一定の書類が必要で、損害の額を自身で見積もって記入しなければならない。避難住民にとってこれは大変な負担になることは明らかだ。また、賠償額について東電側と紛争が起こる可能性もある。複雑な手続きが被害者を苦しめるようでは本末転倒である。政府は損害賠償制度が円滑に運営されるよう配慮すべきである。


放射線安全フォーラム副理事長 福島県「除染アドバイザー」
田中 俊一氏に聞く


田中 俊一氏――現場で除染作業を続けてきての所感をお聞かせ下さい。

田中 最初、5月に飯舘村の長泥地区を訪れた。長い間、原子力に携わり、数値についても頭では理解していたが、あれほど高レベルで至る所が汚染されている状況に直面した時は、やはり驚かされた。当初は除染への関心も低く、ボランティアで除染を始めた。

――除染の効果は、どの程度期待できるのですか。


田中 例えば、飯舘の農家では3日間、20人ほどで除染を行った。その時は線源となっていた周囲の杉の除染まではできなかったが、それでも室内の線量を半分から 3分の1程度にすることができた。伊達市の富成小学校では、除染の結果、学校として初めてプール開きもできた。避難住民は「故郷に帰れる」という希望を 持って避難生活を我慢している。一刻も早く帰れる状況にしたい。

――飯舘村のような線量の高い地域でも、帰郷できる水準にできますか。

田中 膨大な作業が必要になるが、地道に手間暇をかければできると思う。今までの作業でそれを示してきた。今回の汚染はセシウムによるものだ。セシウムは土壌な どに付着するとほとんど動かない。また、プルトニウムやストロンチウムと違い、線量計ですぐに計測することができ、除染の効果も分かる。その意味では扱い やすい放射能だ。

除染は、単に放射能を取り除くだけではなく、住民の不安を克服し、希望を与える唯一の道でもある。いくら除染をしても完 全に元通りになるわけではない。健康に影響のないレベルになったとしても、通常より放射線量が高い場所で生活することのストレスは大きく、そのストレスで 病気になりかねない。一方で、われわれの作業を見て「これなら自分にもできるので仕事にしたい」という声も多い。今は放射能への恐怖が先立っている状況だ が、共に作業をし、コミュニケーションを取っていけば、放射能に関する理解も深まり、不安も乗り越えられる。除染を地元の雇用に結び付けることは重要だ。

――最終処分について。

田中 国は、処分に必要な費用を出し、安全の基準づくりや安全性の担保を責任を持って行うべきだ。根拠もなく「最終処分場は福島県外」と言うが、数千万トン規模 で見込まれる廃棄物をどこへ持っていくというのか。「取りあえず仮処分場を」などと言うが、住民は「“仮”の処分場を何年使うつもりなのか」と思ってい る。行政がごまかしても、すぐにどうしようもなくなる。その場限りのような発言は慎むべきだ。

私は「名前は“仮”でもよいが、現実として は、放射能が1000分の1以下になる300年間、管理できる処分場が必要だ」と言っている。セシウムはベントナイトやゼオライトという物質で捉えれば、 300年たっても0.1~0.2ミリ程度しか動かない。処分場にそうした物質を敷き、そこさえ管理できれば技術的には安全な処分だといえる。国がやるべき は、責任を持って、そうした基準を示すことだ。


原発事故の経緯

3月
11日 震災と津波の被害で福島第1原発が全電源喪失。半径3キロ以内に避難指示。国が原子力緊急事態を宣言
12日 避難指示を半径20キロ以内に拡大。1号機で水素爆発
21日 福島、茨城、栃木、群馬の4県にホウレンソウなどの出荷停止を指示
30日 東電が1~4号機の廃炉方針を表明

4月
2日 2号機の取水口付近の穴から高濃度汚染水が海に流出
11日 「計画的避難区域」と「緊急時避難準備区域」の設定を発表
12日 原子力安全・保安院が、チェルノブイリ事故と並ぶレベル7に相当すると発表
17日 東電が事故収束へ工程表を発表
22日 半径20キロ圏を警戒区域とし立ち入り禁止に

5月
6日 首相が中部電力浜岡原発の運転停止を要請
10日 福島県川内村で警戒区域の一時帰宅
15日 政府が事故でメルトダウン(炉心溶融)が起きていたことを公表。福島県飯舘村で全村避難開始
31日 政府の紛争審査会が風評被害を賠償対象とする2次指針を発表

6月
2日 菅首相が原発の冷温停止などをめどに退陣すると表明
30日 福島県伊達市113世帯を特定避難勧奨地点に指定

7月
6日 九電玄海原発の再稼働をめぐり九電社員によるやらせメールが発覚
19日 事故収束の工程表でステップ1は「達成した」と評価。放射性セシウムの汚染肉牛の流通問題で福島県全域の肉牛を出荷停止に

8月
5日 政府の紛争審査会が多業種の風評被害を認定する賠償の全体像を示す中間指針を策定
15日 原子力安全庁の設置方針を閣議決定
29日 政府が原子力損害賠償紛争解決センターを東京都内に開所
30日 東電が損害賠償の支払額や必要書類などを示した補償基準を発表

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